記録→分析→調査



「ただいまー!」


1日が経った。
俺は村長の家に滞在していた。現在屋内には俺、キャンディス、ディシア、村長、イザークがいる。

旅人とパイモン、アルハイゼンがある人物の元へ向かってから1日が経っているわけだが、何か発見があったのだろう。
そう考えた俺は、キャンディス・ディシアへ三人の行方について事前に共有していた。


今思えば、俺の行動は間違っていなかったようだ。
彼らは調査が終わったのか、村長の家へと戻ってきた。元々、それぞれ調査を行うという話になっていたため、突然な話ではない。


「お疲れ様です、お水をどうぞ」

「状況は?」


キャンディスから差し出された水を飲む彼らに、俺は現在の状況を尋ねた。偽りの情報を話していた村人から何かを得て、その内容を調査していたのは間違いないはず。
何か収穫があるといいんだが……そう思っていたのだが、一人増えていた。

その人物の服装を見るに、教令院の学者のようだが……。


「あら? この方は……」

「残念ながらこいつはイザークの祖父には若すぎる。だが、俺たちが探していた対象の一人だ」

「何か掴めたのか?」

「それについて、今から話すよ」


どうやらその学者は、これから話す内容に絡むらしい。
俺は旅人、パイモン、アルハイゼンから調査で得た情報を黙って聞いた。


……まずは、俺の前で不自然な行動をとっていた女性から得た内容だ。
彼女は俺たちに話した情報以上のものを持っていた。その内容は、数年前に廃院した魔鱗病病院から声が聞こえたという。

その病院で調査したところ……どうやらあの場所で神の缶詰知識の抽出を行っていた拠点だということが分かったらしい。


「この計画は俺たちがアアル村へ来る前にすでにあったものだろう。なにせ、神の缶詰知識は、最近初めて流行し始めたわけじゃない。それなのに、俺たちがアアル村に近づいた途端、やつらはまるで俺たちの接近を知っていたかのように撤退した……何故だ?」

「うーん、たしかに……なんでだろうな……」


だが、彼らが到着した時には人はおらず、そこの学者だけが残っていたらしい。あの学者がいたことで、あの廃院跡が神の缶詰知識抽出拠点になっていたことが判明したわけだが……。

それでも、だ。
タイミングがあまりにも良すぎる。



「こういう状況のときは、大体『あれ』がいるものです___内通者」



話が進まなくなったとき、キャンディスがこぼした言葉。
それは、完全な裏切り行為を行う存在の疑いだった。


「我々の中の誰かが、相手と連絡をとっていた可能性があります……」

「えっ? オイラたちの関係ってそんな上辺だけのものだったのかよ?」


可能性はないと言い切れない。
ここまで行動を読まれているとなれば、それを疑うしかないんだから。


「どうやら、君たちはまだ問題に気づかないらしい」

「何か考え付いたの?」


黙り込む空間の中、アルハイゼンが口を開く。
お前は何を思いついたんだ?



「セノ、彼らが俺たちの行動を予測できたのは___君がいたからだ」



アルハイゼンに告げられた内容に、俺は無反応でいることはできなかった。
まさか、俺が内通者といいたいのか?


「おい、それってどういう意味だ?」

「発言には気をつけろ。さもなければ、容赦しない」

「合理的な推測に過ぎない。俺にはその理由がある」


ほう、俺が内通者と言いたいのか。
そう思った推測を聞かせてもらおうか。


「つまり、セノさんが内通者であると? 面白いですね。私はあなたが一番怪しいと思っていましたよ。何せいつも単独行動をされていましたから」

「その見方も一理あるが、さっき病院から戻る途中、あることを思い出したんだ。それは……セノが俺たちと違うという点だ」


俺と他が違う?
何が違うというんだ。目的は一致しているだろう……それ以外で何か違う点があるというのか?


「……何が言いたいんだ」

「君は自分が何者か忘れたのか___『大マハマトラ』」

「!!」


……なるほど、そういう意味で違う、か。


「君は教令院のマハマトラで、いつも多くの情報を握っていた。誰が何をしたか、どんな汚点があるのか……そういうことを知ってこそ、君は相手に手出しができた。言い換えれば、教令院はずっと君に特殊な情報ルートを提供していたんだろう。やつらのこれまでのやり方から見て、君を警戒しないと思うか?」


アルハイゼンの言葉で思い出したことがある。
それは、俺が教令院を出る前のナマエとの会話だ。


『貴方は大マハマトラなんですから、本当に上層部が何か企んでいるのなら、真っ先に警戒されるのは貴方です』


これはまだ、俺が教令院の行動を疑っている段階だった頃の会話だ。……まさか、ナマエは分かっていたのか?
俺が、上層部に最も警戒されているということを、何よりも分かっていたというのか?

だからナマエは、自分がやると言っていたのか?


「凶悪な狼を飼うときには、自ずとかまれない方法も掌握するものだ」

「教令院は俺の行動を監視していたのか?」

「それほど簡単な話じゃない。教令院はスメールのすべてを監視している。だがとりわけ君に対しては、特殊な手段があるのだろう。一定の期間ごとに、人々は『ジュニャーナガルバの日』を迎える」


ジュニャーナガルバの日
それは教令院が缶詰知識を通してアーカーシャに情報を入力する日を指す。

……それが一体どうかしたのか。


「あるとき、俺は操作台で分厚いノートを見つけた。その内容は、大マハマトラの行動報告から、処刑の癖まで……他にも様々なことが記録されていた」

「つまり、教令院は俺の情報をアーカーシャに入れていたのか?」


そんなことが……だが、何のために?
それに、何故アーカーシャに記録する必要がある?


