リーダーの時間
日時は過ぎ、体育祭当日
当然本校舎のほうで行われる校内イベント。
そのため僕含めE組は、本校舎にいた。
「二人三脚頑張ろーね、名前」
「足を引っ張るなよ、カルマ」
「大丈夫だって」
現在僕は待機場所だという場所にカルマといた。
他クラスの生徒が周りにいるため、結構騒がしい。
因みに他の走者は別待機場所にいる。
「それより……」
「ん?」
「アレ、どうにかならないのか」
僕が視線でカルマに伝える。
僕が見ていた先にいるのは、上から羽織を被ってカメラを連写しているターゲットだ。
何故指で指して伝えなかったのか、理解してくれたかな。
てか、国家機密の自覚あるんだろうか……。
「しかたないねー。うちの先生、親バカっぽいところあるし」
「薄々感じてはいたけれど……誰か何とかしてくれないかな」
「なんで?」
「写真撮られたくないんだ」
どこで誰が僕をレオンだと特定しているか分からない。
ま、既に数名僕がこの椚ヶ丘にいることは知っているけれども。
僕が心配しているのは、この姿だ。
今まで僕はどの依頼でも一度見せた姿は二度と見せない。
それは何故か。
レオンという存在は男でも女でもない不思議な存在であり、どこから現れるか分からない神出鬼没でなければならない。
……僕は『レオン』という暗殺者の像を崩さないようにしている。
だから、未だに僕の本来の顔は誰にも見破れていない。
僕を育て上げたあの人と、僕より少し先に弟子入りしただけで兄弟子ぶっているあいつ以外には。
「でもさ、思い出に1枚くらいはいいんじゃないの?」
「ダメだ。実物で残るのが1番処理が面倒なんだ」
「そんな固いこと言わないで〜。あの先生ならそう簡単にバラしたりしないって」
「……本当かなぁ」
聞いた話によると、ターゲットはドジという。
もし誤ってばらまいたらとなると……。
あぁ、不安だ。
「……名前は写真撮られるの嫌?」
「嫌だ」
「それ本業の方でって意味でしょ? 名前の本心では写真を撮られたいと思わないの?」
確かに僕が写真を拒絶しているのは、殺し屋レオンとしてだ。
カルマは僕の心情を見抜きたいのか?
「前見せて貰ったんだけど、ビッチ先生に自撮り写真送ってたじゃん」
「あれはイリーナが見せろって言ったから……」
「携帯でのデータ操作の方が漏れる可能性高いと思うけどなぁ」
「うぐっ」
カルマが言っているのはリゾートの時に変装した姿の事だろう。
……カルマの言う通りだ。
確かに今思えば、携帯でのデータ送信は危うい。
なのに何故それを考えてなかったんだろうか、あの時の僕……。
「……信用できない?」
「え?」
「ビッチ先生の事は、まぁ付き合いが長いから信頼してると思うけど……俺たちだってちゃんと秘密は守れるよ。名前がどんな人なのか間違ってもバラしたりしない」
「……」
「それに、本音を言えば……俺は名前との思い出を実物で残したい」
相手に自分を信用させる。
それはいつもやってきた事だ。
いつも通りであるはずなのに、どうしてカルマの言葉に心が少し揺れているんだろう。
疑り深いのは、裏社会を生きる人間にとって当たり前。
だから誰もが裏で隙を窺っていた。
これも僕を油断させるものだ。
普通ならそう思うのに……。
「……分かった」
「え?」
「分かったと言っている」
「ほんと? 今更撤回って言っても聞かないよ?」
「データ上だったらこちらでどうとでもなる。不都合ができたら遠隔で削除すればいい」
「そうはさせないもんね〜。例え消そうとしても俺はどうにかして残すから」
「……やっぱりなし」
「だから前言撤回は聞かないって言ったでしょ」
___彼らの言葉を罠だと思いたくない。
そう感じる事が増えてきたんだ。
この僕が、疑われることを恐れている?
恐れられたくないと思っている?
「……これが心境の変化だというのなら」
僕はこの依頼が終わった後、人を殺せるだろうか。
人に情を移しやすくなってしまえば……人を殺す事に抵抗を覚えてしまう。
ダメだ、そうなっては。
僕は殺し屋なんだ……此処にいるのは政府に雇われたから。
ターゲットを……殺す為なんだ。
学生のフリをして紛れ込んだ正真正銘の暗殺者なんだ。
「あ、もう入場の時間だよ」
「……あぁ」
「あ、こっちにカメラ向けてる」
「は、嘘だろ……って、おい!」
自分の腰に回された手。
それはカルマの手だった。
「難しい顔してるけどさ、今は3年E組の苗字名前なんだよ? 今はそのことを忘れて、目の前の事を楽しもうよ」
ほらポーズ取って!
そう言って更に密着してくるカルマ。
しかたないので僕もターゲットの方へ顔を向けた。
ターゲットから見える僕は、間違いなくぎこちない笑みを浮べているだろう。
だって上手く笑えている気がしないんだから。
僕は社会の裏……欲望で汚れた場所でしか生活したことがない。
普通の人間の生活に慣れてはいけない。
慣れてしまったら……本来の場所に帰ったとき、生きづらくなる。
……こんなに長く同じ場所に留まったことがないからこその罠か。
相手に自分を信用させる……いつもは短時間で行っていた。
しかし今回の場合、それは逆効果になっていたらしい。
逆もまた然り、という言葉になりつつあるこの状況をどうにかしないと。
そう思いながら自分の足首に何かが結ばれる感覚を感じていた。
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2022/01/15
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