期末の時間 2時間目



自分が告げたルールに負ける。
そんなの、自業自得以外の言葉はないだろう。

……けれど。



「ヌルフフフフフ。私の脱皮をお忘れですか?」



あなたには『見捨てる』という選択肢はないんだろう、ターゲット。
だって、初めに開いた問題集で解けないと分かった時点で使えばよかったのに、あなたは使わなかったもんね。



「月に一度の技か」



最大の防御を誇る、脱皮を。
この時点で少し思っていたんだ。けど、ターゲットが理事長殿を気に掛ける様子を見て確信を持った……ターゲットは理事長殿を助けるつもりだったのだと。


「なぜそれを自分に使わなかった」

「あなた用に温存しました。私が賭けに勝てば、あなたは間違いなく自爆を選ぶでしょうから」


それに、理事長殿の真意も見抜いていた。
流石にそれは見抜けなかったな……。理事長殿の人物像を知ったけど、自分自身を捨てることを平気で選べる人間だということまでは思いつかなかった。

……どうやら、浅野学峯という人間は、何においても『教育』が最優先らしい。


「なぜ、私の行動が断言できる?」

「___似た者同士だからです。お互いに意地っ張りで、教育バカ。自分の命を使ってでも教育の完成を目指すでしょう」


似た者同士、か。
……確かに、そうかもしれないね。雰囲気は真逆だけれど……いや、違うな。一緒・・だ。今表に出ている側面が違うだけだ。


「テストの間に昔の貴方の塾の生徒に聞いてきました。あなたの教師像や起こったこと、私の求めた教育の理想は、十数年前のあなたの教育とそっくりでした。私があなたと比べて恵まれていたのは、このE組があったからです。まとまった人数が揃っているから、同じ境遇を共有しているから、試練にも団結して耐えられる。1人で溜め込まず、相談できる」


……なんだ、ターゲットも僕と同じで理事長殿について調べてたんだ。
なら、僕から言えることは何にもないや。


「そして理事長。このE組を作り出したのは、他でもないあなたなのですよ。結局、あなたは昔描いた理想の教育を無意識に続けていたんです」


……そういえば、理事長殿は前に僕に「自分と似ている」と言っていた。
あなたの過去を知ったから、思うよ。……確かに、似ているね。弱者を嫌い、強者でいようとする姿勢はね。

自分では否定しているけど、周りから見れば僕は強者なのかもしれない。……結局は、人の捉えようだからね。


「このナイフで殺せるのは私だけ。人間の命を奪え、と教えるわけがない。私もあなたも理想は同じです。殺すのではなく、生かす教育……これからもお互いの理想の教育を貫きましょう」


ターゲットの言葉を聞いて、理事長殿は何を思ったのだろうか。
僕のいる場所からは、理事長殿は見えない。ターゲットですっぽり隠れていて見えないんだ。


「……私の教育は、常に正しい」


けど、声はちゃんと聞こえるよ。
耳がいいものでね。


「この十年あまり、強い生徒を数多く輩出してきた。ですがあなたも今、私のシステムを認めたわけですし……恩情をもって、このE組は存続させることにします」


どうやらE組がなくなることは防げたらしい。
周りからも安心の息をつくのが聞こえる。


「ヌルフフフフフ。相変わらず素直に負けを認めませんねぇ」

「……それと。たまには私も殺りに来ていいですかね」

「勿論です。好敵手にはナイフが似合う」


ふふっ、その発言は「手入れされました」と言っているようなものだよ、理事長殿?



***



「あなたが負けたのですから、私がA組へ編入する話はもちろんなし、ですよね」


曇っていた空は消え、、ある人物の闇を払ったかのように日の光が差し込んだ。
そんな空の下、僕はE組校舎を去る理事長殿の後を追った。あぁ勿論、E組のみんなにはバレていないとも。僕は気配を薄くすることが得意なんだ。


「……残念なことですが、そのようですね。苗字さん」

「ふふっ、すっかり丸くなったようで。その方が私は好きですよ」

「では、それに免じてA組に来ていただけませんか?」

「却下します」


この笑顔で察してくれ。嫌だってことを。


「それで、私に何か用でも?」

「一応の確認で来ただけですよ。私は暗殺のために椚ヶ丘中学校へやってきたのですから」

「ほう、そうですか」


背を向けていた理事長殿が、こちらを振り返る。
見えた顔は、あの偽りを張り付けたようなものが消え、素の理事長殿だと感じた。実際は分からないけどね。



「私にはそのように見えない・・・・・・・・・のですが」



……超人って聞いてはいたけど、
まさか、僕の目的も見抜いている、なんて言わないよね。






2024/05/07


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