湖畔でピクニック


※風花祭2023:風花の吐息より
※番外編:黄金の誕生の内容を一部含む



約束の時間帯である夕方となり、ぼちぼち人が集まりだした。残るは蛍とパイモンだけである。


「蛍たち、早く来ないかな〜!」


ナマエはコレイの指示のもと、人生初のテントを立てていた。教えた側の腕がいいのか、初めての割には上手くできているように見える。

ピクニックの準備もあらかた終わったため、ナマエは1人椅子に座り、足をプラプラと遊ばせている。



「噂をすれば、だよ。見てナマエ」



遠くから見えた2つの影を見つける。
それは蛍とパイモンだった。それをナマエに教えてあげれば、二人を見てあからさまに嬉しそうな顔を浮かべた。


「みんな、揃ったね」

「待ちくたびれたんだよー!」

「ごめん、ごめん。待たせちゃった?」

「ううん、暇だったから、先に来て準備してただけ」

「なんだ〜。ナマエが待ちくたびれたとか言うから、遅れちゃったのかと思ったぞ」

「えへへ、そんなつもりで言ったわけじゃないよ。楽しみすぎて待ちきれなかっただけ」


こんな大人数で遊ぶという機会、今思えばナマエに与えてなかったな。いつもよりも機嫌が良さそうなのは、この大人数で遊ぶことが楽しみで仕方ないからなのかな。



「テントはコレイさんとナマエさんが張ってくれたの。コレイさん、ロープを結ぶのが早くて結び方も丈夫で、プロの業だったよ。私なんて素材を渡すくらいしか手伝えることなくて……」

「あ、ありがとう……これも師匠とセノさんがいつも指導してくれてるおかげだ……」

「ああ、優秀な冒険者はみんなこうしている」

「コレイの読み込みが良いってのもあると思う! アタシ、コレイの説明分かりやすかったよ」

「ほ、ほんとか……!?」


突如始まったコレイへを褒める場。言われている本人は少し照れているのか、頬が赤い。


「まったく……いい加減にしてよ。これ以上褒め合ってたら、月が昇ってきちゃうから。ほら、みんな座って」


だが、ティナリがストップさせたことでこれ以上コレイを褒める言葉は出てこなくなった。
良いところを本人が自覚していないなら、それを伝えたくなるのは人の特徴なのかもしれない。


というわけで、各々で準備した食材を出し、火をつけてご飯を作ることに。それぞれで用意したから、それはもう豪勢な晩餐となった。

それらを堪能した後、みんなは焚き火を囲むように座った。そのころにはもう日は沈み、月が昇っていた。


「さっきの『バター魚焼き』はなかなか美味しかった。作り方を見てなかったけど、旨味は魚肉本来のものだけじゃないみたいだね」

「その通り。もっと詳しく推理できる?」


ティナリはボクが作ったバター魚焼きが気になる様子。元々ボクが得意とする料理ではあるけれど、最近はナマエが作ったバター魚焼きが好きでね。そちらの味に寄せて作るようになったんだ。

けど、ティナリが気づくのは調味料がほんの少し変わった程度のものではないはず。バター魚焼きという料理を初めて食べたのならね。おそらくは、スメールに馴染みない味で反応したと考えてる。


「そうだな……匂いは純粋だった___複雑な香辛料じゃないね。あんまり馴染みない匂いだったから……モンドの特産品かな。料理に使えるモンドの植物の中だと、ドドリアンは普通スープに使われるから……イグサ?」

「正解だ」


ボクの読みは当たったみたい。
バター魚焼きを作るとき、ボクはイグサを入れるようにしている。ボクが誕生日の時にナマエが初めてバター魚焼きを作ってくれたんだけど、イグサを使うことに少し疑問に思ってたっけ。

まあ、ナマエはそこまで深く考えることなく、普通にイグサを使用してたけど。


「スメールの『魚のクリームソース』は柔らかい口当たりで魚肉の旨味を引き立てるものだと聞いている。モンドの香辛料は、スメールほど複雑ではないけど、自然な調味料で食材の特徴を際立たせるっていう理屈は、互いに通じ合っているんだ」


