紡ぐ時間
回収された機体はかなりボロボロの状態で帰還した。
イトナの机を囲むように、皆その機体を覗き込む。
「くそぉ……まさかイタチにやられるとは……」
「次からはドライバーとガンナーを分けないとなぁ……。射撃は頼んだぞ、千葉」
「お、おぅ……」
機械操作ってそういうものなのか?
僕はそういうものさっぱりだからなぁ……。
「開発にはミスが付きもの。”糸成1号”は失敗作だ……だが、ここから紡いで強くする。100回失敗してもいい、最後には必ず殺す。よろしくな、お前ら」
「おうよ!」
……もし。
もしイトナがここに来なかったらどうなっていたのだろうか。
元の自分を取り戻せないままだったのだろうか。
それともシロによって……いや、彼奴の事を考えるのはやめよう。
今見えている光景に辿りつけた。
それだけでいい。
「よっしゃあ! 3月までにはこいつで、女子全員のスカートの中身を偵察するぜー!」
スカートの中身を偵察って表現を変えているけど、つまりスカートの中身を見るって事だろ。
全く、岡島は相変わらず頭の中がピンク色だな。
……って、ん?
まてよ?
まさか僕が登校したときに男子しかいなかった理由って、そういう目的があったからって事……。
「スカートの中身が何ですって?」
「片岡ー!?」
考え込んでいると、岡島がメグの名を呼ぶ。
顔を上げると、そこには表情の硬いメグがいた。
その後ろにはひなた、日菜乃、莉桜、桃花も。
「いや、なんでもない……カースト制度の話をしてたんだ!!」
スカートとカースト……うん、確かに文字数も使う文字も一緒だが、その態度ごまかせてないぞ。
「聞いてたわよ……」
「男子さいってー」
「ちょっと……誰が言い出しっぺ? まさかイトナ君じゃないでしょうね!?」
「岡島」
「ちょッ!?」
なるほど。
確かに岡島ならこんなこと考えそうだな。
というか先程の発言が自分が言い出しっぺです、って言ってるようなものだったし。
「おはようございます! あ、岡島さん! 魚眼レンズで撮影した画像の補正プログラム、お渡しできますよ!」
女子5人の形相が岡島に向けられた。
それもかなり鋭いものが。
「待て! 俺だけじゃない! なぁ!?」
「いや、知らん。俺を巻き込むな、岡島ー」
「きたねーぞ前原!!」
「いいや、観念しろみんな」
磯貝の発言で確定したな。
言い出しっぺは岡島ではなく、男子全員という事が。
「どっちみち、あんたらみんなの企みなのね!」
「「「「男子サイテー」」」」
「ぶふっ」
あ、吹き出してしまった。
だってあまりにも面白くってさ。
「あれ、君は誰?」
「うちのクラスにいないよね」
「そういえばさっきからずっといたな……」
「ふっつーに馴染んでたから気にならなかった……」
漸く存在に気づいたらしいクラスメイトの視線が、僕に集中する。
これは声を変える必要なかったな。
調整していた声を元に戻した後、口を開く。
「おはよう、男子のみなさん? 女子で1番に登校した苗字名前です。……実に年相応の計画を立てていたようだね?」
「え、苗字!?」
「いや、違うんだ!! これは…」
「や〜っぱり!!!」
「うわああああああっ!!?」
謎の男子生徒の正体が僕である事、そして話を最初から聞いていた事により、男子達はさらに女子からの反感を買うことに……。
僕は男子の輪から出て、磯貝の隣まで移動する。
「気がつかなかったよ。まさか苗字だったなんて」
「うん、苗字さんの面影ないもん」
「それが変装というものさ」
他の男子の輪から外れている磯貝と渚は、もしかしたら付き合わされていたのかもしれない。
ま、止められていないから意味ないだろうけど。
「おはよー、渚君。あれ、なにやってんの?」
「ちょっと、事情のもつれが……」
「?」
今登校してきたらしいカルマは教室の状況を見て首を傾げている。
どうやらこの事は知らなかった様子。
カルマだけは無実だな。
「というか、あんた誰?」
「あぁ、そこの男子生徒は……」
「おはよう、カルマ。僕だ」
僕の存在に気づいたカルマが話しかけてくる。
磯貝が答える前に自ら正体を話した。
「え、名前!?」
「ふふん、気がつかなかったか」
「ちぇ、また気づかなかった」
「僕の変装を見破れるわけないだろ」
「次こそは絶対に名前だって見抜いてやる!」
「なんだ、勝負か? 面白い」
僕の変装を見抜こうというのか。
そんなことできる訳がない。
レオンとして名を馳せて以降、変装を見破られたことは一度もないんだから。
「それにしてもかっこいい〜!」
「リゾートの時とはまた違ったイケメンね!」
「もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
さて、ホームルームが始まる前には変装を解かないとな。
紡ぐ時間 END
![](//img.mobilerz.net/sozai/1013_b.gif)
2022/01/10
prev next
戻る