期末の時間 2時間目



「さて皆さん、晴れて皆さんE組を抜ける資格を得たわけですが……この山から出たい人はいますか?」


話に区切りがついた後……ターゲットは緑茶が入っていると思われる茶碗を片手に、そんな話をし始めた。

あぁ、そんな制度があったね。
今思えば僕を含めた数人は、その制度の対象になるのは2回目だね。ま、僕は依頼としてこのクラスにいるわけだから、断る前提だけど。


さて、E組を出たいと言い出す人はいるのかな?



「いないに決まってんだろ!」

「二本目の刃はちゃんと持てたし、こっからが本番でしょ!」

「こんなに殺しやすい環境は他にないしね!」



どうやら0人らしい。
メグの言葉を合図に、それぞれが暗殺を始める。が、その銃弾は全部躱されている。

おっと、これ当たらないようにしないと。僕の皮膚にもダメージはいるんだよね、対触手用の銃弾。


「ヌルフフフフフ! 茨の道を選びますねぇ! では今回の褒美に、先生の弱点を教えて差し上げ…にゅやああっ!!?」


いつまでこの茶番を見なくちゃいけないのかなぁ……と思っていた時だ。
突如教室が揺れたのは。

まさか、地震?
いや、そんな揺れではない……それに、地震はゆっくりと揺れ始めて、次第に大きくなる。


今の揺れは突如として大きく揺れた。これは地震ではなく、何かの要因で建物が揺れているということだ。
けど、一体なぜ?


僕は揺れが収まったタイミングを見計らい、窓へと走る。また揺れるといけないから、背中を窓に預け、そこから外の様子をうかがった。


「!」



僕の視界に入ったのはショベルカーだ。
なぜこんなところに?
朝投稿した時にそんなものなかったはずだ。それに、工事の連絡も聞いていない。もし、そんなものがあればターゲットが事前に知らせるはず。

ということは、意図的なもの……!
久しぶりのE組いびりか?

けど、これが生徒の仕業とは思えない……であれば、誰がこんなことを?


「名前、何が見えてるの?!」

「実際に見た方が早いだろう」


外の様子を見に来たらしいカルマが僕に問うてきた。
元々喚起のために窓は開いていたんだ。覗き込めば見えるだろうと思い、くいっと顎で見てみろ、と言う。

それが伝わったのか、カルマはそばにある窓から外を見た。
よくみれば窓に集まっているのはカルマだけじゃない。数人程度窓から外の様子を見ていた。

これだけ人がいると外の様子はもう見れないな……そう思っていた時だ。



「退室の準備をしてください」



外から聞こえた声。
その声には聞き覚えがあった。


「「「理事長!!」」」

「今朝の議事会で決定しました。この旧校舎は今日をもって取り壊します」


理事長殿……また勝手なことを。
連絡が遅いのではなく、伝える必要がない、という認識が誤っているんだよ。相変わらず僕の神経を逆撫でする人だ。


「君たちには来年開校する系列学校の新校舎に移ってもらいます。卒業まで性能試験に協力してもらいます」


こちらの都合など考えないのだな、この人は。
……学秀、君の父親は勝手が過ぎるよ。


なんたって、自分自身の思い通りにいかないと思ったら、すぐにそれを排除しようとするんだもの。
けど、仕方ないよね。

だって君のお父さんは、どうやら……弱者が嫌いなようだし。


「監視システムや脱出防止システムなど刑務所を参考に、より洗練された牢獄のような環境で勉強できる……新しいE組、私の教育理論の完成形です」


どうしても強者を作らないと、この男は心配でならないらしい。
……だから、僕に目をつけていたんだろう。教育しがいのある、磨けば輝くダイヤモンドというように、強者になりえる存在って思われていたのかな。それは嬉しいけど、僕には必要のない強さだ。


「い、今更移れって……」

「嫌だよ! この校舎で卒業してェ!!」


彼らの意見も、この男には響かない。
椚ヶ丘という学校は、この男が理想としたものを詰め込んだ、本人だけが思う楽園だ。

他者からすれば地獄……本当にそうだね、学秀。
A組だけじゃなく、この椚ヶ丘という場所自体が地獄と訂正させてもらうけれどね。


「どこまでも己の教育を貫くつもりですね」

「まぁ」



ターゲットが外へ出て、理事長殿に声をかける。
ターゲットの問いを否定しないということは、やはり僕が考えていた通り、E組の存在が理事長殿にとって邪魔になったということだ。

でも、E組というよりは……。


「勘違いなさらずに。私の教育に、もうあなたは用済みだ___今ここで、私があなたを殺します」



ターゲットのほうが、理事長殿には邪魔かもしれないね。
そう思っていると、僕が予想した通り、理事長殿はターゲットに何か紙を見せつけた。このタイミングで見せたものと言えば、形式的なやつであれば解雇通知的なものじゃないかな。


「ひいいぃぃぃっ!!?」

「殺せんせーの解雇通知!?」

「とうとう禁断の伝家の宝刀抜きやがった……!」


どうやら本当にそうだったらしい。
ありがとう悠馬、教えてくれて。まあ本人的には驚いて無意識に声が出ちゃったんだろうけど。


「はああああっ!!? ふ、不当解雇です!! 」


てかターゲット、そんなに解雇されるのが嫌なのかい。
『不当解雇を許すな!!』やら『労働者よ立ち上がれ』やら『浅野学峯は腹を切って地獄の業火で死ぬべきである だって横暴だもの』とか出してる。いつの間に用意したの、それ。


「早合点なさらぬよう。これは標的を操る道具にすぎません。……あくまで私は、殺せんせー___あなたを暗殺しに来たのです」

「にゅやや?」

「私の教育に不要となったのです」


なんて思っていると、理事長殿が意外なことを言った。
まさか、貴方が直々に暗殺に来るなんて、誰が予想できただろうね。

てか、なんかいろいろ増えてるし。
そんなに解雇されたくないの。


「……本気ですか」

「確かにあんたは超人的だけど、思い付きで殺れるほど、うちのタコは甘くないよ」


カルマの言う通りだね。
これまでE組が考案した暗殺をすべて切り抜けているのだから。ふざけているようにみえるけど、頭がいいのは間違いない。


「取り壊しは一旦中止してください、中で仕事をしてきます」


え、人を雇ってたの?
ていうか、ショベルカー捜査している人、建物の中に人がいることに対してなんにも思わなかったわけ?

それか、理事長殿が上手く言っているのか、かな。後者な気がしてるけど、実際のところは分からない。僕は理事長殿ではないからね。


というか、人を雇ってたってことは、ターゲット姿見せてよかったのかな。






2024/05/07


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