ボクは勿論、クレーも魚料理を好んで食べる方だから、ぜひとも魚のクリームソースはクレーにも食べさせたいね。


「気に入った。でも、具体的な分量は……」

「レシピを書いてあげるよ」


より美味しいバター魚焼きを食べてほしいから、ナマエがアレンジした方でレシピを書こうか。


「後で私が作る栄養食を食べてみたい人はいない?」

「一つ頼む」

「スクロース、アタシにも!」

「コレイさんは? あんまり食べてなかったけど、食欲がないの?」

「あっ……元々小食なんだ」


スクロースはリクエストのあったセノとナマエの分の栄養食を作りに席を立った。……静寂が辺りを包む。その静寂を切ったのはコレイだ。


「ごめん、興ざめだよな……」

「気にしてないから、落ち込まないでコレイ」


コレイの声にナマエがそう言葉をかけた。だが、言葉を伝えた本人は、気まずそうな表情を変えない。



「ティナリ。あの日俺たちが道中で見た二足歩行の生き物は、パイモンだったのか?」



そんな時だ。
唐突にセノがそんなことをティナリに問うたのは。

……二足歩行の生き物は、パイモン意外にもいると思うけど。


「どの日だ?」

「石門を通った日だ」

「……」


セノが答えた問いの内容に、ティナリは考え込む。
勿論ボクはその当時、その場にいなかったから質問の内容には答えられないし、セノが問うた意図もまだ分かっていない。


「見間違いだろ? 帽子に視界を遮られていたんじゃないのか? オイラはいっつも飛んでるんだ。地面を歩くことなんてないぞ」

「そうか」

「えっ、パイモンって地面歩けないんだ……」


ボソッとパイモンの言葉を復唱したナマエは一旦おいておくとして……。セノがその場に立ったけど、何をしようとしているんだ?



「パイモンが食べ過ぎたかと思ったんだが……『ヴァルベリー』を」



再び訪れた静寂。
それはセノの放った言葉によって起こったものだった。視界の端に映るナマエは頭上に疑問符を浮かべたような表情で、セノを見ている。

彼の知人であるティナリ、コレイ、そして蛍を見ると、なぜか冷めた目でセノを見ていた。



「……」

「面白くないか? 『ヴァルベリー』で、パイモンがす『ベリ』落ちた……」



ヒューっと風の音が聞こえたような気がした。
ボクはなんとかセノの言ったことを理解しようと考える。共通しているのは、ヴァルベリーのベリと、滑り落ちたのベリ……うん?


「どうして誰も止めないの?」

「知り合うのに必要な一環かなって……いい方向に考えてよ。セノはみんなのことを友達だと思ってる」


止めないのってことは、少なくとも蛍とパイモン、ティナリとコレイはセノの今の発言の意味を分かっているってことかな。


「その仮説を検証してみないかい? 」

「なんだって?」

「モンドの原生植物が浮遊生命体の機能に影響を及ぼすのかを」

「オイラを実験台にするなよ!」

「言われてみればパイモンって不思議な存在だよね……ちょっと気になる」

「おまえまで乗るなよ、ナマエ!!」


ボクとナマエの好奇心は一致していて、興味はパイモンに向けられている。そんな酷いことをするわけじゃないんだ、試してみたっていいだろう?


「おまえたちの理屈だと、ザイトゥン桃を食べたらあんな風にまん丸になっちゃうのかよ?」

「面白いかも」

「おい、蛍まで!」


パイモンと蛍のやりとりは、長年一緒にいるというのもあって、聞いているだけで面白い。微笑ましいとも言えるかな。
そう思っていた時だ。



「は、はははっ……」



小さかったけど、元気のなくなっていたコレイから笑い声が。その表情を見るに、無理に笑っているのではなく、心の底から笑っているようだった。


「セノさんのジョークより、蛍とパイモンのやり取りの方が楽しいよ」

「……固定観念だ。長年にわたる…」

「セノってモンドに来てから、明るくなったみたいだよな! スメールにいた時と違うっていうか」


コレイの言葉に対し何か言おうとしたセノの声を遮り、彼に質問を投げたのはパイモンだ。へぇ、彼女たちが初めて会ったとき、セノはこのような態度ではなかったのか。


「冒険者のセノだからな」

「面白くないから」

「ん? 面白くないか?」


その割には、言いたいことはズバッと言っているようだけど。スメールでどんなふうに出会い、ここまで関係を築いたのか知らないから何とも言えないけど、ボクには仲が良いように見えるよ。


