死神の時間


side.堀部糸成



「! ビッチ先生っ!!」


俺達はビッチ先生を救出すべく、この場所を隈無く歩いていた。
そして漸く、目標であったビッチ先生を発見したのだ。

いち早く飛び出したのは片岡で、次に奥田、寺坂が向かった。片岡はすぐにビッチ先生の拘束を解いた。


「息あります!」

「ビッチ先生をお願い」

「面倒ばかり掛けやがって」


奥田が確認したところ、どうやら息はあったようだ。片岡の指示で寺坂がビッチ先生の抱える。


「よし、みんなと合流して脱出するわよ!」

「はーい! でも良かったよぉ、ビッチ先生が無事で」

「だね!」


誰もが目標を達成し、安心しきっていた。その時、ドサッと音がした。


「ビッチ、先生……?」


音の聞こえた方を振り返ればビッチ先生が立っており、寺坂が倒れていた。ビッチ先生の手には、何か道具がある。

まさか、それを使って寺坂を気絶させたのか?


「はぁ……、6カ月くらい眠っていたわ。目が覚めたの、彼のおかげよ」


……どうやら、ビッチ先生がやったということで間違いないらしい。


「さて、逝かせてあげるわ」

「ビッチ先生……?」

「本気なの……?」

「最後の授業をしてあげる、ガキ共」


普段と違うビッチ先生の様子に、俺の前にいるクラスメイトは後ずさる。一歩近づいて来た、と思えば。


「あつっ!? 裸足で石踏んだぁ……っ」


いつものビッチ先生が見えた。……演技でもしてたのか?


「ったくもう、大丈夫か、よ……っ!?」


俺含め、誰もがいつものビッチ先生で安心した。……その油断をみんなは取られたんだ。



「え……?」

「ず、ずるい……っ」

「弱ったフリするなんて……っ、一瞬心配しちゃった、じゃ……」

「ヒヨッコ共、これが経験の差よ。修羅場を潜った数が違うの」


この場で残るは俺のみ。ビッチ先生の視線がこちらに向いた、その時だ。


「なんだ、君一人に負けちゃったのか」


いつの間に現れたのか、死神がビッチ先生の背後にいた。
存在を感じ取れなかった。……これが、最高の殺し屋。


「あんたの言った通りだったわ。やっぱり、この子達とは組む価値がない」

「そういう事、世界が違う。この子達が透明な息を吸っている間、僕らは血煙を吸って生きてきたんだ」


さて、君はどうする?
大人しく捕まるか?
絶望的な戦いに挑むか?

死神が、俺にそう問いかけてきた。


「……っ、上等だよ……! いくぜイトナ、俺とテメェで叩きのめすぞ……!」


その問いに答えようとしたとき、寺坂がゆっくりとした動きで立ち上がった。まだ身体が麻痺しているだろうに、丈夫な奴だ。

だが、俺の中では既に答えが出ていた。


「降伏だ」

「あ……?」

「多分、格が違う。戦っても損害だけだ」

「イトナ……」


俺は学んだ。
今日、敗北してもいい。いつか勝つまで、チャンスを待つ、と。

……だが、やはり敗北は心に響く。
もし、もしこの場に彼奴が……名前がいたら。何か変わったのだろうか。


連行されながら思い浮かべるのは、こちらを振り返る金髪に淡い青色の瞳の彼女だった。





2023/09/08


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