出会い



出水君は突然やる気になったのか、「おれ、早く名前さんに教えられるようにランク戦やってきます!!」と言ってブースへと消えていった。
……そういえば私、ここで模擬戦できないかって思って此処に来たんだった。っていうか嵐山さん何処に行っちゃったんだろう?


「おー!ほんとに苗字いたー!」

「?」


キョロキョロと嵐山さんを探していたときだ。
後ろから大声で自分の名前を呼ばれ、振り返るとそこには太刀川さんがいた。


「太刀川さん、どうも」

「ここで何してるんだ?」

「えっと……」


今日知った模擬戦という奴をしようと此処に来たけれど、肝心の相手がいなくて困っている所だと太刀川さんに伝えた。
……瞬間、太刀川さんは私の手を取ってぶんぶんと降り始めた。


「模擬戦!!俺とやろうぜ!!!」

「あ、ああああの太刀川さん!?腕、腕が〜っ!!!」


どうやら太刀川さんは個人ランク戦をしに此処へ来たそうだが、私がこのC級隊員が使っているブースにいることを知って飛んで来たそうだ。


「わりぃわりぃ。でもお前と模擬戦できるなんて今日はラッキーだ!」

「私、この模擬戦ってものしたことがないので……お手柔らかに」

「手抜いたら楽しくないだろ〜。さあさあ、ブースに行くぞー!」

「あ、あの!自分で歩けますから!!逃げませんから!!背中押さないでくださいっ!!」


どうやら私を逃がす気はないようで、太刀川さんは私をブースへと押し込んだ。ブースの中に入ると機械的な女性の声が聞こえ、部屋の中が明るくなった。


「じゃあ簡単に説明するな。この操作パネルを使って対戦したい相手を選べる。俺達はC級隊員じゃねーからここを押して……」

「フムフム……」


太刀川さんから説明を受け、設備と操作をインプットする。太刀川さんは私に説明し終えると、空いてるブースに走って行った。


『よ!苗字!!』

「わっ!?」


あれ、出て行ってまだそんなに時間経ってないよね?!早くない!?


『201号室が俺な!さっき教えた通りに操作してみてくれ!』


えっと、此処を押して…201号室っと……。


『何本勝負にするか?初めてなんだろ?お前に任せるよ』

「うーん……じゃあ5本で」


いつも忍田さんとやってるときは5本勝負1セットだから。
……私と太刀川さんは同じ師匠を持つ者同士。さて、どっちが実力が上なのか!


「わあ……。すごい!」

「ほんとに初めてなんだな」

「はい!再現率高いですね!!」


転送されたのは架空の市街地だ。本物の市街地にしか見えないや。


『ランク外戦5本勝負。開始』


その声が聞こえた瞬間、目の前には太刀川さんが。


「もう始まってるぜ?……苗字」

「!!」


気付いた時には私は身体を弧月で貫通されていた。
『苗字、緊急脱出ベイルアウト。1-0、太刀川リード』と機械的な女性の声が聞こえ、ブースの中に戻ってきた。


「……転送の仕方、雑だなぁ。痛い」

『ほらほら、あと4本だぞ』


……これは思っていた以上に面白くなりそうだ。
次に転送されたのは市街地だけど先程とは違う位置だ。また目の前に太刀川さんがいる。


『2本目、開始』


太刀川さんはフライングしてそうな勢いでこちらへ接近してきた。咄嗟に私も弧月を抜き、受け太刀する。


「……っ、重い……!」

「じゃあもう一発増やしてやるよ!」


そう言って太刀川さんは2本目の弧月を抜いた。……二刀流か!!
流石に2本を同時に受けられるか自信がない。振り下ろされる前に今受けていた弧月を弾き、後ろへ交代する。


「お前も抜けよ。___もう1本の弧月」


そう。実は私も二刀流だったりする。これは完全に兄さんの影響で、二刀流になってしまったのだ。
弧月使いで且つ二刀流となれば……少しだけプライドがある!!


「では、2本でお相手させていただきます」


私が2本目の弧月を抜くと、太刀川さんはニッと笑った。
互いに構えて対面する。……そして、同時に走り込んだ。


「……」


すれ違い様に太刀川さんに3回連撃した。対する私は一回だけ斬られた。でも、脇腹を擦っただけだから緊急脱出ベイルアウトするほどじゃない。


「二刀流となると話が変わります。……私、弧月で二刀流となると負けたくないんです」

「……ははっ、面白しれぇ」


当時…まだボーダーが世間に公表されていなかった頃。弧月を二刀流で使っていたのは兄さんと私くらいだった。他にもいたにはいたけど、使用頻度は私達兄妹の方が一番だっただろう。
だからこれだけは譲れない。……弧月で二刀流を使う人には絶対負けたくないって思ったんだ。

『太刀川、緊急脱出ベイルアウト。1-1、タイスコア』と声が聞こえた後、私はブースの中にいた。
タイスコア、か。まずは1点取り返した。


『苗字!あと3本だぜ!!』

「はい。……よろしくお願いします!」


***


「ま、まさかの引き分け……」

「最後の最後で相打ちかー!ま、悪くねーな!」


ロビー
結果は2-2で引き分け。最後の5本目で相打ちで同時に緊急脱出ベイルアウトしたのだ。
なんかこの人と戦ってると、兄さんと戦っている気分になる。まあ兄さんの方が全然強いんだけど、共通点が多いっていうか……戦闘好きだし二刀流だし。


「楽しそうだったね?名前ちゃんと太刀川さん?」

「げっ、迅さん!?」


太刀川さんと会話していると目の前に迅さんが現れた。なんで此処に!!


「? お前ら仲悪いのか?」

「そんな訳ないでしょ!仲良し仲良し!」

「は・な・れ・ろ!!!」

「……本当にか?」

「これ、照れてるだけだよ」

「照れてないっ、つーの……!!太刀川さん、助けて下さいっ」


これの何処をどう見たら仲良しだって言えるんだ、この人!!頭おかしいんじゃないの!?


「こうなったら弧月で……!」

「相当嫌われてるな、迅」

「違う違う、愛情の裏返しって奴だよ」

「断じて違います!!」


この後忍田さんが来るまで解放されなかった。





2021/02/28


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