期末の時間 2時間目



「問題集を開けた瞬間、解いて閉じれば爆発しない。あなたのスピードなら、簡単かもしれませんね」

「も、ももも勿論です!!!」


明らかに動揺している様子のターゲット。
……下手な行動で僕をがっかりさせないでね。


「……」


ターゲットが問題集と向き合う。
誰もがそれを黙って見守る。


「!」


ターゲットが問題集を開いた。
さあ、何秒で解ける?


「っ、!」


数秒もたたないうちに爆弾は爆発した。
つまり、解けなかったというわけだ。

周りから悲鳴が起きる中、爆発によって発生した強風の中でターゲットの状態を確認する。


……このにおいは。火薬のにおいはするけど、対人用の手榴弾とは思えないな。
つまり、今爆発したのは___。



「……対、触手用か」



ピッと頬が切れる。
今の僕は金属製の刃で切れる肌をしていない。今の僕を傷つけられるのは、対触手用で作られた物質のみ。あぁ、肉弾戦による打撃は効くけど。

何が言いたいのかというと、さっきの爆弾は対触手用のもので、対人用ではないということだ。4/5を当てたってことだね。


「……」


目視でも確認できた。
対触手用で間違いない。……あの至近距離で爆発したのに、思ったより損傷していないな。けど、あの威力を残り3発……。


「まずは1ヒット。あと三回耐えられれば、あなたの勝ちです。さ、回復する前にさっさと次を解いてください」

「マジかよ! あと3回耐えられるダメージじゃねぇ!!」

「やられちまうのかよ、こんな単純な方法で……!」


普通に考えて無理だ。
先ほど全身が吹き飛ばなかったことが、運がよかったと言ってもいいかもしれない。
……これは、まずいな。


「弱者は暗殺でしか強者を殺せないが、強者は好きな時に好きなように弱者を殺せる。この心理を教える仕組みを全国にばら撒く。防衛省から得た金と、あなたを殺した賞金があれば、全国に我が並列校を作れるでしょう」


やっぱり自分の理想的な環境を作ることが目的じゃないか。
しかも、あの言い方だとターゲットを留めていることを理由に、防衛省から金を巻き上げていそうだな。


……僕をA組に連れていく、という強制的な話も、弱者は強者に逆らうな、という考えの元、こちらの意見を聞かなかったんだろう。

相当イカれているな、理事長殿。
けど、そうなった理由を僕は知っているよ。……あなたの息子さんに聞いて、そこから情報をいろいろ拾って、広げていったんだ。


そこで得た情報は本当に驚いたよ。
あなたという人間ができるに至った経緯が、全部つながったかのように理解できたんだから。

だからと言って、僕はあなたに同情はしないし、同じ考えにはならないよ。
僕は強くなりたいし、弱者にはなりたくない。けど、強者になって見下すような人間にはなりたくない。望んでもいない。

……その間が、僕には丁度いい。


「さ、殺せんせー。私の教育の礎となって下さい」


ターゲットは、回復しきっていない触手を問題集へと伸ばす。
……同じ手を何度も食らってしまうのかい、ターゲット。

そう思いながら、ターゲットが問題集に触れる様子を見つめる。


「……」


ターゲットはしばらく問題集に触手を置き、数秒後に動いた。その速度はマッハであり、こちらでは開いて閉じたようにしか見えなかった。


「はい、開いて解いて、閉じました」


先ほどのミスはどうしたのか、と言いたくなるほどに解くのが早かった。
……あぁそういえば。前に渚に聞いた時、ターゲットの弱点で『テンパる』というものがあったっけ?

まさか、それで食らったっていうのかい?
はぁ……冷静でいれば回避できたんじゃないの、それ。ため息が出そうだよ。


「この問題集誌に、ほぼほぼどのページにどの問題があるのか覚えています。数学だけ難関でした。生徒に長く貸していたので、忘れてまして」

「あっ」


さっき解けなかったのは数学だったのか。
そして桃花、君がターゲットの言う貸していた生徒か。


「私が持ってきた問題集なのに、たまたま覚えていたとは」

「まさか。日本中すべての問題集を覚えましたよ。問題が解けるまで爆弾の前から動けない……こんなルール、情熱がある教師ならばクリアできます」


いや、無理があると思うけど。
爆弾挟まっていることを前提とするならね。

けど、それを抜きにするなら……まあ、本気で教師というものに取り組んでいる者がいるなら、クリアできるのかもしれないね。


「あなたならば私を分かってくれていると思っていましたが、教え子の敗北で心を乱したようですねぇ」


ターゲットは理事長殿にそう言いながら、次々と問題を解いていく。勿論、触手の再生は始まっていない。



「安易な暗殺で、あなたは自分自身の首を絞めた。……残り一冊。あなたの番です」



あっという間に解いてしまったターゲット。
そして、初めに理事長殿自身が告げたルールの通り、残り一冊は理事長殿が解かなければならない。


「どうですか、目の前で自分の死がある気分は」


ターゲットはいつもそれを感じているだろう。
なぜなら、あなたは殺される存在、標的ターゲットなのだから。


「死の直前に垣間見る走馬灯は」


あなたはそれをいつも見ているのか?
……その言葉が出てきたということは、垣間見ることがある、と認識していいのか?



「___その完璧な脳裏に、何が映っているのでしょうか」



……まさかターゲット。
あなたは……理事長殿の過去を知っているとでも言うのか?

そして、これまでE組の生徒を救ったように、理事長殿を手入れしようとしているのか?






2024/05/07


prev next

戻る














×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -