大規模侵攻後編

side.緋色



「これから回収に入ります」



痛みで身体が動かない。
視界もぼやけていて、瞼が意識に逆らって段々と落ちてくる。
……もう、考えるのもきつくなってきた。

本当に死んじゃうの?
それとも、近界民ネイバーに連れて行かれて、その国で死ぬのかな


……ダメだ
弱気になってしまっている
昔の自分に戻ってしまっている

やっとのことでこの気持ちとさよならしたというのに
自分が納得いく強さを手に入れたというのに


___あの人への気持ちを自覚したのに



「いや、だ……」



頭をよぎったのは、今まで嫌いだった人
だけど、今思えば嫌いだったんじゃなくて苦手だったんだと気づいたんだ

だって嫌いだったらそもそも話したりしないもの
苦手と嫌いは違うんだって兄さんが教えてくれたもの



「いやだ……っ」



『名前ちゃん』


あの人を一人にしたくないって思ったのも、あの人の辛そうな顔を見たくないのも……それは、あの人に笑っていて欲しいから。
願わくば……今更だけれど私が笑わせたい。

あの人がどういう理由で私と関わってくるのか未だに分からないけれど、それが今までの態度を改正させてもらえるきっかけになるのなら。させてもらえるのなら。


「まだ、死にたくない……!」


生きて、あの人の側にいたい……!

ねぇ兄さん。
どうして兄さんがよく迅さんについて聞いてくるのか、コンビを組ませたのか、関わりを持たせたのか……今なら分かる気がする。

私もあの人を支えたい。
いつの間にか余裕な姿しか見なくなって、その姿が定着してしまっていた。……だけど、本当のあの人はずっと怖がっていた。自分の副作用サイドエフェクトによって、誰かを救えないことを。

そして、私はあの人がその副作用サイドエフェクトを理由に自分が悪いと決めつけている所が許せなかった。
誰もそんなこと言っていないのに、自分を悪とする。もしかしたら、嫌いだと思っていたのはその部分があったからなのかな。


……あぁ、これって走馬灯ってやつなのかな。死に際で起きるって聞いたことあるけれど、私はもう死にたくないって思ってしまった。

だから、どうにかしてトリガーホルダーを取ってトリオン体にならないと。


「!」


そうだった。目の前にいる近界民ネイバーが私のトリガーホルダーを遠くへ蹴り飛ばしたんだった。
これだと戦えない……いや。


「……いっ、」


まだ、トリガーはある!
この左耳に!

痛む腕を動かして、左耳へ手を伸ばす。



「……おねがい」



まだ私、死にたくない……死にたくないよ……!



「たすけて___兄さん……!」



その言葉を口にしたと同時に、私の身体が新型に掴まれた。
それを感じたと同時に視界が暗くなった。

痛みはもう感じなかった。



「___当たり前だろ。後は俺に任せてくれ」



消える意識の中、兄さんの声が聞こえた気がした。





2022/4/17


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