大規模侵攻・後編
side.碧色
「!?」
突然足がもつれた感覚が襲い、その場に膝を付いてしまった。
急な展開に驚いていると、上から男の声が聞こえた。
「どうやら不意打ちを狙っていたのは、お互い様だったようだな」
男の言葉を聞きながら俺は足下を見る。
俺の視界に映ったのは、ぐにゃぐにゃに歪んだ片足と、もう片方の足を這っているトカゲだった。そのトカゲは先程まで見た鳥と魚によく似ていた。
「ッ!?」
そして、片足を這っていたトカゲがはじけたと思った瞬間、俺は地面に両膝をついていた。見てみれば、もう片方も同じく歪んでしまっていた。
立とうとしても力が入らない……やっぱりあの男の攻撃は食らったらまずいと思ったのは間違ってなかった。
「やはりいい能力だ、そのブラックトリガーは」
男の掌に浮かぶ白い卵のような何かが輝き出す。
すると、近くに散らばっていたキューブが吸収されて行くではないか!
「うそ、だろ……?」
キューブが吸収されていくと同時に、男の傷が塞がっていく。漏れていたトリオンが止まる。
それはつまり、トリオン体を修復したということだ。
あり得ない。トリオン体は一度欠損したら回復させるのは不可能だ。でも、ブラックトリガーならその反則的な能力も実現できるのでは?
ダメだ。
今の俺ではあの男を倒す事はできない。攻略法を探すには、時間もトリオンも足りない。
モヤモヤした気分だけど、こればっかりは無理だ。何よりも名前の命を抱えながら戦う相手じゃない!
「さあ、今度こそ大人しく着いてきて貰おうか」
「……断るって言っただろ」
「この状況でまだ言うか」
……恐らく相手は、俺にはもう為す術がないと思っているはずだ。
だけどな、俺はブラックトリガーでいうなら自由度が高い能力を持っていると自負している。ブラックトリガーは備わった能力によって振り幅が大きい物があれば小さい物もある。攻撃に偏っていたりな。
その分俺は、バランスがいいと思っている。思い描いたイメージは大体実現させることができる。つまり、引き出しが多いってことさ!
「卵の冠」
大量の鳥が俺に向かって飛んでくる。
確実に俺を倒す気だ。
防ぎ続けても状況が変わらないのはもう分かった。躱したくても足は使い物にならない。切り落としたいところだけど、逆に状況が悪くなるのが目に見える。
「!!」
___だったら全部、吹き飛ばせばいい!!
内蔵されているトリオンを消費して、瞬間的に爆発を起こす。簡単に言ってしまえば敵味方関係無しの無差別攻撃だ。
俺が今認識している技の中で一番の破壊力を誇る。
ほら見て見ろ、俺に向かって飛んできていた鳥も、ゆっくりと近づいて来ていたトカゲも、それらを操る男も巻き込んで吹き飛ばした。相殺する暇などないだろ?
「……なるほど。俺が思っている以上にまだ動けるようだ」
土煙が辺りを漂う中、男の声が聞こえた。
咄嗟に俺は周りに壁を張る。
「……ま、散らせただけマシか」
鳥やトカゲはいなくなった。周りに散らばっているキューブがその証拠だ。
しかし、男は無傷だった。恐らく周りを浮遊している魚で防いだんだろう。
あの魚やら鳥やらトカゲやら……攻撃するだけで相殺できるって話じゃないのか。威力ではなく、数で相殺する必要があるのか?
そうなると今俺が使える技では対処しようがないな。何度も爆発を発生させるのは、視界が悪くなるデメリットもあるから連発はできない。トリオンの消費量もまあまあ多いし。
「しかし、このまま相手をしていては『金の雛鳥』を逃してしまう。残念だがここまでだ」
ミラ、と男が口にすると相手の背後に見覚えのあるゲートが開いた。そのゲートの奥には、俺が探していたあの女がいた。
くそ、視線の先に狙っていた敵がいるというのに……!
「諦めたわけではない。……次に会う機会が訪れた場合、必ず迎えに来よう」
それまでお別れだ。玄界の女兵士よ
その言葉を最後に近界民の男はゲートの中へ姿を消した。
……そして、俺の周りに静寂が訪れた。
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2022/4/23
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