殺し屋レオン:序

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「ねぇロヴロさん。苗字さんとビッチ先生だったらどっちが強いの?」


それは生徒達にとって純粋な質問だった。
この教室に存在する現役の殺し屋であるイリーナと名前、どちらが実力ある殺し屋なのかという好奇心からの質問だった。


「分野で括るのか総合的に纏めるのかで話が変わってくるわ」

「じゃあ先に分野に括った場合で」

「でも、あの子自分の事話されるの嫌がってるし……」

「レオンが嫌がっているのは自分について詮索される事だ。実力云々はむしろ自慢げに話しているから問題無い」

「私の方がナマエについて知ってると思ってたのに……」


ロヴロの言葉に若干落ち込んでいるイリーナ。
どうやら名前について自分が良く知っていると自負しているようだ。


「ゴホン、じゃあ話してあげるわ。まずは……私が自分の身体と身に付けた語学と交渉術を使うハニートラップを得意とした暗殺者なのはご存知よねぇ?」

「ま、まぁ」

「そこから更に性別を限定し、男性を落としてきた数であれば私が上。両性ならばあの子が上ね」

「どうして?」

「ちょっと、私始めに言ったでしょ?あの子は『変装』が得意だって。それに加え、あの子はボイスチェンジャーを使わずに声を自在に変えられる・・・・・・・・。そして何よりも男女どちらとも取れる『容姿』……変装という言葉があの子にあるための言葉に聞こえちゃうくらいに、あの子の変装術はレベルが高いわ」


彼らの前で変装して見せた事はないが、声を自在に変えられる……それは披露されている。


「そういや前、名前に杉野の声を真似してみてって言ったんだけど、本当に本物そっくりでびっくりしちゃった」

「話し方もそっくりで、杉野君が喋ってると思っちゃったもん」


中村と茅野が当時の事を語る。
声帯模写された本人、杉野もこくこくと頷いており、そのレベルが高いことが分かる。


「でも変装するって事は本物が何処かにいるって事だろ?バレちまったらそこで終わりだろ」

「そうね。でも、ナマエはあまり別の人物にすり替わる変装はしない。ナマエはあの変装術を自分という存在を隠す・・・・・・・・・・為に使っているの」

「だからあんなにイメージに固執してるのか……」


生徒達は度々名前が口にする「バラしたら殺す」と言われているような脅迫の意味を理解した。
性別を隠しているのもそれが理由なのだろう。


「でも、絶対にバレないとは断言できない。聞いた話では殺し屋として活動を始めた当初は正体がバレそうになった事もあるそうよ。あの自信家っぷりなあの子からは想像できないでしょうけど」

「それじゃあ返り討ちに遭うのが落ちなんじゃ……」

「殺し屋が自分の弱点を知らない訳がないでしょ?あの子だってそこをカバーできるだけの実力はある。それに、あの子の得意分野はもう一つ・・・・ある」

「……もしかして、あの素早い動きとかですか?」


イリーナにそう言葉を投げかけたのは、少し前に名前と対人訓練をしていた片岡だ。


「正解よ。そもそもあの高レベルの変装術はあの子にとって”サブ”扱い。ナマエの最大の武器はあの”速さ”よ」

「私と対人した時もまだ余裕そうだった……」

「だってあれ本気じゃないもの。まだ舐められてるわね」


まだ指で数える程度しか見ていない彼女の速さ。イリーナによると先程の対人で見せたスピードも”抑えている”方らしい。息が乱れていなかったのもそれが理由だろう。


「あの子はとにかく速い。だから潜入よりも真っ正面からの正面突破の方が性に合ってるのよね。前に銃は苦手だって言ってたし」

「でもビッチ先生。さっき名前の射撃見てたけど、正確な位置に狙い撃ちできてたよ?本当に苦手なの?」

「ああ、あれは得意不得意という意味じゃなくて、銃を使うより自分で刺しに行った方が速いって意味よ。つまり『ジッとしているのが嫌い』って事」

「レオンは走りながら狙った場所を撃ち抜く射撃センスも持ち合わせてる。性に合わないだけで出来ないわけじゃない」


イリーナとロヴロによって次々と明かされる名前の実力。その事から生徒達の中で名前のイメージが固まっていく。


「ゲームだったらチートキャラじゃん……!」

「そうとも言えるかもね。……でも、私があの子と初めて会った頃からあんな風に弱点無しだった訳じゃないわ」

「そうなの?」

「ええ。あの子はとにかく身に付けるものは何でも身に付けようとする。今回の期末テストであんな成績を出しているのも、必要もないのに”その知識”を習得しているからよ。本来なら殺し屋に表社会の勉強なんて必要ないわ」

「殺し屋は自分に合ったスタイル・分野を得意とし、追求する。しかしレオンはそれだけでは納得しない。先程の銃の腕前も自分の性分に合わないことを分かって身に付け極めている」

「殺し屋としては異例かも知れないわね。自分の得意としてる分野を主流にはしているけれど、他にも引き出しがある……だからこそ、五本指に数えられる実力を認められているのかも」


二人の言葉から生徒達は次に名前をこう印象付けた。多種多様の分野を身に付けたオールマイティな殺し屋であると。それと同時に疑問も生まれた。

先程言っていたように殺し屋は自分の得意とした分野を暗殺スタイルとしている。しかし、彼女が自分の性分に合わなくてもその分野を取得しようとするその原動力は何なのか、と。


「どうして名前はそこまで沢山のものを身に付けようとしているの?」


その疑問を中村が問うた。
イリーナは少しの間考えると、口を開いた。


「………『認めて貰いたい』から。そう言ってたわ」

「認めて……一体誰に?」

「それはきっと……レオンという殺し屋を作り出した人で間違いないわ」


殺し屋レオンという殺し屋を見いだし育て、ここまで名を馳せさせた人物。
イリーナはその人に認められたいが為に名前は努力を重ねてきたと語った。


「その人は誰なの?もしかしてロヴロさん?」

「いいや、違う」

「ロヴロさんは知ってるんですか?」

「知らんな」

「先生も知らないんですか?」

「ああ。そういえばあのレオンを作り上げた人が誰なのか聞いた事が無かったな……」


最速最年少で実力ある殺し屋として名を馳せた名前。
その人物を生みだした人は一体誰なのだろうか。





2021/03/29


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