堀部糸成の時間
side.赤羽業
俺たちが殺せんせーの後を追って着いたときの状況は、まさしくピンチというもので。
殺せんせーの後ろにはイトナ君がネットに覆われていて、名前は……
「___っ!」
シロの立っている場所。
イトナ君と同じくネットの中に名前がいた。
ピクリとも動かない名前を見て、怒りが頭の中を支配した。
……冷静になれ。
まずは殺せんせーの動きを妨害しているあのライトをどうにかしないと。
「ぐわッ!?」
シロの部下であろう人物を背後から蹴り上げる。
下には怪我のないよう受け止める係の人がいるから、思いっきり蹴り上げられる。
周りから短い悲鳴が聞こえ始める。
どうやらみんなも始めたようだ。
俺は木の上に設置されている、対殺せんせー用の圧力ライトを停止させて、下へ降りた。
「こっち見てて良いの〜、シロ?」
周りから殺せんせーを襲っていた圧力ライトが消えた。
殺せんせーを攻撃する人もいなくなった。
それはつまり……
「撃つの止めたら、ネットなんて根元から外されちゃうよ?」
殺せんせーが動けるって事だ。
シロが後ろを振り返ったときには、殺せんせーが機械を破壊している所だった。
俺は急いでトラックの元へ走り、倒れている名前の元へ向かった。
「カルマ、あたしも行く!」
俺に続いて後を着いてきた中村さんと一緒に名前をネットから出す。
名前はぐったりとしていて、どうやら意識がないらしい。
「名前、しっかり!」
お願い。
このまま、いなくなるなんて事にならないで。
***
シロが去って、しばらくするとイトナ君の意識が戻った。
彼の意識が戻る前に分かった、イトナ君の事情。
どうして携帯ショップを襲っていた理由。
それは、イトナ君の両親がスマホの部品提供を行っている工場……堀部電子製作所の息子だったのだ。
世界的にスマホの部品提供を行っていた町工場だったらしいが、一昨年に負債を抱えて倒産してしまったそうだ。
不破さんによれば、社長夫婦……イトナ君の両親は彼を残して雲隠れなんだという。
それを踏まえて、何故イトナ君が勝利に固執しているのかが理解出来た。
きっとそれは、逃げた両親が関連している。
詳しいことは本人に聞かないと分からないけれどね。
「……」
俺の近くで木に寄りかかって寝かせられている名前を見る。
その表情はまだ苦しそうだった。
『堀部イトナはどこだ』
『これ以上お喋りしている暇はないんだ。一刻も早く彼を見つけ出さなければならない』
『離してくれ、ターゲット! 僕はあの男を追わなくちゃいけないんだ!』
『それは聞けない話だ。僕はあの男に用があるんだ……個人的な用事が!!』
……名前がイトナ君を探していた理由。
それは、名前がイトナ君の事情を知っていたからって事だ。
元々は普通の人間だったイトナ君と、殺し屋として生きている名前。
一体どんな共通点があるのだろうか。
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2021/11/28
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