期末の時間 2時間目



『簡単だよ。良い生徒に育ってくれればいい。でも、良いの基準は人それぞれだ』



とある人物の過去を話そう。

その人物は、3年E組にとても似た建物で教鞭をとっていた。そこは学校と呼ぶより、塾と呼ぶのが正しかった。

その環境は、教育をする場所としてはあまり適切とはいえないものであった。教師のスペックも、ひっそりとした古い建物で教鞭をとるのもそうだが、そもそも教師にこだわっていることが変な人物であった。


だが、その人物は「教育」というものを心の底から楽しいと感じていた。自分が勉強を教えたことで夢を叶える生徒を見ることが、何よりも喜びだった。



教師は初めに、3人の生徒を育てた。
元気な子、容量がいい子、真面目な子。それぞれが違う性格の生徒だ。

教師はその3人の1人1人の良さと、その弱点を理解していた。その良さと弱点をそのままにするのではなく、良いところは伸ばし、弱点は克服する。

将来社会に出たときに、長所を発揮できるように育てる。それが教師が教鞭をとる際の志であった。


その3人はそれぞれが志望した学校へ進学することができた。それは、その教師が大切に、大切に育てたことが大きかった。
その恩は、椚の形をしたネクタイピンという小さなもので返ってきた。

教師はそれを今でも大切にしている。なぜなら、自身が初めて育てた生徒から贈られたプレゼントなのだから。



教師が開いた塾は、教師自身の経歴や実績を聞きつけた者により生徒数は増え、あっという間に生徒が増えた。
塾は大盛況であった。……だが、その大盛況は。いや、その塾というもの事態はあることをきっかけに崩れていく。

その始まりは、3年経ったある日だった。
その日、教師のもとにあの3人の教え子の1人から電話があった。


教師は何の前ぶりもない連絡に疑問を浮かべながらも、元教え子の言った「元気にしているかどうか気になった」という言葉を真に受けた。

実際、本当に久しぶりだった。近況を共有したかったのかもしれない。
教師と元教え子の電話は、元教え子が気を使ったことであっという間に終わってしまった。


一方的に切られた電話だったが、偶然にもその元教え子の家近くに教師は用事があった。近々会いに行こうと、この時教師は笑みを浮かべながら考えていた。

……その笑みが一瞬にして消え去るようなことが起きることも知らず。



***



『……!』



数日後。
教師は先日電話のあった元教え子の家近くに立ち寄った。元教え子が大好きだったバスケットボールを片手に。

……だが、教師が想像していた再会は果たせなかった。否、2度と果たすことはできなくなってしまった。

なぜなのか。
その元教え子の家では葬式が行われていたのだ。その葬式が誰のために行われていたのか___それは、教師が会いに来た人物であった、元教え子だった。


周りから聞こえた声に「自殺」というワードがあった。
その元教え子は、部活の先輩からいじめに遭っていた。それだけならよかった。

その元教え子は昔、やんちゃなだったために評判が少し悪かった。だが、教師の教えもあり、優しい人へと変わっていた。だからだったのか、その元教え子はいじめに対し、抵抗しなかった。

優しかったからこそ、抵抗しなかった。ただ受け入れていた。その結果、自分自身が耐えられなくなり……命を絶った。


それを知った教師はこう思った……『私は何を教えてきたのだろうか』と。
良い生徒に育てるとは何か、3年で死ぬのが良い生徒と言えるのか、と。

この時、教師の中ではこのような考えが生まれた___強い生徒に育てなくてはならない、と。
ならば、どんな強い生徒に育てなければならないのか。その考えに至った際、教師はまず、自身が強さを知らなければならないと考えた。教師が生徒に教える内容を事前に把握するために勉強する、という過程と同じように。



その日から教師は、あらゆる強さを学ぶため、様々なことを試し、熟知した。
そして、元教え子を死に追いやった存在の人生を崩した……それは、洗脳と呼べる技術であった。

教師は塾を閉校し、新たに学校を建設した。
塾は自身の弱さの象徴として、弱者への見せしめの場として残した。


強く、強く育てなければ
いざとなったら他人を生贄にして、自分は生き残れる強い生徒に


そのために必要なことは何でもやった。
1人でも多く、教師が掲げる強い生徒を育てるために。



「……このままだと、あなたは死ぬよ、浅野学峯」



素敵なエピソードじゃないか。
だというのに、そのエピソードを闇に染めたまま、あなたは死を選ぶのかい?


「さあ浅野理事長。最後の一冊を開きますか? いくらあなたが優れていても、爆弾入りの問題集を開けば、ただでは済まない」


目を開き、視界を上にあげれば、ターゲットが理事長にそう問いかけている光景が見えた。


「あんたが持ち出した賭けだぜ、潔く負けを認めちまえよ!」


吉田が吠える。……が、理事長殿と目が合った瞬間、怯えた声を出した。情けないぞ、吉田。
が、彼の言うことはもっともだ。

このまま理事長殿が問題を解くことを決めれば、確実に死ぬ。
……あなたはそれでいいのかい。清算しなければならないこととか、それらを果たさずに消えることを選ぶのかい?


「それに私たち、もし理事長が殺せんせーをクビにしてもかまいません!」

「この校舎から離れるのは寂しいけど、私たちは殺せんせーに着いていきます」

「家出しても、どこかの山奥にこもってでも。僕らは3月まで暗殺教室を続けます」



まるで、昔のあなたが見ていた光景に似ているね。
違うのは、その言葉を向けられているのがあなたではなく、ターゲットだという事。

……さあ、どうする。理事長殿。


「……殺せんせー。私の教育理論ではね、もしあなたが地球を滅ぼすなら___それでもいいんですよ」



その言葉をターゲットに告げた瞬間、理事長殿は問題集を勢いよく開いた。
___そして。



「あぁっ!!」


レバーが指定の位置まで起き上がった音が聞こえた。
直後、爆発音が響いた。






2024/05/07


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