出会い



ボーダーという組織の存在が世間に公表されて時が流れた。
私がブラックトリガーのテストで色々と忙しくしている間に、どうやらボーダーに多くの人が入隊したらしい。……これって私が先輩って事になるのかな。あ、人生の先輩ではなくて経験者としての先輩ね。当然トリガーを十分に扱える人は今の時点でいうと新入隊員よりも圧倒的に少ないため、私も指導する方へ赴く羽目に。
私は弧月の使い方について説明する事になったのだが、私はどちらかというと感覚派なので口で説明するのは苦手だ。でもまだ他にも弧月使う人いるよね?何で私なの??桐絵は?


「あ!!こら名前!!堂々とサボるなんて良い度胸ね!!」


桐絵の事を考えてたらまさかの本人が目の前に現れた。びっくり。


「サボってないよ。休憩だよ」


桐絵……『小南桐絵』は私と同じくこのボーダーが世間に公表される前からこの組織にいた存在で、私と迅さんより前に入っている古株だ。
椅子に座っている私の真上から顔をひょこっと出していた桐絵の表情は如何にも不機嫌だ。


「ずっと訓練室に篭もってたんだって?何してたの?」

「え、っと……ブラックトリガーの件で」

「そのブラックトリガーってのは……これ?」


桐絵が私の左耳に付けているもの…ブラックトリガーを人差し指でツンッと触る。


「香薫さんでしょ。……やっぱりあんたが適合者になったのね」

「うん。それで、性能とか訓練とかで暫く忙しかったんだけど、やっと落ち着いたと思えば……今度は入隊した隊員の指導、か〜」

「大丈夫よ、トリオン体だったら疲れないから」

「精神的に疲れるんだよ……」


桐絵は元気だなぁ……。一歳しか変わらないのに、何かおばあちゃんみたいな発言しちゃった。


「っていうかなんでここに来たの?きり、え……」


後を振り返って桐絵に話しかけた……のだが、そこには驚きの人物がいた。


「はっ!?迅さん!!?」


桐絵の隣には迅さんがいた。桐絵、私が迅さんのこと嫌いだって知ってるのになんで!!


「迅じゃないわよ」

「え……じゃあ誰?」


……あれ、よくみたら迅さんじゃない…かも?いや、よく見なくても迅さんじゃない。だって髪の色が違うし。それに若干だけど髪型も違うように見える。


「紹介するわ。いとこの『嵐山准』よ」


桐絵のいとこ?まあよく見れば似ている気がする……。目の色とか特徴的な毛先とか似てるし。


「苗字名前です。よろしくお願いします、嵐山さん」

「ああ、よろしくな苗字!」


椅子から立ち、嵐山さんと対面する。
……っていうか何この爽やかな人!全然迅さんに似てないじゃん!ごめんなさい、勝手にうんくさい人だと思っちゃいました!!
ガクッと膝をつくと上から「大丈夫か!?」と嵐山さんが心配の声を掛けてくれた。優しい。


「気にしなくていいわよ、名前は准の眩しさに目が眩んでいるだけだから」

「そ、そうなのか?」


確かに嵐山さんの優しさとか爽やかさとかで目は眩んでしまったけど……。相変わらず桐絵は私に厳しい。まあでも、女の子で歳も近いし付き合いは長い。その雑な扱いは、私を信用している証拠でもある……はず。


「あ、あの嵐山さん。1つお聞きしてもいいですか?」

「ん?何だ?」

「あのー…誰かに似ている、とか言われません?」

「……はぁ」


桐絵は私の質問の意図が分かったのか、溜息をついた。流石分かりやすい子。……この場合私が分かりやすいのかな。あれ?
……ってか、私質問をしたのはいいけど嵐山さんが迅さんを知っている事を考えてなかった。やっぱなしだって言わないと___


「おれの事でしょ、名前ちゃん?」

「ひっ!?」


聞こえた囁き声と同時に後ろへと引っ張られる。そして何かに当たった。……振り向かなくても声で分かる。迅さんだ。
何とかこの拘束から逃れなくては!私は首に回された迅さんの腕を解こうと必死に抵抗する。……が、ビクともしない。


「お、迅じゃないか!お前も此処にいたのか!」

「よっ、嵐山」

「よっ、じゃない……!! 離せっ、変態……!」


私を無視して雑談を始めようとするな……!嵐山さんと話したいなら私関係ないでしょうが……!!
迅さんと私はあまり身長差がない。これでも身長が高い両親の遺伝子を貰っているので、私は14歳にしては結構身長が高いほうだ。何が言いたいのかというと……丁度良い位置に迅さんの鳩尾があるのだ。ここに思いっきり肘をぶつければ私の勝ちだ!!
くらえ、私の攻撃……!!


「残念だったね名前ちゃん。今“トリオン体”なんだ」

「な……ッ!」


思いっきり肘で鳩尾を突いたのに何の反応もないと思えば、そういう事だったのか……。
って、よく見たら隊服じゃない、くそぅ……!


「迅、嫌がっているんじゃないか?」

「大丈夫、照れてるだけだから」


照れてないっつーの!!
そうか!…じゃないですよ、嵐山さん!!納得しないで助けて下さい!!!
っていうか桐絵はどこにいったの!?もう誰でもいいから助けてええええぇぇっ。





2021/02/26


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