リーダーの時間



閉会式が終わり、片付けの時間となった。……この僕が素直に言う事を聞くとでも?
当然好きなようにさせて貰うさ。

人の多さを利用してE組の視界から逃れ、僕は校舎に入った。なんで校舎に入ったのかって?
片付けをサボるためじゃないぞ。


「……お、いたいた」


とある人物を追っていただけさ。その人物というのは……


「気づいていないか。ま、当然だね。だって僕は、君と同じ素人じゃないんだから」


ねぇ、学秀。
そう声に出してみたが、向こうは気づく素振りがない。別に声を潜めているわけではないのだが、おそらく外の声が大きすぎるため僕の声がかき消されているのだろう。


話を戻そう。
何故僕が学秀を追っているのか。ま、言ってしまえば興味本位だね。

彼は生徒会長という立場だというのに片付けに参加していないじゃないか。それ以前に、彼の周りには明らかに今回の棒倒しの為だけに用意した駒を連れている。……君は彼らを連れてどこに行こうって言うんだい。


「……ここって、理事長のいる部屋じゃないか」


学秀達が入っていったのは、何度か入室したことのある理事長のいる部屋だった。偶然にも少しだけ出入り口の扉が開いている。近付いてみるか。

足音を立てないように扉へ近付いて、耳を立てようとしたときだ。


「!!」


ドンッと何かがぶつかった音。恐らく壁に何かがぶつかったんだろう。結構重い音だったな……それに、謝罪の声も聞こえる。


「……まさか」


近付きすぎると、開いた扉の隙間から僕が見えてしまうかもしれない。あぁ、直接ではなく、窓の反射でね。理事長殿が出入り口の扉の正面付近に立っていることを想定して話しているから、違った場合はもうバレているかもしれないけど。


「……あぁ、なるほど。そういうことか」


学秀の怯えた声が聞こえる。それを聞いて僕はあの時彼に言った言葉を撤回することにした。そして、その言葉を剥けるべき相手が別であると感じたんだ。


「!! なんでここにっ」

「おぉ、学秀。何、話し込んでいたから少し聞いていただけさ」


逃げるような勢いで飛び出してきたのは学秀だった。あーあ、かなり怖い思いをしたらしい。顔が恐怖を写している。


「君のお父さんはすごいね。あの細身のどこに体格の良い人間を圧倒する力があるのか、興味があるよ」

「……勝手に調べればいいだろ」


そう言って学秀はこちらに背を向けた。……あ、そうだ。折角なんだ、きちんと伝えなくちゃね。


「学秀」

「……なんだ」

「前に僕は君の事を忌み嫌う人間だと言った。……けど、それを撤回するよ」

「は……?」


足を止め、こちらを振り返った学秀は首を傾げながら僕を見つめる。どうやら僕の言葉の意味を分かっていないらしい。


「僕が嫌いなのは君ではなく、父親の方だったよ」


それだけ言って僕は学秀から背を向けた。……僕の言葉を彼はどう受け止めたんだろうね。
そんなことを思いながら僕は理事長殿のいる部屋へと入った。


「おや、苗字さんではありませんか」

「こんにちは、理事長殿」


驚いたような発言をしているが、僕が学秀と話していたことを知っているだろう。だって分かるように話していたんだから。


「酷い有様ですね。血のにおいがしたので驚きましたよ」

「敗北に意味はありませんから。少し”指導”していただけですよ」


指導、ねぇ……。
まあ人それぞれの形があるものだから、否定はできない。……というより、僕が受けてきた指導は理事長殿とよく似ている。だからといってそれが正しいとは言わないけれど。


「負けることに意味はない、ですか。確かにそれは分かります。私達殺し屋にとって敗北は死と同義ですから」

「それなら何故A組に来て下さらないのですか? E組は敗者、貴女はそれがお嫌いなのでは?」


理事長殿の言葉に僕は目を細める。……学秀には言ったけれど、この人には話した記憶は無い。学秀が伝えたって線もあるけれど、見た所2人の仲が良いとは思えないんだよねぇ……。


「何故そう思うのです?」

「何故、ですか……。ふふっ、そうですね」


コツッ、コツッと靴を慣らしながら理事長殿はこちらへ近づいて来た。……隠すのが上手いな、何か手を出してくれば反射神経で躱すしかないね。
そう思いながら警戒心を持ちつつ、それを顔を出さないようにと意識していた時だ。


「似ているからですよ。私と貴女は」


そう言って僕の横を通り過ぎ、理事長殿は部屋を出ていった。


「……似ている、ね」


負けることは嫌い。弱者も嫌い。まあ、共通点は多いだろう。だけどね、決定的な違いがあるよ。
僕は弱者は嫌いだけど、僕がもっと嫌いなのは『弱者を見下す強者』だ。その強者は力は勿論、財力や権力も含まれる。


「僕は貴方と一緒じゃないよ、理事長殿」


僕は弱者を見下す強者にはなりたくない。そもそも僕は強者ではない。……ずっと弱者なんだよ、僕は。





2022/10/16


prev next

戻る














×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -