殺し屋レオン:序

side.潮田渚



銃を使う殺し屋は苗字さんの口を手で塞いだまま、そのことについてペラペラと話し続けた。


まずこのリゾートに来る前に学校で行った訓練。あの日の夜に苗字さんは既にこのリゾートに足を踏み入れていたそうだ。

そして前に聞いてた情報屋としての依頼が偶然この島に建てられている『普久間殿上ホテル』だったらしく、苗字さん除く鷹岡先生に依頼されたあの暗殺者達よりも早く現場入りしていたそうだ


「まあボスのイカれ具合も理由の1つっちゃそうだが、7割ぐらいはレオンだな……ってェ!?おい噛むなよ!!」

「何暴露してるんだよガストロ!!内緒にしろって言っただろ!?」

「暗殺者が口約束を守ると思ってんのかァ? ク・ソ・ガ・キ」

「信用した僕が馬鹿だったよ!!!」


苗字さんはナイフ(本物)をあの殺し屋に向かって振り回しているが、全部躱されてる。そしてずっと低レベルの悪口を言い合っている……。


「……本当なのか」

「本当だよ。しかし、あのレオンが頭を下げるとはね。おじさん、びっくりしちゃったよ」

「彼奴はプライドの高い奴だぬ。そんな奴が俺達に頭を下げてまで頼み込んだんだぬ。こんな事をした後だが、彼奴を許してやってくれぬか」


苗字さんと銃を使う暗殺者が向こうでじゃれ合いとは言えない物騒な事をやっていて、素手の暗殺者と毒使いの暗殺者の言葉が入ってこない……。


「……まずは事情聴取だ。その後こちらで判断する」

「ま、仕方ねーか」


烏間先生の言葉に返事したコンサートホールでの暗殺者は、いつの間に捕まえたのか俵担ぎしていた苗字さんを投げた。……投げた!?


「なんてことするんだよ!僕じゃなかったら頭打って死んでたよ!?」

「お前がそんなンで死ぬわけねーだろ、バーカ」


しかし苗字さんは投げられた不自然な状態の中、地面に手をついてバク転して見せた。そして自分を投げた本人に指を指して怒鳴りつけた。
仲がいいのか悪いのか……。


「苗字さんもだ。後で詳しい話を聞くからな」

「はーい、烏間殿」


下から聞こえたプロペラ音。……ヘリコプターが来たんだ!


「とにかく苗字さんはあちらのヘリに……」

「あのヘリ防衛省に行くんでしょう?僕、明日依頼が入ってて」

「……分かった。なら我々が宿泊しているホテルで事情聴取を行う。朝まで付き合って貰うぞ」

「やだカラスマ、朝までなんて……」

イリーナの声で喋るな!!」


と言うわけで苗字さんは三人の殺し屋達とではなく、僕達と一緒のヘリに乗ることに。先に防衛省行きのヘリが来た様で、僕達は暫く待機だ。


「しかし、そうならそうと言ってくれれば良かったのに。どうして隠していたんです?」


静かな空間を破ったのは殺せんせーだ。
殺せんせーが投げた苗字への質問は確かに納得だ。鷹岡先生から依頼を貰っていた時点で苗字さんはこうなることをある程度予想できたはずだ。


「そうだね……。まず彼…依頼人、鷹岡が危険な状態だったこと、かな」

「確かにそれはこちらから見ても分かっていたが、具体的には?」

「今回このような形で君達は危機を感じる事になったワケだが……実の所、このような展開を考えたのは僕なんだ」

「じゃあみんなに毒を盛るような指示を出したのは苗字さんだったの?」

「いやそういう事じゃなくてだな……うーん、そうだな……」


苗字さんは僕達に分かるように説明しようとしているのか、顎に手を当て考える素振りを見せる。


「仕方ない、事情聴取で詳しく話そうと思っていた内容を君達に少しだけ話してやる。……そもそも彼は君達を…特に渚。お前は当初の予定では殺される所だったんだ」

「えッ!?」


突然自分に向けて指を指され、驚きの声をあげる。
苗字さんのその鋭い青い瞳が嘘をついているように僕は見えない。


「それを僕が上手く言いくるめてこのような形にしたってワケ。感謝してくれよ〜?僕、肉体的暴力は苦手なんだよ?軍人が依頼人ってだけで怖かったよ〜」


自分の身体を抱いて震えた様子(恐らく態と)で僕に言い放った苗字さん。口で怖いって言ってるけど、何処にも怖がっている素振りが見られない……。

そういえば鷹岡先生が言っていた気がする。
『これでも人道的だ』という計画……確か茅野と殺せんせーを対殺せんせー弾が入ったバスタブに入れてセメントで生き埋めにするっていう話。

