期末の時間
黒板に書かれた『対期末!強化授業』という文字をボーッと見つめながら、先程受けたターゲット作の小テストの採点を待っていた。
隣に座っている赤羽は教科書か参考書かしらないけど、それを頭に乗せて欠伸をしている。暇なんだろうなー。
しっかしすごいなー。高速で動くことで分身を作っている様に見せている訳か。うん、人間業じゃない。いや、人間じゃ無いんだけどさ。
「えい」
魔がさし、ナイフを振ってみた。
すると分身が少し崩れた。
「ちょっと何してるんですか苗字さん!!」
「気になって」
「もう!止めて下さい!!分身が崩れちゃうでしょう!?」
採点終わりましたよ、と言われ手元に返ってきた紙を見る。採点も速いな。
「素晴らしい!満点です苗字さん!」
「当然。それより、もう僕を名前で呼んでくれないの?」
肘をつき手に顔を乗せて上目遣いでそう問うた瞬間、目の先にいたターゲットが消えた。そして隣の赤羽の元に本体が現れた。
「それよりどーすんの?明らかに何か企んでるよね……そのA組が出した条件って」
「心配ねーよカルマ。このE組がこれ以上失うモンはねーよ」
失うものはない、ね。この椚ヶ丘中学校の中の世界はどんな風になっているのか。ま、たった一年だ。すぐに一年なんて過ぎる。知らなくても良いか。
「勝ったらなんでも1つか〜!学食の使用権とか欲しいな〜」
学食……安い幸せだな、倉田。
ま、一般人にとっての幸せはそんなものか。
「ヌルフフフ、それについては先生に考えがあります」
そう言ってターゲットは一瞬で教卓の前へと移動した。やっぱり目で追えない。
教卓の前に現れたターゲットが持つのは、何かの案内の冊子のようだ。誰かが学校案内って言ってたな。
「あ、メールだ」
「ちょっと!!苗字さん、先生の話聞いて下さいよ!!」
「聞いてる聞いてる。沖縄だっけ? リゾートだっけ?」
「聞いてないじゃないですか!!」
「それより、ちょっと抜けて良いかな。依頼が入ってて」
「まだ授業中ですよ!?」
「電話なんだってば。途中で帰ったりしないから」
後ろで何か叫んでるターゲットを無視して教室を出る。
だってこんなに大量の着信履歴が残ってるんだもの。恐らく緊急だ。
屋外用の靴へと履き替え、教室から離れた場所で発信する。うん、一応電波は通ってるな。弱いけど。
こうして人気の無い場所で電話をするのは、勿論依頼人のプライバシーを守るためではあるけれど、一番は依頼人に自分の居場所を特定されないためだ。
丁度良くここは静かで相手に居場所を特定されにくそうだ。
「……合言葉を」
苗字名前から瞬時にレオンへと切り替える。
男性とも女性とも取れる声。それがレオンの時の僕の声だ。なんでかって?それは向こうに性別を特定されない為さ。
「____」
「……こんにちは。私レオンと申します。本日はどのようなご依頼でお掛けになられましたか?」
こうしてまた僕は、自分で自分を穢していくんだ。
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2021/03/26
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