私を待ってくれた人達



「苗字せんぱ〜いっ!!!起きたんですねええええっっ」

「さ、佐鳥君っ」


1月31日
私の意識が戻ってから2日が経過した。


病室のドアが開き、そこに立っていたのは嵐山隊だった。ゲームをしていたため顔を下げていたんだけど、誰か来たなと思って顔を上げたら誰かが飛びついてきた。……とはいっても、声で分かるんだけどね。

私が嵐山隊に所属していた時もよく飛びつかれてたし。


「苗字、目が覚めて良かったよ」

「はい、なんとか」

「苗字せんぱいいいいいいいっ」

「佐鳥先輩うるさいです」


嵐山さんと会話していると、いまだに抱きついている佐鳥君の声に遮られ会話が止まった。ちなみに佐鳥君を注意したのは木虎ちゃんである。

あ、木虎ちゃんといえば!


「木虎ちゃん!」

「は、はい!」

「私、木虎ちゃんともっと仲良くなりたい! だから、その……名前で呼んでもいいかな……?」


彼女以外の嵐山隊メンバーとは何だかんだ付き合いが長いから、割と自然に話せる様になった。それってさ、仲良くなったって意味だと思うんだ。
木虎ちゃんの事は前から知ってるけど、こうして話すようになったのは最近だ。今後も嵐山隊とは仲良くいたいし、木虎ちゃんのことをもっと知りたい。

それに柚宇が言ってたんだ。名前呼びは仲の良さが一番分かるって。


「せ、先輩がいいなら……!」

「ほんと? 嫌じゃない?」

「嫌な訳がありません!!」

「よ、よかったぁ。あ、私の事も名前でいいからね、藍ちゃん」

「は、はい! 名前先輩!!」


木虎ちゃん……じゃないね。藍ちゃんは少し顔を赤らめて私の声に返事をした……けど、恥ずかしかったのか嵐山さんの後ろに隠れてしまった。


「木虎は苗字の事をよく見てるよ。まだお前が所属してたときのランク戦の記録をよく見てる」

「あ、あああ嵐山先輩っ!!」

「そうなんですか? は、恥ずかしいな……」


藍ちゃんは否定するように声を荒げたけど、嵐山さんは嘘を付くことができない人だ。間違いなく事実である。でもなぁ、私が嵐山隊にいたときの記録は高確率で黒歴史なんだよなぁ……だって部隊に所属してたなら当たり前の行動を知らないまま好き勝手やっちゃってたんだもの。初めの頃は連携全然出来てないし、迷惑掛けてばっかりだったし……。


「嵐山隊の時の私、軽く黒歴史なんだよね……」

「そんなことありません! 全部かっこいいです!!」

「そ、そう? そう言われると照れるな……ありがとう」


藍ちゃんの言葉に今度は私が照れる番だった。


「そ、それよりっ。広報の仕事もあるでしょうに、来てくれてありがとうございます」

「いえいえ。苗字先輩は抜けてもおれ達の仲間ですから」

「時枝君……!」


どうしてこうもかっこいいのだろうか、時枝君は……。いつまで経っても彼のかっこいい所には憧れる。私そんなかっこいい言葉すぐに出てこないよ……。これが中身までイケメンな人なんだねって改めて実感したよ。


「びっくりしたんですよ? 名前先輩が大怪我を負ったって聞いて……っ」

「あああ泣かないで遙ちゃん!?」


悲しそうな顔を浮べていたと思えば、その瞳に涙を溜め始めたではないか!
遙ちゃんの悲しそうな顔と涙に私は弱い。だって罪悪感が……また言っちゃった。


「いつ頃退院なんですか?」

「このまま順調にいけば2月5日に退院予定だよ」

「やっぱり怪我が酷かったから、様子を見なくちゃいけないんですか?」

「そうなのかな。でも、身体動かしたらまだ少し痛いから、そう言う意味なのかも」


私が怪我を負ったのは、両手と横腹だ。手についは手の甲の負傷で、あまり激しく動かさなければ痛みはない。ゲームをしても特に問題はない。
だけど、お腹に負った怪我が一番酷いらしく、身体を起こすときに痛みが走る。


「無理しないように気を付けてくださいね」

「ありがとう。早くボーダーに戻ってみんなに会いたいから、気を付けるよ」

「うぅ、明日オレ解説なのに先輩これないなんて……」

「あ、もう明日からランク戦なんだ。見に行けないけど、解説頑張って」


いろいろ話しているうちに時刻は夕方。昨日も思ったけど、誰かと時間を過ごすって時間経過が早く感じる。


「じゃあそろそろ行こうか。安静にな、苗字」

「ありがとうございます。みんな頑張ってね」


病室のドアが閉まりきるまで、私は嵐山隊を見送った。向こうも閉まりきるまでこちらに手を振ってくれた。


「……よし、安静に安静に」


言われたことを復唱し、早く退院する意気込みを高めた。……まあ、余計な事しなければ良い話なんだけどね。





2022/5/8


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