私を待ってくれた人達



「それよりさ、もう俺達恋人同士なんだから、おれの事名前で呼んでよ」

「名前……」

「だって、おれは名前ちゃんのことを名前で呼んでるのに。後輩には普通に名前で呼んでるし」

「だって歳下だし……」

「それで言うなら、レイジさんは歳下じゃないよね」

「うぐ……っ」


名前呼び……今まで特に気にした事なんて無かった。私達兄妹は名前で呼ばれ慣れているから、そこから相手を名前で呼ぶことも気にならなくなったのかもしれない。
だと言うのに、どうして迅さんの名前を呼ぶことに、こんなにもためらいがあるのだろう。……いや、ためらいというより、恥ずかしいという気持ちだ。


「ほら、呼んでよ。『悠一』って」

「……ゆ、悠一……さん」


ほら呼びました!!
と、ほぼヤケクソで口にした瞬間、再び抱きしめられた。


「はぁ……想像よりもずっと可愛い」

「え、か、かわ……っ!?」

「いちいち反応が可愛いし、顔を真っ赤にして照れてるし……おれがそうさせてるって思うと、本当たまんない」

「う、うぅ……」


迅さん……じゃないや。悠一さんの言ってる事は事実で。
そのことにまた顔が熱くなった。


「ま、今はさん付けでいいけど、いつかは呼び捨てと普段の言葉遣いから敬語を外せるようになってほしいな」

「え? 何でですか?」

「何でって……おれ、恋人止まりのつもりなんてないよ」

「恋人止まり……って?」

「いずれは家族にってこと」


悠一さんの言葉に思考が一時停止する。そして、その言葉の意味を理解した瞬間、私の頭は爆発した。


「な、ななな……!」

「やっと長年の片想いが叶ったんだ。嫌でも話してやんないよ」


ずっと言われっぱなしなのも悔しいので、何か言って悠一さんを困らせたい。いまだに軽くパニック状態の頭をなんとか動かし、良い内容を思い着いた。



「……わ、私だって……」

「ん?」

「私を、こんな気持ちにさせたことについて……せ、責任とってください!!」


そう言った瞬間、迅さんの顔が近づいて来た。反射敵に目を瞑った瞬間、額に軽い衝撃を感じると同時に、リップ音が聞こえた。



「……そんな可愛い責任、おれにしかとれないでしょ」



……それが何なのか分からない程、私は鈍くない。



「ははっ、名前ちゃん今日一番に顔赤いよ」

「〜〜〜っ!! うるさい、ですっ」



額にキスされた。迅さんに。
しかも、また顔を赤くしているらしい。

恥ずかしい私とは反面に、迅さんはイタズラが成功したような表情を浮べている。



「……ずっと一緒にいてね」



今日何度目か分からない抱擁。まだドキドキしているけど、やっと落ち着いて状況を受け入れることができるようになった。

……兄さん。
兄さんが悠一さんから聞けって言ってた内容って、もしかして悠一さんが私の事を好きだったからってことだよね?
そう考えると、ずっと前から私を好きだったんだって改めて思ってしまう。


どこかで初恋は叶わないって聞いた事がある。けど、こうして叶ってしまった。現実になってしまった。しかも、お互いが初めてだったなんて、そんな奇跡あるのかな?



「……はい、勿論です」



悠一さんからの問いに「はい」以外はなかった。……その言葉は私だって同じだ。
本当は戦争の真っ只中でこんな色恋沙汰はダメなのかもしれない。でも、それでも私はこの人と同じ気持ちでありたいんだ。

終わりの見えない戦争の中でもいい。平和が訪れるのがいつになるか分からなくてもいい。……先が見えなくたって、ずっと貴方と一緒の未来を歩いていたいんだ。



「ずっと……一緒にいさせてください」



先が見えない未来でも一緒にいよう END



next→あとがき





2022/9/25


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