殺し屋レオン:序
現在、椚ヶ丘中学校は夏休みという長期休暇に入った。
これで僕は自分に時間を割ることができるようになった!……と思ったのだが。
「なんで僕学校にいるんだよ……」
そう。
今僕はE組校舎のグラウンドにいる。何故かと言うとイリーナが前日になって電話してきたからだ。
どうやら今日はターゲットがいないらしく、夏のリゾートでの暗殺に備えての訓練ができる機会らしい。……いや僕行かないんだってば。
「でも、来た意味はあったみたいだ。ロヴロ、貴方がいたからね」
「久しぶりだな、レオン」
「えっ。師匠とナマエ、知り合いだったの!?」
「知らない奴を探したいくらいだよ……」
そこにいたのは初老の男『ロヴロ・ブロフスキ』……殺し屋を育てる仕事、“殺し屋屋”だ。イリーナの師匠でもある。
イリーナが知っているかどうか分からんが、引退前はそれこそ名の知れた有名な殺し屋だったのだ。
……久しぶりに会ったロヴロ、かなり老けてたんだけど。彼ももう歳なんだな……。
「それより……彼奴らと連絡着かないって本当?」
「ああ。お前と連絡が着いただけでも良かった。いちいち携帯を買い変えるお前がイリーナと連絡先を共有していたのは驚いたがな」
そう。
僕はいくつか携帯電話を使い分けているのだ。
仕事用、プライベート専用と最低で二つは所持している。で、今回このE組に来てから新たに一つ携帯を買ったのだ。
前にチャットアプリのグループに入って欲しいと言われたので、苗字名前専用として新たに購入した。
無駄遣いしすぎじゃないかって?金なら腐るほどあるから大丈夫。
そんなことより、いつも思うんだけど、この人僕を見る目が完全に孫なんだよなぁ……。確かにまだ僕は未成年だけどさ。
因みに周りからは無表情に見えるだろうが、今目の前にいるロヴロの表情はほんのちょっぴりだけ柔らかいぞ!そこ、こえぇ……って言わない!
「あの、名前は殺し屋の世界では有名なんですか?」
「ああ。恐らくここまで若くて速く名の知れた殺し屋になったであろう人物はレオンのみだろう」
「と言う事は、最速最年少って奴!?すっげぇ!」
「レオンが普段此処でどう過ごしているか知らんが、実力は本物だ。あまり舐めてやるなよ」
うんうん、もっと褒めてくれロヴロ!僕は褒めれば褒めるほど伸びる古典的な人間なんだ!
「というより、なんでマント被ってるの?」
「だって日焼けたくないし。それに、今日の夜から依頼場所に移動するんだ」
「え、じゃあもしかして、今日忙しかった!?」
「いいや、準備は済ませてるから大丈夫だ」
「情報屋としての依頼なんでしょ?頑張ってね名前!……って、これ応援していいのかな……」
「それは君達に任せるよ。まあ僕も人間だから、応援してくれるならちょっと喜ぶ」
「じゃあ恥ずかしいくらいに応援してやろう」
最近莉桜や桃花、優月とカエデを中心に女子達に気に入られている。これも上手くこのE組に馴染めている証拠なんだろう。
「名前さん、私と対人してくれない?」
「えぇ、それだとこのマント脱がないといけないじゃん」
「日焼け止め塗ってないの?」
「塗ってるけど……」
「じゃあいいじゃ〜ん!そーれっ!」
「あっ、こら!!」
背後からバサリ、と脱ぎ盗られてしまったマント。
お陰で視界が明るくなり、目を瞑る。
「おぉ、体操服着てる!」
「まあ貰ったからな。それに、デザインも中々に良い」
「似合ってるよ名前さん」
「ありがとうメグ。そして莉桜、僕のマントを返せ」
「帰る時に返してあげよう。しばらくは私達と同じ条件下にいて貰う!」
「何で上から目線なんだ君は……」
……ま、偶には彼ら目線の訓練も悪くは無い。
いつの間にか周りに集まったE組等を横目で見て、正面に立つメグを見る。
「ナイフ術クラス一位の片岡と現役殺し屋苗字の対人!」
「二人とも頑張れー!」
訓練って見世物だったっけ……。まあ、こうやって高め合うのも一興だろう。
「手加減はしない。……怪我しても僕は責任とらないからな」
「ハンデはいらない。全力で掛かってきて!」
「ははっ、僕に向かってそう言うか!なら___」
お望み通り、全力で掛かってきてあげよう。勿論、君達レベルに合わせた全力で。
烏間殿から開始の合図が切られた瞬間、持っていたゴム製のナイフを構えながらメグに向かって駆け出した。
2021/03/29
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