2:突発的アンタゴニズム



「はぁっ、はぁ……っ!」


先程まではベネットが松明に点火してくれていたお陰で明るかった。しかし、今は少女との戦闘で、彼女の攻撃により徐々に炎が消え……遂には全ての松明から炎が消えてしまったのだ。

そこで襲ってくるのが少女だけではなくドラゴンスパインの極寒の大地である。


「すまねぇ、蛍……!」

「ちょっとは手加減しな、さい……ッ」

「さむ、い……っ」


その2つの要因によってベネット、フィッシュル、レザーは既にダウンしてしまった。今動けるのは私だけ……だが、そう余裕ではなかった。

徐々に身体が寒さで動かなくなってきている。更には、足下に水が溜まっていることもあって、身体が寒さによる侵食を受けるスピードが速くなっている。

少女の攻撃を躱し続けられるのも時間の問題だ。


「このままじゃみんな倒れちゃうぞ!! 誰か、誰かいないのか!!?」


大声でパイモンが助けを呼ぶ。……しかし、この部屋に来るまでに通った道は割と長い。そしてドラゴンスパインはずっと吹雪いているため、その風の音がある。この2つの関係で、仮に近くに人がいたとしてもパイモンの声は恐らく……届いていない。


「く……っ」


遂に身体が極寒に耐えられなくなり、その場に膝を着いてしまった。ゆっくりと見上げれば、こちらを見下ろす金色の瞳……少女が両手剣を片手で振り上げる。

どうして彼女は機敏に動ける?
いくら彼女が遺跡守衛かもしれないという推測があれど、身体はどう見たって人間そのものだ。私達と同じく凍えてしまい動けなくなってもおかしくないはずなのに。



「___”排除”」



少女の冷たく、そして機械を彷彿させる口調が真上から聞こえる。地面しか映っていない視界に、少女の足下が見える。私の目の前にいる彼女はきっと、武器を振り上げているのだろう。

後ろでパイモンが私を呼ぶ声が聞こえながらも、身体は動かない。……ここまで、なのだろうか。そう思った時だ。



「させないよ」



ガキンッと金属音が響く。その音が何か見ようとした瞬間、パリンッとガラスが割れる音が聞こえた。その正体は放熱瓶だった。


「無事かい、みんな」

「あ、アルベド〜〜〜っ!!!」


放熱瓶による熱で凍っていた身体は回復。身体が言うことを利くようになり、顔をあげれば……そこにはアルベドがいた。どうやら少女の攻撃を防いだのも、放熱瓶を放ったのも彼のようだ。


「なぁ、アルベドはあいつが誰か分かるか?」

「今は悠長に話はできない。先に彼女を停止させてからだ」


そう言ってアルベドがこちらを振り返り語りかけるが……。


「”敵性反応、1追加。更に戦意喪失していた者達の復活を確認。よって、対象6……攻撃を再開します”」


アルベドが弾き返した少女が再起し、武器を構え直していたのだ。
武器を振り上げ少女が再び襲いかかってくる。彼女がターゲットにしたのは___アルベド!!


「アルベド、後ろっ!!!」


彼が油断していたというわけじゃない。私達の事を気に掛けてくれただけで、彼がここに駆けつけてくれなかったら私達は間違いなく全員生還できる可能性が0だった。だからアルベドが心配するのも当然なんだ。

そして、彼女の敵意がとんでもなく高く、何が何でも殺そうとしている。……今まで私達に向けられていたものがアルベドに向いたのだ。



「……っ!」



アルベドが振り向くより先に少女の振り下ろす両手剣が……間に合わないと分かっていても私はアルベドへ手を伸ばした。


「あ、アルベド……?」


両手剣を振り下ろした音と、それにより発生した砂埃。砂埃に加え、暗い部屋であることもあってアルベドの状況が分からない。


「……」


パイモンが震えた声で声を掛けるが、返答が来ない。……暫く経っても特に起こる気配がない。

そんな、まさか……!
嫌なことを想像してしまった時、漸く砂埃が晴れてきて状況が見え始めてきた。暗い中、何とか目を凝らす……見えたのは人影らしきもの。


「あ、アルベド! 無事だったんだな!!」


段々と晴れる砂埃から見えたのは、見慣れたアルベドの後ろ姿。嬉しそうにパイモンが声を掛けるも、彼はこちらを振り返るどころか、返事をしない。

……そういえば、あの少女は?
きっとアルベドの視線の先に彼女がいるはずだ。そう思いアルベドの近くへ駆け寄ろうとした。


「___って、え……?」


完全に砂埃が晴れ、はっきりと状況が分かるようになった。そこから現れたのは___アルベドの真横に振りかざした後、刺さったままの状態の両手剣。それは少女が持っていたものだ。


両手剣を辿るように視線を移した先にいたのは、当然あの少女だ。……しかし、様子がおかしい。
先程まで彼女は両手剣を片手剣のように軽々と扱っていた。なのに視界の先にいる彼女は両手剣を両手で持っている。だが、もう片方の手が握っているのは彼女自身の手首・・・・・・・だった。

それも……どこか押さえ付けているように見える。アルベドが立ち尽くしていたのは、彼女の様子を見ていたから?


