正式入隊日



「やっぱり移動してたのかぁ」


仮想訓練施設に着くと、沢山の人が視界に入る。
どうやらもう始まってしばらく経つらしい。


「おっ。修」


隣にいた京介が誰かの名前を呼ぶ。
彼の目線を辿ればそこには……


「か、かかか……烏丸先輩っ!!」

「おー、木虎。久しぶりだな」

「それに、苗字先輩も……!!」


顔が真っ赤な木虎ちゃんとメガネを掛けた男の子がいた。


「名前先輩、こっちこっち」


京介が私を呼んだので駆け寄る。
お邪魔だったらどうしようかな、と思って離れてたんだけど、呼ばれたから会話の輪に入れて貰おう。


「さっき言った後輩の1人です」

「『三雲 修』と言います。はじめまして、苗字先輩」

「私のこと知ってるんだ……って木虎ちゃんと京介が名前言ったから分かるか。でも一応自己紹介するね。苗字名前です。一応S級隊員です」


何となく敬語になったが、自己紹介を済ませる。
……って、あれ?


「京介。さっき後輩が今日の入隊式に出てるって言ってなかった?」


明らかに目の前にいる三雲君は訓練生の隊服ではない。
そう思い京介に尋ねる。


「僕は入隊して半年くらいです」

「そうなんだ。てっきり全員同時に入隊したのかと思ってた」

「まあ、ある意味入隊だよな。所属が変わるだけで」

「そうなの?」

「はい。今日は玉狛に転属の手続きに来たので」


なるほど。
まだ玉狛所属ではなかったのか。

でも、林藤さんの命令とはいえ本当よく桐絵が許したよなぁ……。


「それより今、どうなってる?」

「問題無いです。あー……空閑が目立ってますけど」

「まぁ目立つだろうな」


京介の目線を追って下を見る。
そこには他のC級隊員に囲まれる小さな男の子がいた。

クガって……もしかして、迅さんが言っていた近界民ネイバー
そう思うと、無意識に彼に目線を向けていた。


「今回も嵐山隊が入隊試験の担当か。大変だな」

「いえ! このくらい、全然です!」


木虎ちゃんの元気な返事で我に返る。

すごいなぁ木虎ちゃん。
私なんて入隊試験の時、嵐山さんに助けて貰ってばかりだったのに……。情けない先輩である。


「烏丸先輩、最近ランク戦に顔出されてないですね……。お時間があったら、また稽古つけてください!」

「いや、お前十分強いだろう。もう俺が教えることなんてないよ」

「そ、そんな……私なんてまだまだです……」


……さっきから思ってたけど、明らかに京介に対する木虎ちゃんの態度が乙女である。
まあ京介顔かっこいいもんね。その顔に高身長。
将来有望株である。いろんな意味で。


「そういえば、お前修と同い年か?」

「え? はい、そうですね」

「じゃあ丁度良かった。名前先輩にも教えておきたかったし」


そう言って京介は三雲君の隣へ歩いていく。
じゃあ私は木虎ちゃんの隣に移動しようかな。


「こいつ、俺の弟子なんだ。木虎もいろいろ教えてやってくれ」

「で、弟子……? 弟子というとその……マンツーマンで指導する的な?」

「そうそう、そんな感じ。だいぶ先は長そうだけどな。名前先輩も、忙しいとは思うんですけどアドバイスあったらお願いします」

「私教えられるかなぁ……結構感覚派だし」


京介の言葉にそう答えていると、隣にいる木虎ちゃんが固まっていることに気づく。
そして数秒後、三雲君を背後から睨み付けだした。……え?


「き、木虎ちゃん……?」

「はっ! な、なんでしょうか苗字先輩!!」

「いや、なんで三雲君睨み付けてるのかなーって思って……」

「だって羨ましいんです、三雲君が……!」


なるほど。
木虎ちゃん、三雲君に対抗心があるんだね……。

そう思っていた時。



「訓練室を1つ貸せ、嵐山。迅の後輩とやらを確かめたい」



嵐山さんと玉狛所属の訓練生の前に風間さんが現れたのは。





2022/2/18


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