殺し屋レオン:破



「……はぁ、」


セーフハウスに設置されたベッドに身を投げる。
制服も脱がずにそのまま身体をリラックスさせてしまった。動きたくない。けど、服にしわが出来てしまう。

でも今は、何もしたくない。
……一番の失敗を犯してしまって、何もやる気がでない。


「これも、触手を着けた影響だと言うのか」


『触手は君の身体を徐々に蝕む。薄々気づいているんじゃないかな、自分の思い通りにいかないことが増えていないかって』

『ですが、触手を持ったことでどれほど小さな事だとしても、自分が予想していたことと違えば動揺するようになった。ただ生徒達と交流していただけに過ぎない今だとしても、あなたにとっては”いつも通り”を演じられなかった』


以前、ラファエルとターゲットに言われた言葉を思い出す。
この言葉がこんなにも苦しめられることになるなんて、過去の僕は思いもしないだろう。



「……気づかれるのも、時間の問題か」



できれば気づかれたくない。いや、気づかないだろう。
だって僕は、出来損ないから。覚えてもらえるような成績を残していないし、あの人の期待に応えられていたかと言えば自信がない。

……常に自信を持って行動しようと意識するようになったのは、確かこのことがきっかけだったよね。


”こんなこともできないのかい”

”それで私の後継者を名乗れると思うのかい?”


あの人に認められたくて。でも、意思だけでは意味がなく、あの人の期待には応えられなくて。

あの人が連れ去られてしまったのも、僕に力がなかったから。弱かったから。
もっと強くなっていれば、あの人を連れ去ろうとする人間を全員殺して逃れられたのに。

……あいつを殺して、くだらない考えを止めることができたのに。


そう考えた僕は、強くなるためにはどうすればいいか、と考えるようになった。
……今思えば、理事長殿に似ているね。強さを考えるに至った経緯は違うけれど。

話を戻そう。
僕は強さとは何かと考えたときに思いついたのは、憧れの人には備わっていて自分にはないもの、足りないものを補う、というものだった。


初めに行ったのは、どうすればあの人のように早くなれるか、だった。
なぜ早くないのかと考えたとき、それは自身が求めるスピードを出すには身体が重たいからだと結論付けた。

そう考え付いた僕は、すぐに余分なものを切り落とした。
その結果、僕は求めた速度に近いものを手に入れた。


1つ欲が叶えば、また1つ叶えたい欲が増える。
薬物に耐性のある身体になりたい、どんな人間も魅了して騙せる身体になりたい。考えついたものは片っ端から叶えていった。

そうしているうちに、レオンという暗殺者の名前は大きくなっていった。



「……今の僕を見て、あなたはどう思うだろうか」


あの人がいなくなってから、僕という暗殺者は急激に変わったと自分でも思う。
『レオン』という名前が恐れられている、それがどれだけ嬉しいことか。

だって、あの人のように恐れられる殺し屋になったってことでしょう?
……だけど、まだだ。まだ足りない。

あの人に近い存在になるには、まだ足りないんだ。



「何も思わないか。……だって、気づいていないもの。僕をただの生徒としか見ていないんだから」


長い時間、あの教室に滞在していても、それっぽい態度や雰囲気を出しても。あの人は気づいてくれない。『僕』に気づいてくれなかった。
元々初めから分かっていたし、高望みするのは違うと理解していても……それでも、期待している自分はいて。

本当の姿である、黒と赤は嫌だけど、気づいてほしくて……必要最低限の変装しかせず、僕はあの場所へもぐりこんだ。
でも、伸ばしていた髪を切っちゃったから、色を変えちゃったら気づいてもらえないかもしれない。なんでそれに気づくのが遅かったんだ、僕。

だから、最後の抵抗とでも言うように、髪を染めるときは毛先だけ元の色を残した。


……触手だってそうさ。
確かに強くなれるという話に魅力は感じた。けど、何よりも___あなたと共通点は増える。これが一番大きかったんだ。



「……どんな顔をしていればいいんだろう」


文化祭の時とは違う。
苗字名前を演じきれる自信が、今の僕にはない。

……少しだけ眠ろう。起きたら監視しなくちゃ。
あの人がいるという現実に安心できるのは、今じゃそれしかないからね。






2024/06/03


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