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side.緋色
忍田さんの部屋に着き、ソファに腰掛ける。
「飲み物は何か希望あるか?」
「じゃあ……コーヒーを」
コーヒーが飲みたいと言うと、忍田さんはインスタントコーヒーを作り始めた。……うん、良い匂いが漂ってきた。あと少しだけお腹が空いた。最近、やっと空腹を感じられるようになったんだよね。
「はい、どうぞ」
「……言ってくれれば取りに行ったのに」
「いいからいいから」
忍田さんはマグカップを置いて、机を挟んで私の正面に座った。……兄さんが死んでから、忍田さんは私をよく甘やかしてくれる。間違いなく気を使わせてしまっている。
……早く割り切らないと!兄さんが犠牲になった意味がないじゃない。
「さて、お前が一番気にしているだろう“ブラックトリガー起動後”について話そう」
「……お願いします」
一口コーヒーを飲んで、忍田さんは口を開いた。
「結論を先に言うと、お前はブラックトリガーを起動した後暴走はしていない。現に今日の性能テストでは高評価を貰っている」
「じゃあ、私はどうなっているの……?」
「……名前。今から言う事に驚かないでほしい」
忍田さんの真剣な眼差しが私を射貫く。
……暴走していないなら、何が起こっているの?私の頭脳では全く想像がつかない。
「___お前はブラックトリガーを起動した後、香薫になっている」
「…………え?」
兄さんに、なっている……?
忍田さんの言葉に理解が追いつかない。
「そうだな……、どういうからくりで香薫に変わっているから分からん。だが、事実だ。だから、“ブラックトリガーを起動した後はお前は香薫になっている”。そう思ってくれればいい」
未だに忍田さんの言葉を完璧に理解できたわけじゃない。
でも、その言葉を聞いて涙が溢れたのは___
「ど、どうした!?」
「わ、分からないけど……っ」
きっと『嬉しい』って思ったからだ。
「じつは、さっきの……ぐすっ、ブラックトリガーのテストでっ」
「まずは落ち着きなさい」
忍田さんは私が落ち着くまで待っててくれた。お陰で何とか落ち着きを取り戻した。
「……落ち着いたか」
「はい」
「ゆっくりでいいから、話してくれないか」
忍田さんの言葉に頷き、伝えたかった事を話した。
「意識がなくなる直前に、香薫の声が聞こえた……?」
「はい。だから、さっきの事を聞いたら、気のせいじゃなかったんだって思えて……っ」
再び泣きそうになった私を、隣に移動してきた忍田さんがそっと優しく撫でてくれた。
「嬉しい話の所、悪いがこの件…香薫の存在は秘密にしている。この事を知っているのは、このブラックトリガーの適合者である名前と私の二人だけだ」
忍田さんは口元に人差し指を当てた。
「この事は誰にも話してはいけない。……分かったね?」
「はい。……勿論、誰にも言いません」
忍田さんと兄さんからの約束だ。絶対に守るよ。
こうして私は暫くの間ブラックトリガーの性能テストを無事に終え、普段の生活へと落ち着いた。ブラックトリガーに兄さんがいる、こんなにも近くにいる。そのことが嬉しくて、前まで落ち込んでいたのが嘘の様に明るくなったとも言われたっけ。
「頑張ろうね、兄さん」
今日も兄さんを手に包んで眠る。
……こうしていると、兄さんが側にいる気がするから。
認識する END
2021/02/26
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