玉狛の新人トリオ
side.雨取千佳
『こ、こちらこそはじめまして苗字名前です』
迅さんが帰ってきた時、隣にいた女性……苗字先輩の顔は見覚えがあった。
それはテレビによく出ている嵐山隊に入っていた時期があったからだ。
入隊期間は1年と短いけど、女性ボーダー隊員という事もあり1番印象に残ってた。
宇佐美先輩にボーダーについていろいろ教わるまで、ボーダーがどんな事をしているのか詳しくは知らなかった。
近界民から町を守るため、命懸けで戦っている。
その1人で、自分と同じ女の人って事もあって少しだけ憧れていたのかもしれない。
遊真くんと出会って、ボーダーに入る事になって……そこでふと思い出したのが苗字先輩だった。
自分の師匠であるレイジさんが苗字先輩の事を知っているかどうかは分からないけど、とりあえず聞いてみたら知り合いだった。
本人のいないところで私はレイジさんから苗字先輩について教えて貰った。
それは……
「えっと……その。苗字先輩は戦うことが好きなんですか?」
「好きかどうかって言われると……嫌いかな」
「でも、さっき模擬戦をよくやってるって言ってませんでしたか?」
「あくまで模擬戦だからね。本当に戦っているんじゃないんだし、それにもしもの時の訓練になるからよくやってるだけ。模擬戦を通していろんな人のことを知れるし」
苗字先輩は戦う事が嫌いだってこと。
レイジさんと同い年だったというお兄さんの影にずっと隠れている人だったそうだ。
でも、聞いてた話と違ったから少し気になって。
だから夕食後に苗字先輩に尋ねてみた。……流石に周りに人がいる中、発言するのはちょっと気になるというか、緊張するから。
「……レイジさんに苗字先輩はトリオン能力が高いって聞きました」
「今の所はね。どうして?」
「私もトリオン能力が高い方で、その……ちょっと似ているなって思って」
「……あぁ、そういえば例の基地の壁に穴が空いた事件! それ千佳ちゃんだったんでしょ?」
「えぇっ!? えっと、はい。そうです……」
「基地の壁に穴を開けるなんてすごいトリオン能力だね。多分私より高いんじゃないかな?」
「そ、そんなことないです……!」
私が1番聞きたいのはここからだ。
……苗字先輩だったらどんな選択をするのかっていう質問。
「……もし、先輩の大切な人が近界民に攫われたら……苗字先輩はどうしますか」
私と同じくトリオン能力が高いという苗字先輩だったら。
大事な人が攫われたらどうするのか聞いてみたかった。
「……探しに行くと思う。やっぱり心配だもん」
「そう、ですよね」
「千佳ちゃんもそうなんでしょ?」
「え、なんで知って……」
「ごめんね。さっき空閑君から教えて貰って。探しに行きたいんでしょ?」
「……はい。初めは修くんには猛反対されたんですけど、やっぱり自分で探しに行きたくて」
「ボーダーにはいろんな事情で入隊している人がいる。……大切なものを奪われて、その恨みを晴らすために入隊した人、探す為に入隊した人……いろんな人がいる。だから、千佳ちゃんが大切な人を探すために入隊を決めた事は間違ってないよ」
「……ありがとう、ございます」
「いいえ。遠征部隊に選ばれるためにA級目指してるんでしょ? 頑張ってね」
今まではテレビを通してしか見た事が無かった人から、直接言葉を貰えた。
でも、その声に悲しさを感じたのは気のせいだったかな……?
「千佳ちゃんはどのトリガー使うの?」
「えっと、狙撃手です」
「狙撃手かぁ。私は攻撃主だから全然違うね」
「苗字先輩の副作用は狙撃手にとって敵だと聞きました」
「まあ、基本はね。でも負けるときは負けるんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。千佳ちゃんと同じ狙撃手に、私の視界範囲外から狙ってくる変態がいてね」
「へ、へんた……?」
「あぁっ、えっと変な意味の方じゃなくてね!? 一応褒め言葉なんだよ!?」
失礼かも知れないけど、慌てた様子の苗字先輩が可愛くてクスッと笑ってしまった。初めは怖い人かもしれないって思ってたけど、そんなことなかった。
もっと仲良くなりたいな、なんてすごい立場の人だけど……そう思ってもいいかな。
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2022/2/27
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