「……離しなさい」


淡々とした少女の声が聞こえる。だが、彼女の言葉は不自然だ。何故なら彼女を拘束している人など誰もいないのだから。自分で自分の手首を押さえ付けている……その手を除いて、は。


「離しなさい、オリジナル・・・・・


また少女が言葉を発する。……ただし、今度は対象を口にしていた___オリジナルと。
オリジナルとは一体誰の事を言っている?
警戒を緩めず、少女の様子を窺っていた……その時だった。


「……っ、」


小さな息づかい。
集中していなかったら聞き逃すほどに小さな息づかいが聞こえた。それと同時に少女が首を横に振ったのだ。
その様子は先程まで私達を襲った少女からは考えられない行動で、しかも彼女から息づかいなんてもの……人間らしさを感じなかった。


「おい、どうしたんだよ……?」


思わず、といった様子でパイモンが少女に話しかける。両手剣を握る手首を押さえつけている手震えている。それがまるで少女が、何かに抵抗して・・・・・・・いるようにしか見えなくて。そして、その何かというのは……あの、機械の様な彼女のこと?

待って、そうなったら少女は___。



「や、めて……っ!」



ある推測が浮かんだ時、震えた声で確かに少女が言ったのだ……「やめて」と。そして、こちらを見上げた少女の表情は、私達を襲ってきた時の無表情ではなく、苦しそうで、辛そうで……泣き出しそうな、そんな表情だった。

両目金色だったはずなのに、片方が水色に変色している。
それを見て思ったこと。……まるで、彼女の中にもう一人・・・・いるようにしか、私には見えなかった。



「ナマエ……!」


アルベドが少女に手を伸ばす。聞き間違いでなかったら、今アルベドは名前らしき言葉を少女に掛けた……?
そう思っていた時だった。



「敵は全て排除する。それが、マスターの命令」



少女が押さえ付けていた自身の手首を振り払う。そして、武器を持ち上げながらゆっくりと身体を起こす。
顔を上げた少女の顔はまた無表情に戻っていて、両目金色に戻っていた。あの時自分自身を押さえ付けていたのは誰……?

そう考えていると、少女が攻撃態勢へと入った。___まずい、あれは光線を放つ体勢だ!!


「みんなっ」


思わず声をあげてしまった。またあの攻撃を受けたら今度こそ……!
それも少女の近くにいるアルベドは1番危ない……!

対処法がない今は撤退するしかない、そう考えアルベドの手首へと手を伸ばした。



「___コード『..3-23.-3..-22.』」


突如、アルベドが謎の言葉を発する。その直後、少女の動きが止まった。


「『.32−..3』、『333-3..』」


続けてアルベドが謎の言葉を発する。聞いた感じだと、何かの暗号……?



「『.3.-223-232-.23-322-3.2-323-3..』」

「___”コードを確認中。検索完了、マスター権限変更のコマンドと一致”」


そう言うと少女は武器を下ろし、その場に膝を着いた。その姿は各地で見かける停止した遺跡守衛の雰囲気を感じる。

マスター権限の変更って何?
色々と急展開だったこともあって、状況を理解できない。


「”マスター強制変更のコードを確認。現在のマスター情報を強制削除。次に、新規マスター情報を登録します”」


アルベドが少女の元へと歩みを進める。そして、彼女の前まで歩くと目線を合わせるように片膝を着いて屈んだ。


「”新しいマスターの名前を教えてください”」

「……アルベド」

「”アルベド。新しいマスターの名前を確認……登録完了。次にマスターの認証を行います”」


少女がそう言葉を発すると、彼女の両目から淡い光が放たれる。それは目の前にいるアルベドに向けられていた。……暫くすると、少女から「認証完了。読み込んだ情報を正式に登録します」と声が聞こえた。


「……”登録完了。これよりアルベドをマスターと、しま……す”」


そう言うと、機械がゆっくりと停止するような音が聞こえ始めた。


「っ、ナマエ!」


前へ倒れ込む少女をアルベドが受け止めた。どうやら先程の音は少女が止まった音だったようだ。


「アルベド、その……止まったって事でいいのか?」


おそるおそると言った様子でパイモンがアルベドに声を掛ける。アルベドは少女を抱きしめたままこちらを振り返り、ゆっくりと頷いた。


「約束通り、彼女について話をしよう。ただし、ここではみんな凍えてしまう。僕の研究所へ行こう」


アルベドは少女を横に抱え直すと、先導するように私達の前へと立つ。私はベネット、フィッシュル、レザー、そしてパイモンと目を合わせ、とりあえずアルベドに着いて行こうと頷いた。

……間違いなくアルベドは少女について知っている。彼の研究所についたら何か分かるのだろうか。






2023/06/10


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