番外編:測定不能…



「あぁっ!!!」



それは、いつも通りモンド城を歩いていた時だ。冒険者協会の横を通り過ぎた辺りで声が聞こえた。

あまりにも大きな声だったので、聞こえた方向を振り返ると、見覚えのある少年と目が合った。


「お前、あの時の!!」


そして、少年はこちらへ駆け寄ってきた。少年はアタシを下から上へと見た。


「あれ? でもそんな格好してたっけ?」


どうやらアタシの格好に疑問を持っている様子。そりゃそうだ、あの日会った時と格好が変わっているんだから。説明するためにも、とりあえず場所を変えたい。だって、少年が大声を出したから、めちゃくちゃ注目を浴びてるんだもん……。


「えっと……こっちに来て!」

「え? お、おい!」


アタシは少年に了承の有無を確認しないまま、モンド城を出る。橋に集まっていた鳩が逃げて、男の子が「おい! 鳩が逃げちゃったじゃないか!!」と怒る声が聞こえるけど、今は無視だ。後で謝るから……!



「こ、この辺で良いかな……」



暫く走って、人の気配がないことを確認して止まった。少年の腕を引いたままは知って来ちゃた。手を離して後ろを振り返れば、そこには両膝に手をついて、いかにも疲れてますって様子の少年がそこにいた。


「ハァ、ハァ……ッ。お前足はえぇな……っ」

「ご、ごめんね。突然連れてきて。まだモンド城に用事があったかな」

「いいや、さっき終わったばかりだから気にすんな!」


無理矢理連れてきたようなものなのに、全然怒らない……優しい子だ。そして、笑顔が眩しい。


「そう言えば、自己紹介してないよね。アタシはナマエ。貴方は?」

「オレはベネット。モンド支部の冒険者協会で活動してる冒険者だ。よろしくな、ナマエ!」


少年はベネットと名乗った。へぇ、冒険者だったんだ。確かに動きやすい格好してるもんなぁ。


「でも、前会った時と雰囲気が変わりすぎてないか?」

「えっと、それについてなんだけど……」


ベネットはキィちゃんの存在を知っている。だから、話してもいいよね……?
うん、話そう!!
だって、迷惑掛けちゃった人の一人なんだし!



「……そんなことが。なんか、思ってた以上に壮大だったっていうか」

「な、なんか自分について話すのって恥ずかしいな……」



アタシはベネットにこれまでの経緯を伝えた。アタシが純粋な人間ではないことを話すには、先生についても話す必要があった。そして、今までずっと逃げていたことも。


「ナマエ。お前は今、楽しいか?」


ふと、ベネットがそう問いかけた。
その言葉は、今アタシが話した経緯を聞いた上での問いなのかな。

それで言うなら……まあ、そんな意図で無くても。アタシの回答は1つだ。


「___うん、楽しいよ! 毎日が新たな発見なの!」


機械の構造のように、決まった動きしか出来ない……つまり、ずっと同じ事の繰り返しってことなんだけど、そんな日々は終わりを告げ、今は毎日が新しい事の連続なんだ。


「ベネット、あなたとこうしてお話しできていることも、新たな出会いという新しい発見だよ」

「! 良い事言うな、ナマエ!」

「でしょ〜」


本来だったら、ベネットはアタシを敵視していても可笑しくない。なのに、アタシの心配をしてくれた……こんなの、優しい以外の言葉があるだろうか?


「……うん?」


そう思っていたときだ。
段々と暗くなる空模様……それは、今にでも降り出しそうな程の暗さで。


「わああっ、雨だ!?」


そして、一気に降り出した!
これ、結構な土砂降りじゃない!?


「この辺りに雨宿りできそうな場所を知ってる、早く行こう!」

「うん、ベネットに着いてく!」


そう言ってベネットが先を走って……


「”オリジナル、5秒後に彼の立つ位置に雷が落ちます”」

「え!?」


突如聞こえた、機械的な自分の声。それはキィちゃんだ。
初対面の人がいる場合、キィちゃんは喋らない。だと言うのにキィちゃんはアタシに警告を告げてきた。

それはつまり、かなり状況が悪いって意味なんだよね!


