期末の時間 2時間目
「___欠点がない人などいません。むしろ、居なければそれは人間ではありませんねぇ」
ふと、頭上から落とされた言葉。
その言葉を発したのは、ターゲットだった。
「僕は、欠点のない人を知っている……! その人のようになるためには、こんなことでミスしていてはダメなんだ……!」
「初めからなんでもできる人はいません。何事も経験したうえで成り立っているのですよ」
貴方は今、その経験を積み上げている段階なのです。
だから、失敗してもいいんです。
ポスッと優しい音と共に、頭の上に何かが乗った感覚がした。
少しだけ顔を上げれば、ターゲットの触手が自分の頭の上に伸びているのが見えた。
「貴女はもう少し人を頼るということを覚えた方がいい」
「!」
人を、頼る?
暗殺者は基本的には単独行動。たった一人で闇夜に紛れ、獲物を狩る。……そう教わったんだ。教わったんだよ?
「ほら、よく言うでしょう? 人は支えあって生きていると。漢字がそう表しています!」
「……それ、由来としては間違っているんじゃなかったかい」
「にゅやっ!?」
ターゲットの言葉にツッコみを入れられるということは、まだ僕には余裕があるみたいだ。
それと、ターゲットの発言だけど……たしか、誰かの名言だってことは知ってるんだけど、正確なことは必要ないと判断して覚えなかったんだよね。先生だったような気はしているんだけど。
「漢字については違っても、支えあって生きることは本当ですよ」
「……暗殺はいつも一人だ。仲間は返って邪魔になる」
そう学んで生きて来たけど、それが正しいと思える自信がある。
1人だからこそ自由に行動できる。自分のような人間がもう一人いるなら話は別だけど、格下が着いて回ったら本当に邪魔だと思う。
だから、暗殺においても、普段でも。僕は一人の方がいい。必要な時だけ他と関わればいい。……そう思っていたのに。
「うおっ、!?」
「名前がどれだけ拒絶しても、私は離してやんないぞー!」
「莉桜、」
「あんなに英語詳しかったのは、いつも使ってるからなのか〜! なんで教えてくれなかったのさ、このこの〜」
「言う必要がなかったからだ」
……少しずつ、何かが変わっている気がする。
それを恐れている自分がいる……このままではいけない、と。
「つれないこと言うなよ、名前」
「……悠馬」
「俺があそこまで社会の成績を伸ばせたのも、日本以外の国に興味を持てたのも、全部名前のおかげなんだ」
「だから、なんだ」
「___俺は、名前と出会えて、結構楽しいんだけどな?」
このままこのクラスに馴染んでしまったら、僕はこの依頼が終わった後、人を殺せなくなる。
僕は殺し屋、殺し屋……彼らとは生きる世界が違うんだ。
だから、持ってはいけない……この世界が楽しい、と感じてはいけない。
「分かりましたか、苗字さん」
「!」
「貴方と彼らにはもう、切っても切れない仲であることを」
「……」
「誰かを頼ることは恥ずかしいことではありません。貴方は頼られる側の人間ですが、だからといって頼ることに抵抗しなくていいんです。こんなにも仲間がいるのだから」
……落ち着け。これは僕自身への言葉じゃない。
このE組にいる苗字名前へかけた言葉だ。役を演じきれ、レオン。
「……努力、するよ」
この返事をした時、僕はどんな顔をしていただろうか。
それを意識する余裕が、この時の僕にはなかった。
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某セリフは金〇先生
2024/05/07
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