堀部糸成の時間



休みを挟んでまた平日。
変わり映えのない毎日だが、着々と地球爆発の日は迫っている。

そんな中、今日も椚ヶ丘中学校3年E組へと登校。


「……? なんだ、集まって」


ガラガラと音を立てる戸を開くと、教室に集まりができていた。
不思議そうに見ていると、戸を開く音に反応した数名がこちらを見た。


「名前ちゃん!これ見てよ!」

「? なんだ、これは」

「週刊誌だよ」

「なんで週刊誌なんて持ってきているんだ? 見る暇あるのか?」

「そうじゃないよ! ここ見て、ここ!!」


そう言って莉桜が週刊誌をぐいっと僕に近付けた。
おい、近すぎたら逆に見えないんだが……。

どうしても僕に見て貰いたい莉桜から週刊誌を受け取り、表紙を見る。


「……『深夜に出現!!椚ヶ丘の恐怖!下着ドロ』。『平和な住宅街に激震走る!!!正体不明のFカップ以上のみを狙う黄色い男』」

「これ、思い当たる人がいない?」


……なるほど。理解した。


「この新聞も見てよ! さいてーじゃない?!」


桃花から渡された新聞には、先程の週刊誌の表紙とほぼ同じような内容が書かれている。……ご丁寧に『ヌルフフフ』とも書いて。

つまり彼らはこう言いたいのだ___この下着ドロの正体はターゲットだと。


「……はぁ。あのなぁ、これは」

「汚物を見る目えええぇぇぇッ!!!?」


この週刊誌の内容に口を出そうとした瞬間、ターゲットの大声が教室に響く。タイミングが悪いな。
僕の周りにいる生徒達はターゲットを汚物を見る目で見ている。つまりだな。すごく顔が悪い。


「これ、完全に殺せんせーよね?」

「正直がっかりだよ」

「こんなことしてたなんて」

「ちょ、ちょーっと待って下さい?! 先生、全く身に覚えがありません!!」


そりゃそうだろうな。
だってこれ___


「じゃ、アリバイは?」

「アリバイ?」

「この事件の当日深夜。先生、どこで何してた?」

「なにって……高度10000m〜30000mの間を上がったり下がったりしながらシャカシャカポテトを振ってましたが」

「誰が証明できんだ、それ!?」


ターゲットのやることは人間業ではないから、そんな事言われてもなぁ……。
ツッコむ気持ちも分かるよ、うん。


「みんな、よせ! 確かに殺せんせーは小さな煩悩満載だ。けど、今までやったことって言えば精々……エロ本拾い読みしたり、水着生写真で買収されたり……休み時間、一心不乱にグラビアに見入ったり……『手ぶらじゃ生温い。私に触手ブラさせて』という要望はがきを出してたり……」

「磯貝、フォローになってないぞ」

「くっ……先生、自首して下さい……!」

「磯貝君まで!?」


謎に悔しそうな磯貝の肩に労いの意を込めてポンッと手を乗せた。え、それドンマイって意味にならないかって?
……勝手に意味を変えないでくれるかな。

あと、なんで磯貝はそんなにターゲットのエロ事情(?)に詳しいんだ?


「失礼な!! 先生は潔白です!! ならば教員室に来て下さい!! 先生の理性の強さを証明するためにも、先生のグラビアコレクション一遍残さずすべて処分してみせましょ……っ!?」


教員室にて、ターゲットの机の中から出てくるグラビア雑誌を眺めていたときだ。
___ターゲットの触手に、紫のブラジャーが。それも、なかなかのサイズのものと来た。

……確定したな。


「ちょっと、みんな見て! クラスの出席簿!」


隣から誰か出てきたと思えば、出席簿を抱えたひなただった。
開かれた出席簿を横から覗き見る。


「女子の横に書いてあるアルファベット……みんなのカップ数を調べてあるのよ!」

「ちょーっ!? 私だけ『永遠の0』って何よこれー!?」


……と、叫んでいるカエデは通常運転として。
一応こちらでは女子として登録してあるため、当然僕の横にもアルファベットは書かれていた。
苗字名前と書かれている横にはEの文字が。ふーん……。


「僕、ターゲットに教えた覚えはないんだがな……」

「? 何が?」

「バストサイズ」


もう反対の隣にいた磯貝が僕の独り言に反応した。
問われたからそう答えたのだが……。


「……どうした磯貝」

「いや、リゾートのこと思い出して……」

「いつまでも引きずるなぁ、君は」


こちらに背を向け、顔を手で隠している磯貝。どうやらかなり根に持っているらしい。
僕は気にしていないと言うのに。


「! しかもこれ、椚ヶ丘Fカップオーバーの女性リストって……!」

「ちょ、ま……そんなはずは……!」


ターゲットに向けられる疑いの目は、段々と確信を持ち始めている。
ま、これだけのものを見ては”証拠”と捉えられても仕方ない。


「あ〜、そうだ〜! 放課後、皆さんとバーベキューしようと準備しておいたんです! ほら、この串なんてほら〜美味しそうで…あぁっ!?」


クーラーボックスから出てきたのは、カラフルなブラジャーが巻かれた串。触手に持った串に食べ物は一切着いていなかった。


「やべぇ……」

「信じられない……」

「不潔……」


凍り付く空間。
ターゲットに向けられる確信の眼差し。

……あぁ、滑稽だね。面白くて笑ってしまいそうだ。
誰がって? ターゲットのことじゃないよ?

___まんまと罠に乗せられている生徒達彼らのことだよ。





2021/08/24


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