「ベネット!」

「うん? おわっ!?」


キィちゃんから告げられた5秒は、本当に僅かな時間。説明なんてしている暇はなかったから、ベネットに突進して彼のいる場所から遠ざけることしか考えられなかった。


「大丈夫か、ナマエ…」


アタシが躓いて転けたと勘違いしたベネットが、こちらに声を掛けようとした瞬間だった。

ピシャーンッ!!
……先程までベネットが立っていた場所に雷が落ちたのは。


「よ、良かった、当たらなくて……」

「お前、雷が落ちる場所が分かってたのか!? すげーな!!」


ベネットに褒められたけど、状況はあまりよろしくない。何故なら、先程の雷は開始の合図だと言うように、所々で落雷が起きているからだ!


「感心してる場合じゃ無いよ! はやく雨宿りしないと、ベネットが風邪引いちゃう!」

「いや、ナマエのほうがやばいだろ! だって、機械に水は良くないって聞くし……。それに雷も良くないって」


だから早く雨宿りしないと!
……自分の事は後回し。人を思いやる優しい子だ。

それに比べ、アタシはどうだろう?
……自分が辛い思いをしたくないから殺して欲しいと、他人に願うような酷い人間だ。そして、それが叶わないと知った後は、自分を制御すると格好つけていながら、本心はただ現実を見たくなくて引きこもっていただけ。

こんな優しい人に心配されるような人間じゃないのに。


そう思いながら、アタシの手を掴んで走るベネットの後ろ姿を見ていた。



***



時間が経つにつれ、強くなっていく雨と、激しさを増す落雷を避けること数分。何とかベネットの言う雨宿りできる場所……小さな洞穴へやってきた。

雨と雷の音でベネットには聞こえないだろうという判断でもしていたのか、何度もキィちゃんが落雷について警告してくれた。落雷場所を予想しては的中させていたけど、何故分かるんだ、キィちゃん……。


「ふぅ、これなら大丈夫……じゃない! ナマエ、水気をどうにかしないと!」


なんて思っていると、ベネットが慌てた様子でアタシに声を掛けた。ベネットだってびしょ濡れだと言うのにアタシの心配なんてしてくれて。でもね、ベネット。


「大丈夫だよ、この身体、防水仕様だから!」


その辺について、先生は考慮して設計してたから。
確かに機械は水に弱いけど、外に繰り出すための兵器を雨でダメにするなんてこと、あの人が考えないわけがない。

なので、アタシは雨に限らず、水には強いのだ。……でも、海水はちょっと違うって聞いたんだよなぁ。ちょっと試してみたい。


「そ、それならいいけど……へっくしゅん!!」


アタシの問いにそう零したベネットは、言い終わると大きなくしゃみをした。あぁほらやっぱり!


「なにか暖かくできるもの……あ、枝がある!」

「おぉ、これでたき火をしよう! 炎はオレに任せてくれ!」


ベネットには炎の神の目がある。それで付けるよってことだろう。
アタシはその辺に転がっていた枝を拾って、できるだけ水分を払った後、ベネットの元へ戻った。

アタシが集めてきた枝で足りたようで、ベネットが付けてくれた炎は枝を燃し始めた。


「ふぅ、あったかいな!」

「うん! でも、急に雨が降り出したね……」


これは道中でキィちゃんが言っていた事なんだけど、今日のモンド城周辺は快晴なはずだったんだって。あれだけ落雷する場所を予測できたキィちゃんが言うんだから、間違いないんだと思う。

でも天気は急に変わるとも言うし……。


「あー……多分それ、オレのせいかも……」

「え?」

「オレと一緒にいたから雨が降り出したのかもしれない」

「??」


なんでベネットがいるだけで雨が降るに繋がる?
ベネットは天候を操れるって事?

