強さ比べ

side.緋色



「私は苗字名前。知っての通り、香薫は私の兄です」

「やはりか。俺は『風間蒼也』だ。よろしくな」


現在、食堂
私は公平と、公平に回収されていった太刀川さんと別れて風間さんと食堂にいた。


「香薫の事は聞いている。……ボーダーの人間だった事も、殉職した事も後から知ったよ」

「……私があんなヘマしなければ……弱くなければ、兄さんは……っ」

「それ以上喋るな。一番辛いのはお前だろう」

「……何とも思わないんですか。私は兄さんが助けてくれたから、こうしてのうのうと生きているんですよ?ふざけるなって、思わないんですか」


思い出すのは、近界民ネイバーからの侵攻があってボーダーの存在が世間に公表された後、学校へと復帰した頃の事だ。

兄さんは生前、モデルとして活動していた。なので世間からの認知度もかなり高かった。兄さんは自分から見てもかっこいい人だと思う。何が言いたいのかというと、ファンの人が多くいたということだ。私と兄さんは顔がそっくりだったという事もあり、兄妹である事はすぐにバレた。

兄さんは死んだ。ボーダーに所属していた事は公表されず、近界民ネイバー侵攻の際に命を落としたとなっている。
あの侵攻では多くの人が亡くなった。その内の1人となっている兄さんに、食いつかないわけがなく。


『あんたの所為で香薫君が死んだって本当?!』

『許さない!私、香薫君好きだったのに!!』

『何であんたじゃないの!?』


耳を塞ぎたくなる程の暴言。……でも、それが真実だ。
だって私は兄さんに守られたからこうして生きているんだから。


『ごめんな……名前』


あの時の兄さんの顔が忘れられない。いくらブラックトリガーとして側にいる事が分かっていても、こうして会えないのは自分の所為だ。自分が弱かったから神様は兄さんを私から奪ったんだ。


『人殺しよ!人殺し!!』


……そうだ。私が兄さんを殺したも同然だ……!!
私が弱かったから、兄さんは私を庇って……ブラックトリガーになって、死んで……!!


「!!」

「落ち着け。誰がそんなことを言ったんだ」

「で、でも!あの人達が言っていたことは間違ってない。事実だ……っ!」

「そんな奴らの事は気にせず、好き勝手に言わせておけ。香薫はお前に生きて欲しかったから助けた。だからお前を庇ったんだろう?」

「! ……うっ、うぅ……っ」


いつの間にか隣にいた風間さんは、私の頭を優しく撫でてくれた。……その手つきが兄さんによく似ていて、涙が溢れ出した。


「俺の所にも似た様な話は回ってきた。……だが、俺がその話を聞いた時は“香薫らしい”と思ったがな」

「にいさん、らしい……?」

「知ってるか?彼奴、口を開けばお前の事ばかり話してたんだ。重度のシスコンなんて周りが言っても気にせず、むしろ嬉しそうにしてたよ」


風間さんは懐かしむ様に兄さんの話をした。……私が知らない兄さんの姿を。
だからなのか、こう思ってしまった。___この人になら、ブラックトリガー兄さんについて話してもいいと。





2021/03/02


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