大規模侵攻・後編
side.緋色
「ターゲット確認」
女性のものと思われる声が聞こえる方を副作用で視界を広げ確認する。
視界に映ったのは、声の通り女性だった。ただし、人間とは思えない形だった。だって普通の人なら角は生えていない。
だから、一目で分かるその特徴で瞬時に近界民であると頭が判断した。
報告、しなきゃ……近界民だって、忍田さんに……!
「しのだ、さ……」
『名前! 何が遭った!?』
痛みに耐えながら声を出すと、忍田さんはすぐに反応した。
通信機は機能してる。正常に動いて良かった。
「つ、の……近界民が……!」
『角……! 色は!?』
「く、ろ……っ」
『黒……ブラックトリガーか!』
どうやら本部側は敵国が何者なのか把握しているらしい。
残念ながら私はこの戦争について詳細を聞いていない。
いくらS級という位でも、昔からボーダーにいるという立ち位置でも、知っている事と知らない事がある。作戦会議みたいなヤツに私は参加したことがないからだ。あーいうのは迅さんとか風間さん、東さんクラスが出席してると聞いたことがある。
つまり何が言いたいかと言うと、敵の情報について私は何も知らないという事だ。
そして、今分かっているのはあの女性がこの戦争を起こした国の人間の1人であることと、ブラックトリガー使いだと言う事。
「初めまして、玄界の兵士」
コツコツと足音を鳴らして女性が近付いてくる。
女性の背後で門が開き、新型が2体現れた。
このままでは殺される。生身でいるのが一番まずい。
「とどけ……っ」
トリオン体へ換装すれば、まだ勝機はある……!
最悪負けても緊急脱出で本部に逃げられる!
少し先に落ちているトリガーホルダーへ、負傷していない手を伸ばす……が。
「ッ、あああっ!!!」
伸ばした手を黒い釘が貫通した。
トリオン体には換装させないと言うように。
「う、うぅ……っ」
もう少しで届いたのに……この釘みたいなものが刺さっている状態では動かせない……っ。
「大人しくしていれば悪いようにはしないわ」
女性は私の目の前まで来ると、トリガーホルダーを遠くへと蹴り飛ばした。
……もう私に残った術はない。
「我々は貴女をスカウトしに来たの。貴女のトリオン能力を見込んでね」
スカウトなんて綺麗に言っているけれど、私を自国へ連れて行くって事だ……!
「残念だけど貴女に拒否権はない。早速だけど我々に着いてきて貰うわ」
1体の新型が私の元へとゆっくり近付いてくる。
その光景を私はただ見ていることしかできない。
『し………ろ、……を!!』
右耳から忍田さんの声が聞こえるけど、何を言っているのか頭が判断できない。
瞼も重たくて、閉じてはダメなのに抗えない。
……私、ここで死んじゃうの?
それとも、あの女性に連れて行かれるの?
『危険だと思ったらすぐに知らせること。それくらいかな』
迅さん
私、危険だと思ったのに遅かった
思った時にはもう身体が地面に倒れてた
迅さんにはこの状況が見えていたって事なんだね
こんなのさっさとトリオン体になっていれば回避できたのに、油断していたんだ
私は強くなった
昔の弱い自分より強くなったんだって思い込んでたんだ
なのに今私は地面に伏せてる……あっけなく敵にやられた
「ハイレイン隊長。……例の玄界の兵を捕獲しました」
……私、あの人にこの気持ちを告げられないまま死ぬのかな
知らない国に連れて行かれちゃうのかな
「これから回収に入ります」
2022/4/17
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