そう話すと、ベネットはちょっと気まずそうな顔で口を開いた。


「オレが疫病神だからさ」


疫病神……それって言葉通りの意味でいいのかな。
そう思っていると、ベネットはその不幸体質がもたらした過去を話してくれた。

ベネットが言うには、こういうことが遭って、自分を疫病神と言っているみたいだ。
初めは、ベネットと同行していた人が100年に一度発生するかどうかの岩元素乱流に巻き込まれたとのこと。

他には、これもベネットと同行していた人になるんだけど、騎士団の爆弾使い(そう言われるとクレーちゃんが浮ぶんだけど、クレーちゃんではないよね、きっと…)の爆弾によって、秘境の崩落に巻き込まれたこと。

あと、ベネットは冒険者で、ベニー冒険団というものを作っていてその団長らしいんだけど、新しく加入した人が1週間でお腹を壊したらしい。それをベネットの不幸体質を理由にしたって……は?


「最後のはただの悪口だよ! そんなの信じちゃダメ!」

「けど、1つ目と2つ目はオレがいたから起きたことだ。今の豪雨や落雷だってそう」


そう言って落ち込むベネットは、本気で自分が疫病神だと思い込んでいるようで。……アタシが掛けられる言葉は。


「ベネット。あなたはこれまでどんな不幸が訪れようとも、見限られたりなんてしていないじゃない」

「え?」

「少なくとも、アタシはこうして一緒にいるでしょ?」


そして、キィちゃんと和解できていなかった時。
ベネットは1人では無く、蛍やパイモン、赤い目の男の子と片方だけ眼帯を着けている女の子がいた。間違いなく彼らはベネットの友人だと思ってる!


「でも、これ以上の事が遭ったら、オレは…」

「大丈夫! これでもアタシ、貴方よりうんっと歳上で、経験豊富なんだから! それに、土砂崩れに巻き込まれても、崩落に巻き込まれても、壊れなければアタシは死なないよ」

「! へへっ、冒険者だけでは得られない経験が、ナマエにはあるんだもんな!」

「そ! 些細な事だと流す事は難しいけれど、ベネットにはベネットを信じる友人がいるでしょ? その人達だけは信じてあげて。ベネットの体質を受け入れて、一緒にいるに決まっているんだから」


そう言葉を掛ければ、ベネットは少し考え込んだ後……「おう、ありがとうな!」と太陽の様な笑顔を見せてくれた。


「ほら見て! 貴方の笑顔みたいな光が!」

「え? ……あ、晴れた!」


ベネットの背後から差し込む光。それは太陽の光で、つまり雨が上がったことを意味していた。


「なんでだろ、お前と色々話したら結構スッキリした。ありがとな」

「どういたしまして! 話を聞くだけでいいなら、相手になってあげる。何かアドバイスできるかもしれないしね」

「おう、その時はまた話を聞いてくれ!」


そんな会話をしながら、雨宿りに使った洞穴を出た。
着けた炎はいつの間にか消えていた。まるで、ベネットの心の内が軽くなったことを意味していたみたいだ、なんてね。

……ちなみに、小声で話しかけてきたキィちゃんが言ってたんだけど、こんなにも予想が外れるのは可笑しいと嘆いてた。自分の計算が外れたのがショックだったのか、その後は一言も喋らなくなってしまった……。



***



「おかえり、2人とも」

「あっ、アルベドだ!」


太陽がオレンジ色っぽくなった頃。モンド城入り口へ戻ってきたアタシ達。そこには見慣れた人物が立っていた……そう、アルベドである。

ここに立ってたということは、アタシがモンド城の外に出たことを知っているってことだ。誰に聞いたんだろ。門番の西風騎士の人かな?


