強さ比べ
side.碧色
悠一を何とか慰め落ち着かせた所で、徒歩でボーダー基地へと向かう。
積もる話があるらしく、その速度はかなりゆっくりだ。
「あの戦いから何年経ったんだ?」
「2年だよ」
「2年かー。俺その間ずっとボーダーに閉じ込められてたのかー」
「何してたの?」
「訓練だよ。ちょくちょく起こされてはまさっちと訓練したり、仮想近界民と相手してたり……」
初めの頃は名前の身体になれなくて苦戦したっけ。でも訓練を積んだお陰で前のように動けるようになったぞ!……別に名前が重いとかそういう話じゃないからな。あと名前は結構軽いぞ。
「それより……その姿、どういうからくり?」
「ああ、これ?俺達もトリガーにある程度姿を設定できるだろ?あれを再現してみた!流石に名前の姿はな……」
「恥ずかしい?」
「いや、背徳感が……」
「なるほど」
「あ、悠一!俺の姿どうだ?生きてる時と同じか?」
「香薫さんにしか見えないよ」
良かった〜上手く作れたみたいだ。
「……って!!何も気にせず近界民倒してたけど、被害者とかいなかったか?俺、そこら辺気にしてなかった……!どうしよう、悠一っ」
「落ち着いて香薫さん。説明するから」
悠一によると、俺が戦っていた場所は既に人は住んでおらず、門を引き寄せる場所として指定された場所らしい。ボーダーの人間以外入ってこない場所なので、被害はないという。実際に今さっきやってたトリオン兵討伐も被害者はいないそうだ。
しかし、その範囲内に門を出現させるなんて……とんでもない技術だな。
「本当に知らないんだね。と言う事は香薫さんはボーダーの中のごく一部しか知らないってわけか」
「そう言う事になるな」
「あ、ようやく見えてきた。あれが今のボーダー基地。おれ達ボーダーの新しい基地だよ」
「前の基地はちっさい所だったからなー」
「まだ残ってるよ。あと、香薫さんの私物もそのまま」
「おおぅ、そうなのか。いやはや、置きっ放しで悪いな」
悠一と話しているといつの間にかそのボーダー基地が目の前に。へー、でっけぇ。
そのボーダー基地へ入ると目の前には仁王立ちのまさっちが。
「香薫!!その姿のこと、説明して貰うからな!庇えなくなったんだから洗いざらい話して貰うぞ」
「うへー。だって見られてるなんて思わなかったんだよー」
俺と悠一、まさっちはエレベーターに乗る。モニター室という部屋に行ってるらしい。
「なあなあ。きどっちとりんちゃんいるー?あと、例の鬼怒田って人」
「あまりべらべら喋るな。何処で誰が聞いているか分からないんだから」
「むー」
だって長い時間こうして話してられるの嬉しいんだもーん。あと、懐かしのメンバーに会えるのが楽しみなんだよ!
***
「さて、その姿について説明して貰おうか」
見えている視界には知らないおっさん3人と、りんちゃん、きどっち。あと知らない女。俺の隣にはまさっちと悠一がいる。
「まず、今この状態の時……ブラックトリガーに換装した時は苗字名前ではなく、“苗字香薫”と認識していただきたい」
「……冗談きついぜ、名前ちゃん」
りんちゃんが俺の言葉を否定する。……そりゃすぐに信じて貰えるわけないか。ま、想定内だ。
「悪いな“りんちゃん”。ブラックトリガー起動したら香薫になるんだよ」
前にまさっちに説明したように、此処にいる人達に俺というブラックトリガーについて説明する。……今まで庇ってくれたまさっちには感謝しないとな。
「じゃああの時……暴走だと思っていたのはお前がしっかり機能していなかったって事で良いのか?」
「そーゆう事。えーっと……名前なんだっけ」
「鬼怒田。『鬼怒田本吉』だ」
「あー!あんたが鬼怒田さんか!緊急脱出とか、門をある一定範囲に引きつけるとか!!まさっちからあんたの事聞いてたから会ってみたかったんだよー!」
「そ、そうか」
「香薫……困ってるだろ」
「ははっ、やっぱり香薫さんだ!」
会えたことに嬉しく、ついつい迫ってしまった。
まさっちからは溜息をつかれ、悠一にはゲラゲラと笑われる。何だよー、会ってみたかったのは本当なんだぞ?
「にしても、トリオンを貯めるトリガー、か。そもそもトリオンを貯めるなんて事ができるなんてなァ」
「ぶっちゃけ、俺の死に方が関係してるんだと思う」
トリオンはほぼない。名前を庇って貫通した身体。……命火は小さく燃えていて、風が吹けば簡単に消されるほどの弱い火だっただろう。
トリオンを貯めるっていうのは、その時の俺のトリオンがほぼなかった状況を表しているのかもしれない。魂がこうしてトリガーに封印されているのは、作成時にトリオンが少なかったから要として取り込んだのかな。
……前に自分の事はよく分かるって言ったけど、実際の所この部分はよく分かってないんだよな!
「喜べば良いのか、複雑だなぁ……」
「ま、そう言う事でよろしくな!」
りんちゃんが溜息をついたのは気にしないぞ!
しかし、さっきからずっと黙ってるな……きどっち。
「さて、俺の出番はもう終わりのようだし、そろそろ交代しますか」
「待て」
「……なあに、きどっち」
視線をきどっちへと向ける。視界に入るきどっちは無表情で、どこか怖い雰囲気を醸し出している。……でも、俺は怖いって思わないけどね。
「……話してくれて、ありがとう」
「!! ……本当は信じて貰えるって思ってなかった。きどっちは特に」
「何年お前を見てきたと思っている。……お前は正真正銘、香薫だ」
自分の目が見開いていく。
……きどっちは変わってなんかいなかった。表情は固くなってしまったけど、何にも変わってなかった。
そんなこと言われたら……戻りたくなくなるじゃん。でも俺は、此処にいる人達と同じ空間にずっと存在できないから。
「また機会があったら話をしよう、きどっち」
「……そうだな」
俺のわがままにきどっちはわかりにくかったけど、微笑んでくれた。
俺の存在は上層部って言われる、此処にいる人達と悠一のみの極秘情報となった。
まさっちと一緒にモニター室を出る。
……おっと、そろそろ時間のようだ。まさっちを見ると、俺の思っていることを分かってくれたのか頷いてくれた。
「___交代だ、名前」
交代の意思表示をした瞬間、俺の視界は黒く染まった。
強さ比べ END
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2021/03/02
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