「……だが、そんなことをして何の意味がある……俺の行動など、アーカーシャに入れておくほど重要なものじゃないはずだ」

「___アーカーシャは演算ができる」

「!!」

「アーカーシャの演算能力をもってすれば、入力されたデータをもとに君の行動を完全に予測できる。いつ出発し、どのルートでどこへ行くか……一目瞭然だろう」


俺の行動が、予測されていた……!
アーカーシャの演算能力がどれほどのものか、教令院に身に置いていた者だから分かっている。


「教令院はとっくのモカ氏から君を警戒していたんだよ。まあ、君が教令院を辞職したところを見ると、やつらの判断もあながち間違いではなかったと言える」


まさか、あの時唐突にナマエが現れたのも、俺の行動を予測されていたから、ということか?
……俺の行いにずっとナマエが巻き込まれている。それがとても悔しいと同時に、怒りでもあった。


『セノ先輩!』


あいつらは分かっていたんだ……俺がどれほどナマエを信頼しているのかも。


「その話でいえば、ナマエについても……」

「調べてはいないが、君関連ということでアーカーシャには記録されているだろうな」

「……チッ」


どうやら教令院は、俺を怒らせるプロのようだ。
……だが、何故あの時俺への刺客としてナマエを送り込んだんだ?


「そうだったのですね……まっすぐに規則を貫くセノさんは、彼らにとってはかえって目の上のたんこぶだったということですか。彼らには、強固な意志も忠実な信仰心も無用なのでしょう。臨機応変に、ただ利益を追い求める……これこそが、あれら学者の本当の顔なのです」


ナマエの襲来に着いて考えていると、キャンディスが俺をフォローしてくれている言葉が聞こえた。


「セノさん、あまりお気になさらず。これは逆に、あなたが信頼に値する仲間であることの証明になりました」

「……俺のせいで、やつらは事前に撤退準備ができた……」

「そんなに自分を責めるなよ。こんなことがわかるやつなんていないって」

「そうだよ」


だが、これは事実だ。
俺の行動が予測されていたから、狙っていた情報が逃げてしまった。これだけは変わらない。

……だが。


「……いや、分かった。こうなれば、やつらの向かった場所にも……想像がつく」


それは逆に、俺自身も分かるということだ。
初めは衝撃の事実で動揺してしまったが……言い換えれば、俺も奴らの行動を予想できる、ということだ。

何せ、アーカーシャは俺の行動パターンをもとに演算しているのだから……そうだろう?
だから、あの日ナマエがアアル村を襲ったことにも必ず理由がある。考えられるのは、俺の行動パターンを計算するうえで、想定外の行動をとる結果が出た、とかな。

でなければ、ナマエを出してこないはず。俺は彼女がマハマトラに入ってからずっと指導してきた。その強さも俺がよく分かってる……向こうの手札で俺に適う相手となれば、ナマエしか出せるカードがなかった、ということだ。


であれば、次に俺が教令院側にとって予想外の行動をする可能性が出た場合は、またナマエが出てくる。
……その時こそは、逃がしてはならない。

教令院が悪事を働いていることは確定しているんだ。
なんとしてでも救わないと。例え、操られた状態だとしても。


「おおっ! 立ち直りが早いじゃないか!」

「安全地帯は、常に危険と危険の間に隠されているものだ」

「そうか! オイラもわかったぞ! あいつらがセノを避けたいんなら、一番安全なば場所は……」

「セノがついさっきまでいたところ」

「だな!」

「やつらからすれば、俺の行動ルートとは逆の方向に逃げればいいだけだ」

「頭がよくなったね、パイモン!」


皆も俺の考えを理解できたようだ。
それならばここに滞在しておく理由はない。逃げられてしまったら元も子もないからな。


「すぐに出よう」

「俺も、まだ調査しなければならないことがある」

「みんな一緒に行こうぜ、あいつらを追うんだ!」

「___待って、おれも行く!」


皆が出発しようとした時だ。
幼い声が俺たちを呼び止めたのは。


「イザーク、あなたも行くの?」


その声の主はイザークだった。
砂漠の民とはいえ、危険な場所に連れて行くのは気が引けるが……。


「おじいちゃんを探し出すんだ。大丈夫、みんなに迷惑をかけないようにがんばるから!」


元々イザークは祖父であるグラマパラを探したいと言っていて、一緒に行動していた。……本来は止めたいところだが、彼の意思を尊重したい。


「皆さん、どうかイザークのことをよろしくお願いいたします」

「分かった」

「よし! じゃあ行こうぜ! もちろん食料も持っていくぞ!」


話はまとまった。
俺が調査したルートをもとに、やつらの足取りを追う。
時間は早ければ早いほどいい。すぐに出よう。

俺は周りより先に家の外に出た。



「でも、なんか一人足りないような……うーん……?」



そのため、パイモンがそう言っていたことに気づかなかった。






2024/06/01


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