「それもそうだろうね。君たちがスメールにいた頃、見てたのは仕事中のセノだった。でも、実は機嫌がいい時はいつもこうなんだよ」

「うんうん、師匠の言う通りだよ。食べる時もたまに、器が浅すぎて料理をうまく漏れないって言ったりとか……とにかく予想外の話をしてくるんだ」


どうやらスメールにいたとき、蛍とパイモンはセノと行動を共にしていたらしい。その時のセノは仕事中というのもあり、今ボクが見ているセノとは雰囲気が違ったそうだ。


「分かった___改めて自己紹介しよう。俺は大マハマトラのセノだった、だが今この時からは、冒険者のセノだと思ってくれ」

「これだよ! 自分が面白いと思う文句をみんなが受け入れるまで延々と繰り返すんだ」


その違いとやらは少し興味はあるけど、期限が良い今のときは、こんな感じなんだそうだ。


「つまりセノさんは二つの状態があるってこと? 面白い。物質の転換みたいに自由なんだね……私も見習いたいな!」

「そしたらきっと、真面目なスクロースとボーっとしてるスクロースになってしまうね」

「そうなの? かわいーっ、スクロース」

「も、もう! からかわないでナマエっ」


ボクとナマエの悪乗りに対し、少し困った様子のスクロース。さて、意地悪しすぎると落ち込むからここまでにしておこうか。



「さて、旅の目的地をモンドにしたからには、みんな何かしたいことがあるってことかな」



ボクは昼間、彼らに旅行プランを提案したけど、その時に三人が何を目的にモンドへやってきたのか聞いていなかった。意味もなく他国を訪れることはないだろうからモンドでやりたいことはあるはず。


「うん、風花祭はモンドの一番大切なお祭りだって、リサさんから聞いたんだ。これを機に、みんなに愛情こもった風の花を捧げたい。それで、昔世話になった人たちに感謝を示すんだ……」


コレイは風花祭のためにモンドに来たんだね。
……横からの視線が痛いな。ボクと蛍の間にはナマエが座っている。その方向から考えられるのは……。


「アタシ、聞いてない」


そう、風花祭について話してなかったナマエである。
そういえば話そうと思っていたところにスメールからの客人がいたから、タイミングを逃していたんだった。


「ごめんナマエ。話すタイミングを完全に逃してたんだ」

「君はモンドの人じゃないの?」

「そ、そうなの。少し前からモンド城で暮らすようになったから、風花祭のこと知らなくて」

「そうだったんだ。てっきりモンド人だと思ってたよ」

「じゃああたしと同じだな……!」


少し嬉しそうな声音でコレイがナマエへ話しかける。そんな彼女を見ながらティナリが口を開いた。


「外に出かけて、新しい友達を作る。これはコレイにとってもいいことだからね」


こうしてみると、ティナリは師弟関係以上にコレイを大切にしているように見える。もしくは、ティナリが面倒見のいいひとの可能性もあるか。


「『ラクラク駄獣』」

「はぁ?」

「今の言葉、『コレコレイ』に聞こえた。似たような言葉で、『ラクラク駄獣』というのがある。でもテイワット大陸では、『ググプラム』のような命名の方が多いみたいだ……」



……再び、風がヒューと鳴った気がする。
この感じ、さっきもあったような。


「へー。そんな言葉があるんだ…」

「シッ! 反応しちゃダメ!」


感心したような声を出すナマエに、ティナリが遮る。が……。


「興味があるのか。まだまだジョークのネタはあるんだ、そうだな……せっかくなら俺の傑作を…」

「ああああああぁ」


ティナリの努力はむなしく、セノの視線はすぐさまナマエへと向いた。ナマエの好奇心旺盛なところがセノの心を動かしたようで、淡々とジョークらしきものを話している。
対するナマエは普段聞かない言葉ばかりだから、興味津々だ。

そんな二人を見て頭を抱えるティナリと、苦笑いのコレイ。そして、嘘でしょと言いたげな蛍と固まっているパイモン。


……ボクもジョークの1つ2つ、言えるようになった方がいいのだろうか。そうすれば、今感じる胸の痛みも和らぐ気がする。





2024/06/09


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