……いや、苗字さんが計画を考えたって言ってたから、もしかしたら鷹岡先生は他にも非人道的な計画を考えていたのかもしれない。


「いくら命に別状がないとはいえ、この結果は納得はできない。もし仮に誰かが命を落としていたらどうしたんだ」

「無茶言わないで下さいよ烏間殿。この計画は生徒達を生かし、同時に依頼人を納得させるかが鍵なんですから。それに、僕含め君達の行動は常に把握されていましたし」

「そうだったの?」

「そうだよ。リンという男性が僕だって事が言えなかったのは、これが理由」


そう言って苗字さんはベストの裏から小さな機械を取り出す。恐らく苗字さんが言っていた発信機とか盗聴器みたいな機器だろう。


「では我々の動きは常に鷹岡に知られていたのか……」

「でも、鷹岡先生にそんなこと出来るの?」

「監視カメラとか盗聴器を至る場所に付けたのは僕だよ。後でホテル内を確認すると良い。上手く擬態してるから」


恐らく鷹岡先生が雇った殺し屋達の中でMVPが与えられそうな働きっぷりである。そして、この状況を打破するために頭を働かせていた苗字さんに感謝しかない。


「苗字さん。先生は始め、あなたが裏切ったのかと思ってしまいました。しかしそれは杞憂でした。……苗字さんは見えないところで生徒達を守ってくれていたんですね」

「ま、防衛省が叩きつけた誓約書にそう書かれてたからね」

「それでもです。改めてお礼を言わせて下さい___ありがとうございます、名前さん」


殺せんせーを持った茅野が苗字さんの元へ近付く。
そして、お礼の言葉を述べた。

きっと彼女の事だ。先程のように「当然」とか「もっと感謝してくれてもいいんだよ?」という返答をするんだろう……と思ったのだが。


「べ、別に……」


そこにいたのは、あからさまに赤面している苗字さんがいた。そっぽを向いて如何にも態度と言葉に同一性が見られないという反応だった。


「おやおや〜?苗字さん照れてるんですか〜?」

「て、照れてる!?どこにその要素があったんだよ!!暗すぎて視界がおかしくなったんじゃないのかい!?」

「い〜や?ちゃんと赤い顔が目の前にあるけど?」

「君はいちいち近いんだよ、カルマ!!」

「やだ名前、そんな事考えてたなんて……!」

「これは裏の主人公と言えるべきポジション……!」

「桃花、急に抱きついてくるな!?そして優月!君は何を言ってるのかサッパリ分からん!」


ニヤニヤした顔で近付くカルマ君を押しのけようとした苗字さんに女子達が、特に不破さんと矢田さんが突進の勢いで抱きついていた。

……殺し屋の世界で上位に入るほどの実力を持つ苗字さん。しかし彼女は僕等と同い年と聞いている。もしかしたら僕等とどう接して良いのか分からないだけで、本当は今目の前でやっているように友達とふざけあったりしたかったのかもしれない。


「ヌルフフフ、この調子でクラスに馴染んでくれるといいんですが」

「うんっ」


僕と茅野、そして殺せんせーはクラスメイトとふざけ合っている苗字さん(因みに苗字さんは少し困っている)を少し遠い場所から見つめていた。



***



オマケ


「そういえば、ドリンクくれた人が毒使いの暗殺者だったけど、もう一人店員さんいたよね?」

「あ〜、確か前原と岡島が絡んでた女性の店員か」

「あの人は白だったのかな?」


不破さんがふと思い出したように言った言葉。
そういえばそんな店員さんがいたっけ。すごい格好の店員さんが。いや、南国らしい格好ではあったんだけど、男子には少し目の毒だったってだけで……


「……まさか、気づいてないのか?」

「え?」

「あの店員。僕なんだけど」


訪れる静寂。
そして、みんな揃って叫び声を上げた。


「あの変装なんだけど、前に南国の国へ依頼で行ったときに見かけた女の店員を真似たんだ。どうだ?中々可愛かっただろ?」

「全然気がつかなかった……」

「当たり前だ。僕の変装は完璧なんだからな」


改めて苗字さんが変装のプロなんだと実感した。





2021/04/03


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