認識する

side.緋色



視界が明るくなる。
目の前に広がったのは、先程入った仮想空間。


『聞こえるか名前』

「えっ、はい」

『終わったから部屋から出てきなさい』

「わ、分かりました」


どうやら忍田さんは個別の通信機で私に話しかけてきたようだ。こんな事しなくても仮想空間に直接通信をいれればいいのに……。
それにしても、また記憶がない。私、ブラックトリガーを扱えていたのかな……。
不安な状態のまま部屋をでると、目の前に忍田さんがいた。ちょっとびっくりしたのは秘密。折角待ってくれてたのに言っちゃったら失礼だからね。
忍田さんは私の耳元に顔を寄せ、話し始めた。


「……後で私の部屋に来なさい。ブラックトリガーの件について話そう」

「! 分かりました」

「あと、上手く話を合わせてくれ」


話を合わせる?忍田さんの会話に??
首を傾げながらも、忍田さんの言葉に頷き先を歩く背中を追いかけた。……その時だった。


「お、名前ちゃんお疲れさま〜。いやぁ、強かった強かった」

「げっ、迅さん」


どうしてここにこの人が……!
横から現れたこの人物は迅悠一。私にとっては一応先輩に当たる。入隊順がこの人の方が早いからだ。
部屋から出て早々迅さんに会うなんて今日はついてない……。ここは目を合わせないようにして、会話を無視して___


「さっきの模擬戦、名前ちゃんの動きが視えなかった・・・・・・


迅さんの発言に驚く。
視えなかった、というのは迅さんの副作用サイドエフェクトを指しているんだろう。
迅さんは予知の副作用サイドエフェクトを持っている。だから私の行動のほとんどはこの人にバレており筒抜けだ。毎回その副作用サイドエフェクトのお陰で悔しい思いをしている。
だか、隣にいる迅さんは今視えなかったといった。恐らく記憶にない模擬戦という奴で私の動きを視る事ができなかったのだろう。


「遂に私の行動が読めなくなったんですね。嬉しいです」

「可愛い顔でそんなこと言わないでよ、傷つくなぁ」


どうせ何とも思っていないくせに。口に出していうのも面倒だ。
でも確かにおかしい。迅さんの副作用サイドエフェクトが効かないのは兄さんくらいだ。まあ副作用サイドエフェクト自体が効かないのではなく、聞いた話では迅さんの予知より速く兄さんが行動に出ているかららしい。流石兄さん!因みに普段の生活云々という戦闘面以外は普通に副作用サイドエフェクトは作用しているらしい。


「迅、悪いがこれから名前と話があるんだ」

「あー、用事だっけ?引き留めちゃってごめんね」


そう言って迅さんは私の頭をポンッと撫でて去って行った。……髪が崩れるから止めてっていつも言ってるのに……!


「では行こうか」

「うん」


***


(迅)


現在、おれは屋上にいた。
先程までおれは上層部に呼ばれ、ブラックトリガーの適合者となった名前ちゃんの相手をしていた。その模擬戦で俺はある違和感に襲われた。


「あの動き……明らかに香薫さんだった」


おれは最上さんがいない時、香薫さんと一緒に訓練をしていた。
あの人、ボーダーに入ってあっという間に才能が開花して即戦力になっちゃったという、とんでもない人だからなぁ。
で、その香薫さんの実の妹である名前ちゃんは、勿論香薫さんが指導をしていた為戦闘スタイルは非常に似ている。
……でもおれには分かる。あの戦闘スタイルは間違いなく香薫さんだ。だって名前ちゃんはブレードとか武器を回したりしないし、一撃一撃があんなに重くない。余裕そうに見える戦闘スタイルと言えば香薫さんくらいしかいない。


「でも香薫さんは……」


ブラックトリガーとなってこの世から去った。名前ちゃんを庇ってだと聞いた。


「見えなかったんだよな……さっきの模擬戦での名前ちゃんの動き」


まるで香薫さんと戦っているみたいだった、なんて。





2021/02/25


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