リーダーの時間
喫茶店外
「以前にアルバイトが発覚して、君はE組に落ちることになった。なのに、あれから反省していないようだね?」
「浅野、このことは黙っててくれないかな。今月いっぱいで必要なお金は稼げるからさ」
「二度も校則を破った者の話は信用できない。今回見逃しても、また同じことを繰り返す」
「浅野のヤツ……!」
先程、前原が言っていた。
磯貝がE組に落ちることになった原因は校則違反……アルバイトをしていたからだと。
彼奴の成績は悪くない。
むしろE組の中では上位に入る。
たまに勉強を教えているが、物わかりもいいし、成績で落とされたとは思っていなかったけれど……そうか、なるほどな。
「おい学秀」
「……何かな」
「確かに中には理由もなくルールを破る者はいる。だが、その中にはやむを得ない理由で破る者も僅かに存在するんだ」
「……へぇ。彼を庇う気かい?」
「君がそう聞こえるなら、そうなのかもね」
今まで塀に座り、端の方で黙って会話を聞いていた僕。
……僕にとって学秀は少しだけ嫌いな人間に近いと思ってた。
だけど面白い競争相手だと思い、少し見逃していた。関わる機会も少ないだろうと思ってね。
「決まり事を破る。守れないならそれは”排除”するしかないだろう」
「……そうか。学秀、君の考えはそれなんだね」
塀から腰を上げ、磯貝の隣まで歩く。
学秀の鋭い瞳と視線が合った。
「___どうやら君は、僕が忌み嫌う人間に入るようだ」
僕は上に立つ人間……その中で自分の思い通りに動かない者は容赦なく切り捨てる人間が大嫌いだ。
そんな人間を見ていると___僕という存在を生み出したあの人間達を思い出す。
自分の思い通りの形でなかったから捨てた
……そんな臆病者達を思い出して頭が怒りに染まる。
「へぇ、そうなんだ。でも仕方ないだろう? 君はE組……弱者なんだから」
「!」
「君は前に言っていたじゃないか。弱者と呼ばれるのは嫌だと」
「……そうだな」
「そろそろA組に来たらどうだ? 歓迎するよ」
作った笑みでこちらに手を差し伸べる学秀。
僕はそれを迷わず自身の手で弾いた。
「!」
「磯貝には明確な理由がある。それに彼は分かって校則を破った。破らなければ生きていけないからだ」
「……それがどうかした?」
「僕が言いたいのは、彼のようなやむを得ない理由で校則を破る者の事も考えて”改善”しろってことだ」
「……!」
磯貝の息を呑む声が聞こえた。
隣から視線も感じる。
……彼は。
磯貝は裏表がない人間だ。
それに、彼は相手を憎むより自分を悪にする考えの人間だ。
リゾートの時の事をまだ根に持ってるくらいにな。
きっとまだ自分が悪いと思っているんだろう。
僕は気にしていないと何度も言っているのにね。
「この校則とやらは、生徒会が生徒の意見を尋ね、それを学校側へ提出する仕組みだろう? きっとこの学校の事だ、E組関連については手を付ける気がないんだろう?」
「それがこの学校のルールだからね。E組は落ちこぼれである、嫌なら這い上がってくるしかないんだよ」
「その考えが嫌なんだ。どんな人間でも平等であるべきだ。僕がその校則とやらを作る側なら、あらゆる可能性を考慮して作るけど? まだ僕の方が常識あるんじゃないかなァ」
人を殺す、殺人鬼である僕の方が……ね。
その意味を込めて言うけれど、学秀は知らないんだった。
僕が人を殺す殺し屋であることを。
「……分かった。名前、そこまで言うなら磯貝にチャンスを与えよう」
そう言って腕を組み、顎に手を当てた学秀。
その笑みは……間違いなく何かを企んでいる顔だ。
「……では一つ、条件を出そうか」
「条件?」
「そう。闘志を示せたら、今回のことは見なかった事にしよう」
「……闘志?」
見逃す、か。
ま、ルールというものは簡単に変わらない。
だから何度も意見を重ね、実現に近付けないといけない。
僕もすぐに変わるとは思っていない。
だけど、こうもあっさり見逃すと言うとは……余程その瞳の奥で狙っているものを掴みたいらしい。
きっと彼が狙っているのは以前と同じだ。
E組が何を隠しているのか……それを暴きたいはずだ。
あの男はしつこい気がするからねぇ。
その本性を全て知ったわけじゃないけれど。
「うちの校風はね、『社会に出て戦える志を持つ者を、何よりも尊ぶ』。違反行為を帳消しにする程の尊敬を得られる闘志、それを示すには___」
学秀が磯貝のアルバイトについて見逃す代わりに提示してきたもの。
それは___
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2022/01/13
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