「久しぶりだな、元気だったか?」

「それなりに。キミも元気そうだね」

「ナマエに色々話を聞いて貰ったからかな? お前の友達、初めの頃と印象が変わっててびっくりしたけど、本当に良いヤツだな!」

「ほ、褒めすぎだよ……っ」


ベネットの言葉が素直すぎて、お姉さん照れちゃう……なんて思ってると、腕を取られて引っ張られた。びっくりして顔を上げれば、そこにはアルベドが。どうやら彼の仕業だったみたい……って。


「な、なんか怒ってる……?」

「……いや、なんでも。2人とも、さっきまでモンド城の外は強い雨が降っていたと思うんだけど、大丈夫だったかい?」

「雨宿りしてたからなんとかな! けど、ナマエの服を濡らしちまったな……」


申し訳なさそうに謝るベネット。
そう、初めにベネットがアタシの服装を見て驚いていたのは、アタシがあの遺跡守衛を模した様な格好をしていないから。

……正確に言うと、あの遺跡守衛を模した格好の上から服を着ているんだけどね。


「乾かせばいいだけなんだし、気にしないでよ。それに、ベネットにも言える事だからね?」

「うっ。わ、わかったよ……」


それで、これからどうする?
ベネットがこちらへそう問いかける。


「2人とも雨に濡れているんだ。体調面を考えて、今日はここで区切りにしたらどうかな」


その問いに答えたのはアルベドだ。
たき火でちょっと乾いているとは言え、まだ濡れている感覚はある。アタシはともかく、ベネットは良くない。


「それもそうだな。じゃあまたな、2人とも!」

「あたたかくして寝るんだよ、ベネットー!」

「おーう!」


というわけで、ベネットとはここでお別れ。どうやらモンドを中心に活動してる冒険者らしく、わりと頻繁にモンド城へ訪れているとのこと。きっとまた会えるね……アタシがモンド城にいる限りは。


「じゃ、ボク達も家に帰ろうか」

「うん!」


アルベドと共に帰路を辿り、家に到着。アルベドが先に入ると、「タオルを持ってくるから、少しだけ待ってて」と言って、奥へと消えていく。
数秒後、アルベドは白いタオルを持って戻ってきた。アタシはそれを受け取ろうと手を伸ばしたけど……。


「うっ、」

「暴れない」

「自分でできるよ」

「ボクがやりたいだけ。大人しくされるがままになってて」


アルベドはアタシが届かない位置までタオルを上げた。それに驚いている間に、そのタオルはアルベドの手によって頭の上に被せられ……優しい手つきで吹き始めた。

これ完全に子供扱いでは。アタシの方が歳上なのに!


「よし。髪はこんな感じで大丈夫かな。服は……濡れてしまったから、脱いじゃおうか」


そう言ってアタシの服に手を伸ばすアルベド。流石にそれは!
そう思ってアタシはその手から躱すため、身体を反らした。


「……なんで逃げるんだい」

「じ、自分で脱げるよ! それに、普通だったらセクハラだよ! アタシだからいいものの……」


アタシは大丈夫だ。何故なら、アタシは普通の人間のように裸になることはできないように身体が改良されてしまっているから。

もしアルベドに将来恋人が出来たときを考えて、ちゃんと教えないと……!


「……キミにしか、やらないんだけどな」

「え? それってアタシが子供っぽいってこと?!」

「はぁ……とりあえず、着替えておいで。ちゃんと身体は拭くんだよ」

「え、ちょっとアルベド!? アタシはアルベドの将来を想って……」


なのにアルベドは溜息を着いて、先に部屋の奥へと消えてしまった。溜息の理由が分からなかったんだけど……なんで?





2024/03/02


※主人公の服装は、遺跡守衛を模した格好を隠す為、ぶかぶかの服を着ています。設定で話した、身体のライン丸わかりが分からなくなるほどのぶかぶか具合です。なので、顔付きや胸を見なければ性別を判別できません…。

調べてイメージ的なものが出てきたら、後で追記します。

追記:
自分の中で思い描いたイメージに近い衣装がありました。
ジブリ作品「風の谷のナウシカ」のナウシカの衣装が私の中では一番近かったです。
このお話以降は、こちらのイメージで想像して頂ければと思います。


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