殺し屋レオン:序

side.矢田桃花



渚と別行動をして、何人目になるか分からないナンパに飽き飽きしてきた頃。
烏間先生が言っていたように、ここには私達とそう歳の変わらない人もいる。だけど大人の人だっている。


「よォお嬢ちゃんたち」

「俺達と遊ばねェ?」


……今目の前にいるこの人達もそう、大人の人だ。
如何にもヤクザって感じの格好だ。


「あの!!私達今……」


片岡さんが男性に向けて声を荒げる。さっきと同じように人を退かせて……


「っ!?」

「すみません。彼女達は私の連れでして」


ポケットに忍ばせていた私の手を誰かが握った。そしてその横にいたのはお洒落なスーツを着込んだ美形の男性。
このバーフロアには似合わないスーツ姿と、その容姿はどこか引きつけられる何かがある。
男性は私達の前に立ち、大人達を見上げた。


「あぁ?兄ちゃんの連れ?」

「こんなに女を侍らせていいご身分だな!」

「その顔だったら女に困ってねーだろ」

「金は出してやるから一人貸してくれよ」


身長は片岡さんとあまり変わらない…かな。この人の年齢がいくつかわからないけど、体格差は向こうの方が圧倒的。……だと思っていた。


「……ぐァ!?」

「う゛ッ!?」


一瞬。本当に一瞬だった。
足を押さえているのを見るに、臑を蹴り上げたのだろう。


「では行きましょうか」


プラチナブロンドの髪を揺らしながらこちらを振り返り、ニコリと微笑む男性。
床に転がる大人達を気にしていない所か、視界にすら入っていないといった態度だ。……強い!


「あの……助けてくれてありがとうございます」

「いいえ。ここにいる人はあーいうのが多いですから。自分たちで何とかするのでは無く、誰かを頼る事も考えて置いて下さいね」


そう言って私を見る男性。……私がやろうとしていた事に気づいて……?!


「先程の人達はどこかの組を纏める長か何かでしょう。そこのお嬢さん、恐らく何か仕掛けようとしていたと見えますが、あれは逆効果だ」

「そ、そうなんですね」

「自分で身を滅ぼすような真似はいけません。何か遭っては遅いんですから」

「は、はい!」


こちらを見る青い瞳に少しだけ怯む。なんて綺麗な瞳だろう。それに加えてプラチナブロンドの髪に綺麗な顔……もしかしてこの人、芸能人とか?



「私はリンと申します。貴女方はどちらにいかれるのですか?良ければエスコートさせて下さい」



リンと名乗ったこの男性は自ら私達の護衛を引き受けると言われた。まあその方がこちらとしては残り時間を考えるとありがたい。
しかし、彼も先程までいた暗殺者の一人ではないのかと疑ってしまう。いないとは断言できないのだ。


「あ、これでは先程の男性達と同じですね。実は私、部屋に戻るところでして、丁度ここを出ようとしていたんですよ。貴女方の様子から、恐らく私と目的地は一緒と見えます。……違いますか?」


恐ろしい視察眼だ。
もしかして私達の事ずっと見てたとか?それとも、少数とは言え団体で動いていたから結構目立ってた?
この人が善か悪か見極めるには材料が少なすぎる……!


「……どうする?」

「私達を助けてくれたから悪い人ではないと思いたいけど……」

「そうね……」

「でも、借りにこの人が暗殺者だとして、こんな人目の多い場所で騒ぎを起こすような人じゃないと思う。ほら、遭遇した暗殺者達も人目の少ない場所にいたでしょ?」

「じゃあこの人は善と捉える方が正しいかもね」


優月ちゃんの言う通り、今まで遭遇した暗殺者の人達はどこも人目のない場所で遭遇している。ここは人目の多い場所だ。いくら違法云々が充満しているとはいえ、騒ぎは起こしたくないはず。


「……あの、リンさん」

「はい」

「さっきの話……お願いしてもいいですか?」

「ええ。勿論です、お任せ下さい」


こうして私達はリンさんにエスコートされ、裏口を目指すことになった。先程の騒ぎを見ていたのか、こちらを見るだけで男の人達は寄ってこない。
あんなに細身の何処にあんな強さがあるのか。もしかしてカルマ君タイプなのかな。


「どうしてリンさんは此処に?」

「理由が知りたいですか?」

「まあ……だって私達と同い年に見えるし」

「おや、私も若く見えるものですね。実はこれでもお酒が飲めるんですよ?」

「えっ、大人!?」

「同い年に見えた……」


まさかの歳上。でもどこか余裕そうな雰囲気は大人とも言われても納得できる気がする。
今もふふっと微笑を浮べているし、大人っぽい。髪の色とか目の色はビッチ先生に似てるけど、全然違うなぁ。かといって容姿や体つきが真逆な烏間先生と似ているとは言えない。


「お、着きましたね。では皆さんからどうぞ」


リンさんはドアの方へ手を指して先にどうぞと声を掛けてくる。うーん、目的が無ければその行動は紳士的でときめくんだけど、今は……。


「いえ、私達はここに来たかったので。ここまでで大丈夫です」

「そうですか。では私はここで」


リンさんは私達にお辞儀をした後、自動ドアの先へと消えていった。
最後まで紳士みたいな人だったな〜。今度会うときはちゃんとした場所がいいな〜。


「……」

「? どうしたの片岡さん」

「あぁ、矢田さん。……いや、なんかあの人どこかでまた会いそうな気がして」


根拠はないんだけどさ、と片岡さんは苦笑いを浮べてそう言った。
……片岡さんのその感は、驚きと共に明らかになる。



***



「……ガストロ。もうすぐお客様が来る。もてなす用意をしておけよ」

『オーケェー』





2021/03/30


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