大規模侵攻・前編



「ありがとうございました……!」

「無事で良かった。その……間に合わなくてごめんね」

「でも、こうして取り返すことができました。それに、俺じゃ助ける事はできなかった……だから、ありがとうございます!!」


次に向かった場所は、到着したときには既に1人捕獲されていた。

単独で倒すのも難しい
そう言われていたが、一刻も早く助け出さなくてはならない。そう思い、新型に単独で挑んだが……意外と倒せた。

最初の新型は半不意打ちだったから倒せたのだろうと思っていた。しかし、先程倒した新型は真っ向からの勝負だった。
言われていたとおり、確かに強い相手だ。レパートリーが弧月だけだったら私勝てなかったかも。太刀川さんは知らないけど。

だが私には公平直々から教えて貰ったシューターの技術がある。弧月とアステロイドで相手を翻弄しつつ、できた隙を狙って真っ二つ。
どうやら最も硬いのが腕らしく、他の部分は腕よりは硬くないようだ。あの腕を先に切り落とせば楽かも。

まあ、それを簡単にはさせてくれなかったから時間が掛かったんだけどね。
それに、側にいるB級隊員を守りながらだったって言うのもある。


「こちら苗字。新型を討伐しました。しかし、1人隊員が捕獲されてしまい、キューブ化されています」

『それに関しては既にエンジニアが対策中だ。至急、こちらへ届けるよう伝えてくれ』

「了解。……というわけで、本部までこのキューブを届けて下さい。大丈夫、ボーダーのエンジニアはすごい人です。必ず元に戻りますよ」

「はい……!」

「護衛してあげたいところですが、私は次の所へいかなくちゃいけないので着いていけません。今の所、この道真っ直ぐ向かえば安全です。新型もトリオン兵も見えないので」

「分かりました、ありがとうございます!」


こちらへ頭を下げた後、本部へと向かってくB級隊員2人を見送る。
彼らの背中を見送って、次の場所を探そうとした瞬間だった。


「!!」


突然、私の目の前で大量のゲートが開いた。
咄嗟に物陰に隠れ、様子を窺う。


『名前! どうなっている!?』

「そちらでも確認できてると思いますが……20、30……数がどんどん増えてます」


私の視線の先には、突如開いたゲートから現れた大量のトリオン兵。
新型はいないようだけど、流石にこの数を1人は無理だ。……だったらの話だけど。


『近くの隊に救援を要請する』

「いえ、その必要はありません」

『何バカな事を言っているんだ。流石のお前でもこの数は無理がある!』

「誰が私がやるって言いました?」


私の言葉に忍田さんは気づいただろうか。
前の自分より強くなったとは思っているけれど、流石にこの数を1人で倒せるとは思っていない。

何故私の目の前にゲートが現れたのか。とてもじゃないけど、偶然とは思えない。意図的に開いた気がするんだ。
しかし、その意図を考える暇はない。一刻も早く目の前のトリオン兵を討伐しなければ。


「こんな量のトリオン兵、私では処理しきれません。でも、ブラックトリガー兄さんならできます」

『……ブラックトリガーか』

「はい」


ノーマルトリガーとブラックトリガーでは、当然出来る範囲が違う。
この状況はまさに、ブラックトリガー……兄さんの力が必要だと思うんだ。


「忍田さんの許可がないと使えないんです」

『分かっていながら勝手に起動していたのは、どこの誰だ?』

「……えへ」


忍田さんの言葉に返す言葉が見つからず、とりあえず誤魔化しておく。多分誤魔化せていない。


『私の許可なしでブラックトリガーを起動することはできない。だが、名前の目の前にある光景は……その時なんだろう?』

「……はい。それに、この光景は兄さんが大好きなシチュエーションです」


何年もの間、兄さんの隣で戦ってきたから分かる。
視界いっぱいに存在するトリオン兵は、兄さんだったら間違いなく突っ込んでいくだろう。


「ほとんど眠っている状態で、起こされてもずっと同じ相手。きっと退屈だって言ってます」

『そうだな』

「大丈夫です。こんなトリオン兵は勿論、新型なんて兄さんの相手じゃありません」

『……分かったよ、名前』


忍田さんが一息置いて、私へ命令を投げた。


『___ブラックトリガーの使用を許可する!』


その言葉に口元が緩んでいく感覚がした。


「ありがとうございます、忍田さん」


忍田さんから許可を貰い、私はその場でトリガーオフする。
ノーマルトリガーを起動した状態でブラックトリガーを起動することはできないからだ。

トリオン兵に見つからないように移動し、見晴らしの良い場所……兄さんが敵を認識しやすい場所へ移動する。


「……見て、兄さん。トリオン兵が沢山」


左耳に付けたブラックトリガーに手を添える。
こうしていると、兄さんと会話出来ている気分になるんだ。兄さんに話す時は必ずブラックトリガーに触るという行為が、いつの間にか普通になった。


「私ではあの量のトリオン兵は倒せない。だから、兄さんの力を借りたいんだ」


副作用サイドエフェクトで周りに他の隊員がいないか確認する。まあ忍田さんが許可したということは、いないって事になるとは思うけれど。

兄さんの存在は上層部と迅さんだけが知っている。他の隊員は勿論、桐絵やレイジさんも知らない。
だからこそ、確認する必要があった。兄さんは生前の姿へと変わることができるから。


「……お願い兄さん。力を貸して!」


その言葉にトリガー起動の意思を乗せる。
瞬間、視界が真っ暗になると同時に___



「任せろ、名前」



力強い声……兄さんの声が聞こえた。
その言葉を最後に私の意識は途切れた。



大規模侵攻・前編 END





2022/4/15


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