期末の時間 2時間目



「……ま、そうだな。君がくれたアドバイスをもとに自分なりにも考えて、E組に伝えたつもりだ」


E組のもとから離れ、僕が隠れていた場所へと戻ってきた学秀。
あぁ、そうそう。実は彼らの話を隠れて聞いてたんだ。

気配は消していたから、彼らは気づいてないよ。学秀は僕が今いる場所から一歩も動いていないと信じていたみたいだから、戻ってきたときそんなに驚いていなかったみたいだけど。


「相談を受けた側としては嬉しい言葉だね。僕はそんなに相談を受けるような人間ではないし、適した答えを返せるような頭脳も知識もないんだけど」

「へぇ。君はどこか達観したように話すから、多く相談とか受けてきたように思っていたよ」

「本気で言ってる? 僕は君と同じ15歳なんだけどな」

「なら、君は僕が想像する以上の経験を沢山したんだろう。でないと、敗北を教えることで人の目を覚まさせるなんてこと、僕は感じ取れなかったからね」

「え、それ僕のこと言ってたの?」

「逆に誰だと思ったんだ?」


そんな感じのこと、言ったかな……けど、その言葉に対し、納得できる部分はある。
2度と体験することはないだろう出来事……大切な人を救えなかった、それが僕が生きてきた中で一番の敗北だ。

けど、人の目を覚まさせる部分はないと思う。
僕があの敗北で知ったのは、もっと強くならなければならないということ。……まぁ、言おうと思えば、目を覚まさせるになるのかもな。

あの出来事がなかったら……僕は弱いままだっただろうから。


「君のアドバイスは素直に受け止めたが、だからと言って1位は譲らない。赤羽も名前も抜いて、僕が1位を取る」

「ざーんねん。1位譲ってくれないかなぁって思ってたんだけど。ま、それとこれは話が違うからね」


壁に預けていた身体を起こし、学秀へと身体ごと向く。彼の瞳には、愉しそうな顔を浮かべた僕が映っていた。


「今回の期末も僕が1位を取る。カルマにだって譲らないさ」


学秀もカルマも1位とる宣言しちゃって。僕に勝ってから言ってよね。



「いいや、今回は俺が1位をもらうから」

「あ、赤羽!?」


聞こえてきた第三者の声。それはカルマだった。
あれ、君帰ったんじゃないの?

そう思いながらカルマの方へと視線を移す。あぁちなみに、なぜ学秀が驚いているのかというと、彼の後ろにカルマが立っているからだ。そりゃあ、見えないところから突然聞こえてきたら驚くさ。普通はね。


「二人とも、なんでいるのって顔だね。そんなの名前の声が聞こえたからに決まってんじゃん」

「地獄耳か」

「名前限定でね。けど、俺以外にもいるよ」


どうやらカルマだけではなかったらしい。地獄耳に対する肯定は聞かなかったことにしよう。


「もう、名前ったら俺という存在がいるのに、堂々と浮気しちゃって」

「だ・か・ら! いつ君の恋人になったんだ!! 前もそんなことを言って、僕はちゃんと否定しただろ!?」

「……そうだったのか?」

「学秀、違うから。真に受けるな」


なぜ君は息をするように堂々と嘘をつくんだ。僕前にフリーだって言ったよね、それもE組全員がいる中で!
まあ学秀がいないのは当然だけど……なぜ君はそう簡単に信じようとしたんだ。疑え、疑ってくれ。



「……ふむ」



カルマと学秀の会話を横耳に、僕はあることを考えていた。
それは学秀の父、理事長殿だ。

やはり引っかかる___なぜ理事長殿は、そこまで教育にこだわる?
彼のポテンシャルはどう見たって教師の範疇を超えている。この僕が背後を取られそうになったくらいだ。下手すれば何人か殺しているんじゃないかってくらいの雰囲気を纏っている。



「? どうしたの名前。そんなに浅野くんを見ちゃって。……まさか、やっぱり浮気!?」

「一回、君の頭から僕が恋人という設定を削除してもらおうか」

「やだね。いずれそうなるから」

「随分と自信満々だな。君が愛をささやく相手は否定しているようだが?」

「恥ずかしがってるんだよ〜」

「なにをどう見たら恥ずかしがっているように見えるんだ。君の目は節穴か、カルマ」


都合のいいところばっかり見るな、君は……。
っと、いけない。僕は今、理事長殿について考えていたんだった。


「学秀。君、夜は空いてるか」

「は!?」

「名前、やっぱり浮気しているだ……」

「もうツッコまないぞ。僕は疲れた、勝手にやっててくれ」

「否定しないってことは肯定になっちゃうよ」

「誰かこのお調子者の頭を叩き割って、いらない設定を取り除いてくれ……」


だんだん度が増しているから、そろそろどうにかしないと……。
って、こんなことを言っていたら話が進まない。


「あと、そんなに深い意味はない。学秀、君に聞きたいことがあるんだ」

「ここではダメなのか?」

「ああ。君のプライベートにかかわるだろうからね。それに、直接対面でなくても、僕たちはこれがあるだろう?」


そう言って携帯をちらつかせれば、「あーっ!」とカルマが叫ぶ。いちいちオーバーリアクションな気がするんだけど気のせい?


「浅野くん。名前と連絡先交換してるの!? 俺まだなのに……」

「残念だったな」

「名前、俺とも交換しよ? ずっと拒否られているの寂しい」

「グループには入ってるだろ」

「中村さん羨ましい……俺だって名前と個人チャットで話したいのに」


別に学校で会えるんだから交換しなくてもいいだろ。それに、莉緒と交換したのは「グループで全体的な連絡があるかもしれないから入ってほしい」って言われ、招待してもらうために連絡先を交換したんだ。

学秀はE組の人間ではないため、連絡を取るなら交換しておく必要があった。それだけだ。


「とりあえず話は分かった。ただし、テスト勉強もあるからそう長くは話せないぞ」

「勿論。一応30分で収めたいと思ってるけど、それ以上かかるかもしれないし、早く終わるかもしれない。それを分かったうえで都合のいい時間を後でチャットしておいてくれ」

「分かった。君の都合は考えなくていいのか?」

「学秀に合わせるよ。僕のことは考えなくてもいい」



隣でギャーギャー言っているカルマはもう放置するって決めたから……ん?
学秀から何を聞きたいのかって?

それは……彼の父親、理事長についてだよ。





2024/05/01


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