竹林の時間





放課後を迎え、今日は真っ直ぐ家路を辿る事が出来た。
時間も多く出来たし、今日こそはこの辺りを見て回るか。


「……ここにはいないか」


僕が探している人物……それはとある科学者だ。
現在彼奴は名前を偽って姿を隠しているのだ。……僕の様にね。


「くそ……っ」


どうしてあの声が機械を使って偽装されていたものだと気がつけなかったんだ。……これじゃあ声帯模写を使う暗殺者なんて言えないじゃないか。


「……おっ」


家の屋根を飛び越えながら移動していると、見慣れた制服が。
ちょっとした出来心で脅かしてみることに。


「ん?……うわああああッ!?」

「やあ竹林。こんばんは」

「……なんだ、苗字さんか」


今の格好はE組彼らと初めて会った時と全く同じなので、竹林視点からは既視感に襲われているだろう。
僕は被っていたフードを外し、竹林と対面する。


「こんな遅くに何していたんだい?」

「……別にいいだろ」

「よくないさ。夜は危ないよ、いくら男性だからと言って襲われない確証はないんだから」

「それは君にも言えると思うけどね」

「僕は暗い場所こそ本領を発揮するんだよ。夜目が良い方だからね」


自分の目を指指しながらそう答えると、竹林は眼鏡をクイッとあげた。
そして絞り出すように僕に声を掛けてきた。


「……君にとって本校舎の生徒はどう見える?」

「僕から見てかい?……そうだな」


本校舎の生徒と言われパッと思い着くのは学秀だ。
彼を見て思う事は……そうだな。


「ある特定の人になってしまうんだけど……どこか怖がっている様に見えるよ」

「怖がって……」

「そう。自分が上に立つことで安心したい……そんな感じかな」


弱みを握ることで優位に立つ……暗殺でも同じだ。
相手の弱点のみを狙い、一発で仕留める……そうでなければこちらの居場所を特定され、人物像を把握されてしまうからね。


「そんなことを聞いてくるなんて、一体どうしたんだい?さっき君は『ほっといてくれ』と言っているのと同じような事を言っていたじゃないか」

「……分からないんだ」

「分からない?」

「僕は家族に認められるのが大事だと思った。だけど、今日理事長に呼ばれて……今の僕が正しいのか分からなくなった」


理事長殿に何を言われたのかすごく気になるところだが……。

こういうのはターゲットに言うべきではないのか?
そう疑問に思った事を竹林に問うと、彼はこう返してきた。


「E組のみんなにも殺せんせーにも言いづらいけど……君なら言い易い気がして」

「……君の感覚は理解出来ないが、まあいいだろう」


迷う事は人間誰しもある。
些細な事から重要な事まで、人間は悩むものだ。

……偶には人を導くのもいいだろう。


「これは僕の考えだが……迷ったその時、どちらにベクトルが傾いているかを理解するんだ」

「迷っている方に?」

「そう。僕はね、迷った場合はそれは”何かを行いたい”、”やるべきだ”と思う証拠だと考えている。今回君が迷っているのは『家族』と『E組』……違うかい?」

「!!」


E組彼らが竹林について考えていると言う事は、その逆も然り……とはまでは断定できないけれど、大体はあってるはずさ。
思い入れがあると言う事は影響されているって事なんだから。

だから竹林が悩んでいるのは『家族』と『E組』だと思ったんだけど……僕の推理は間違ってたかな?


「今此処で答えを聞かせろとは言わない。……じっくり考えるといい」

「! 待ってっ」

「待たないよ。君はさっさと家に帰りたまえ」


後ろから僕を呼ぶ竹林の声を無視して、僕は闇夜に紛れた。





2021/04/24


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