未来視通す者にも選択肢を

side.迅悠一



「ここが最後に名前ちゃんがいたと確認できた場所……」


先程、本部から名前ちゃんがいたと言う場所の情報を貰った。その場所は幸運にもそう時間が掛からず辿り着く事ができた。


「……んで、少し先が名前ちゃんが最後にブラックトリガーを起動した場所……って」


おれの視界に映ったのは、赤い何か。
言われなくても分かる……血だ。間違いなく名前ちゃんが流した血。

もし名前ちゃんがブラックトリガーを起動していなかったら……間違いなく名前ちゃんはあの場所で死んでいた。


あの時おれが視た未来は2つ。
一つは名前ちゃんがブラックトリガーを起動して生存する未来。そしてもう一つは、その場で命を落とす未来。幸いにも連れ去られる未来はなかった。

だからおれは、名前ちゃんがどこかにいることを確信できているんだ。


……いや、幸いなんて言えない。名前ちゃんは怪我をしているんだ。おれの副作用サイドエフェクトがきちんと機能していれば、名前ちゃんがこんな目に遭うことはなかった。


『名前はワープのトリガーを使う近界民ネイバーと接触している。最後に確認できた位置と、名前がブラックトリガーを起動した位置から推測すると、ワープのトリガーを使う近界民ネイバーと交戦していた可能性が高い』

「……忍田さん、名前ちゃんの血痕らしきものを発見したよ。出血が多い、輸血の準備もお願い」

『了解だ。他に何かあれば報告頼むぞ、迅』

「勿論」


確か名前ちゃんはO型だったはずだ。O型の血は輸血する側としては重宝されると聞いた事がある。だけど、その逆……O型の人が輸血される側である場合は、O型の人のみから輸血を受ける事ができないという。

今本部に名前ちゃんと同じO型の人がどれだけいるのか。珍しい血液型ではないはずだから、大丈夫だとは思うけど……。


「? ……これ」


辺りを見渡していると、何かを踏んだ感覚がした。
足下を見ると、見覚えのあるものが落ちていた。拾って掌に乗せると、それはおれが思っていたものだった。


「忍田さん、通信機見つけたよ。恐らく名前ちゃんが身に付けていたものだ」

『状態は』

「ボロボロだね。おれが踏んづけちゃったけど、それだけで壊れる代物じゃないはずだから……元々ボロボロだったのかもしれない。だから落としちゃったのかな」

『なるほど』


耳から外れない作りであるはずなのに落としていると言う事は、激しい戦いを繰り広げていたのか、この通信機自体に敵の攻撃が直撃していたのか。真実は分からないけど、その2パターンが考えられる。

おれはその通信機をポケットに仕舞い、場所を移動する。
この付近に名前ちゃんが、香薫さんがいたことは間違いないはずだ。この場所を中心に見渡せば何か手掛かりが……。


「……ん? あれは……」


おれの視界に入ったのは、見覚えのあるキューブ。それもかなりの数だ。
確かこのキューブは、トリオンをキューブへと変化させたやつだったはず。と言う事は、香薫さんはキューブ化させる能力を持つトリガーを使う近界民ネイバーとも交戦していたと言う事になる。


「忍田さん。この辺りで近界民ネイバーが出た記録ある?」

『確認する。……ゲートが開いた記録はないな』

「ということは、あのワープのトリガーでってことかな……」

『何か発見したのか?』

「例のトリオン体をキューブ化させるトリガーのやつ。ここにもあるんだよ」


尋常じゃない量のトリオンだ。
一体どんな戦いを繰り広げていたんだろう。……名前ちゃんが死ぬ未来が視えないということは、生きていると言う事。そして、香薫さんはその近界民ネイバーとの戦闘を切り抜けたということになる。……流石だよ、香薫さん。

他にも何かないか辺りを見渡していると、あるものが視界に入った。
近付くと、その物体は電気を帯びているのか、時折稲妻を走らせていた。


「これは、香薫さんの……!」


……おれはこの物体を知っている、
この物体は香薫さんが作っているブレードに酷似している。この物体が存在しているということは、まだ名前ちゃんがブラックトリガーを起動した状態であると言う事だ。


「近くにいるのか……?」


少し先へ足を進めると、同じ物体が地面に転がっていた。……まるで導かれている気分だ。


「忍田さん。……名前ちゃんの居場所、分かったかもしれない」

『本当か!?』

「うん。香薫さんが”足跡”を残してくれたんだ」


きっと香薫さんは何もかも分かって”これ”を残した。……おれが来る事も分かっていたのかもしれない。
本当、予知の副作用サイドエフェクトを持ってるんじゃないかって思い込んじゃうよ。


「ありがとう、香薫さん。……今から行くよ」


一定の間を開けて落ちている物体を頼りにおれは足を進めた。
その先にいるであろう人物に会いに。





2022/4/23


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