期末の時間 2時間目
場所は校外。
校舎内にはターゲットと理事長殿、イリーナと烏間殿がいる。
生徒は外に出ることになった。あ、動けない律は除いてね。
今、僕たちは教室が見える位置にいるわけだけど……。
「ターゲットを囲うように設置された机。その上に本……あぁ、問題集のようだね。一体何を始めようとしているのかな」
理事長殿らしい、といえばいいのだろう。
さて、これだけでどんなふうにターゲットを殺しに行くのか分からない。詳しい説明を頼むよ。
「さて、殺せんせー。もしもクビが嫌なら、もしもこの教室を守りたければ……私とギャンブルをしてもらいます」
ギャンブル。
それが貴方の考えた暗殺かい?
「5教科の問題集と5つの手榴弾を用意しました。内4つは対せんせー手榴弾、残り1つは対人用……本物の手榴弾です。どれも見た目やにおいでは区別がつかず、ピンを抜いてレバーが起きた瞬間、爆発するように作らせました」
なるほど、確かにギャンブルといえるだろうね。
面白い暗殺方法だ。けど、まだ続きがありそうだ。
「ピンを抜き、問題集の適当なページにレバーを起こさないように慎重に挟む。これを開き、ページ右上の問題を1問解いてください」
「そんなの、ページを開いた瞬間レバーが起きて……!」
「そう、ほぼ確実に爆発を食らう」
これだけだと、ターゲットが不利だな。
ターゲットのスピードをしても、難しいのかもしれない。
「ですが、解けるまでは一切動いてはいけません。順番はあなたが先に四冊解き、残った一冊を私が解く」
「ぬにゅうぅ……っ」
「このギャンブルで私を殺すか、ギブアップさせられれば、あなたとE組がここに残るのを認めましょう」
ほう、ギャンブルと言うだけあって、互いの命を賭けているわけか。それも、問題を解くという、教師らしいやり方で。
「では、そうだね……寺坂君」
理事長殿は唐突に寺坂を指名した。
何を寺坂に問うんだ?
「殺せんせーが勝てる確率を式から考えて」
なんだその問題は。
しかも式から考えるって。
寺坂、君はどう答えるんだい?
「……対せんせー爆弾が爆発しても、あんたは勿論死にやしねぇ。あんたを殺すには、5冊目まで本物の爆弾を残しておかなきゃいけねぇからな」
ふむ、確かにそうだね。
じゃあそれを式にするとしたら、どうなるのかな?
「4/5×3/4×2/3×1/2……イコール、1/5。20%だ」
「せいかーい」
「しかもタコが4回も殺す爆弾を受け続けなきゃいけねーのに、テメーは危なくなったらギブアップして無傷。圧倒的に不公平だろうが!」
そうだね。
ま、式まで答えろって話だったから仕方ないけど、結構簡単にわかる内容だね。
それに、人間が出来てきたんじゃない、寺坂?
あの頃の君を思い出すと、どこか感慨深いね。
「寺坂君。社会に出たら、こんな理不尽の連続だよ。強者と弱者の間では特にね」
「ひぃっ!」
手を置かれただけでビビるなよ、ターゲット……。
まあでも、理事長殿の話は僕も理解できる。社会性はないと思うけど、裏社会では強者と弱者の関係で成り立っているからね。弱ければ負ける……だから、強くなければ生きていけない場所なんだ。
「だから私は、君たちにも強者になれと教えてきた。……あぁ、そうだった。あなたは強者と弱者についてはよーく知っているはずだ、ねぇ苗字さん?」
急に降られたと思えば、そのことか。
視線が集まる中、僕はこちらへ目を向ける理事長殿を見つめる。
「苗字さん。今なら分かりますか? あなたをしつこく勧誘していた理由を」
「そんなこと、今でなくても分かっていましたよ。……貴方が弱者を嫌っていることは一目で分かっていましたし、弱者の集団に強者がいることが気に食わないことも」
いや、弱者の中にいる強者、というのは矛盾している気がするな。
反抗する者、と表した方がいいかもね。
けど、矛盾するからこそ、僕をE組にいさせたくなかった、とも言えるか。
「ならば話は早い。もし私が勝ったら、あなたをA組に連れていきます」
隙あらば引き抜きか。
しかも今回は、ターゲットにかかっている。……余計なことを。
「却下。それに、あなたはターゲットの暗殺に来たのに、戦利品が私でいいのですか? 100億の方が嬉しいでしょう。なにせ、あなたが望む教育機関をいくらでも造れるのだから」
「ふふっ、それもいいですね。ですが、私は少しでも要因になりえるものは排除しておきたいのですよ」
だろうね。
でなきゃ、E組を取り壊すなんて大掛かりなことしないだろう?
E組が……いや、ターゲットが自分の理想の邪魔になり得ると分かったから、ここまで来たんでしょ?
「さあ、チャレンジしますか? これはあなたの教職に対する本気度を見る試験でもある___私があなたなら、迷わずやりますがね」
僕の却下は無視か。
本当に自分勝手。僕が嫌いな人間だよ、まったく。
……で、ターゲット。
あなたはどう答えるの。……生徒の前で告げられたルールに弱いあなたなら。
「…………勿論、やりましょう」
頷くに決まってるよね。
……そこまでして信頼が大切なのかい、ターゲット。
いや、大切だからこそ断れなかった。……いくら超生物と言えど、このルールはかなり厳しいんじゃないのかい、本当に良かったの?
![](//img.mobilerz.net/sozai/1013_b.gif)
2024/05/07
prev next
戻る