番外編:黄金の誕生


※時間軸は本編終了後



「アルベドー!」


場所はドラゴンスパイン。
アタシはいつも通りアルベドの研究の手伝いを行っていた。そんな中、アルベドを呼ぶパイモンの声が聞こえた。
声の聞こえた方へ振り返れば、そこにはパイモンと蛍がいた。


「あ、パイモンに蛍だ!」

「いらっしゃい、二人とも」

「おう! ナマエもいたんだな!」

「ドラゴンスパインにはアタシがいるって思って良いよ」


それにしても、一体どんな用事で来たんだろ?
アルベドに用事があるのは分かる。だってアタシ、助けて貰ったのに何の恩も返せないんだもん……。
1人で勝手に落ち込んでいる中、話が進んでいく……その時だった。


「今日はお前の誕生日だろ?」

「え」


素っ頓狂な自分の声が出てしまうくらい、重要なことが判明したのは。


「おや、もうそんなに時間が経っていたのか。気がつかなかったよ」

「相変わらず研究熱心だなぁ。ナマエも止めてやれよ……ナマエ?」


パイモンがアタシを呼ぶけど、そっちに反応することができなかった。何故なら……



「どうして誕生日教えてくれなかったの、アルベド!!」



アタシ、アルベドの誕生日知らなかったんだもん!!
何故なら、アルベドが教えてくれなかったから!!

アタシはそのことをアルベドに問い詰めた。


「す、すまなかった。当時のボクは誕生日の重要性と、その温かさを知らなかったんだ」


表情の変化が乏しい彼だからこそ分かる。アタシの発言にアルベドが申し訳なさを感じていることを感じ取れるんだ。


「それに、君とこうして話せるまでにあった出来事の壮大さで、自分の誕生日のことなんて忘れていたんだ」


ま、まあ……そう言われれば非はアタシにある、かも……。というより、自分から早めに聞いておけばよかったのでは、と思い始めてきた。


「わ、分かったよ。だから、そんな困った顔しないで」

「お前の迫力がすごかったからだと思うけど……」

「だってぇ……」


パイモンの声にちょっとだけ罪悪感を感じる。確かにアタシが問い詰めてしまったから、アルベドは困ってたんだよね。
けど、けど……!


「”友達”の誕生日を当日まで知らないなんて、薄情者じゃない!」


うわあああんっ、と両手で顔を隠しながらしゃがみ込むアタシ。……ちょっと面白いかな、って方向に持っていこうとしたんだけど、何故か反応が来ない。あ、これスベったってやつかな。

そう思いながら、指の隙間から様子を窺った。


「アルベド……」

「いや、気にしないでくれ。元々そう思われていると分かっていたから」


あれ、思っていた反応と違う。なんかアルベド、蛍とパイモンに励まされてない?
なんで??

疑問ばかり頭の中に浮べながら3人を見ていると、アルベドがこちらを振り返った。そして、目線を合わせるように片膝を着いて屈んだ。


「ボクは君を薄情者だなんて思ってないよ。教えなかったボクが悪い」

「けど、アタシから聞いておけば何かしらプレゼント用意できたかも……あ。アタシ、カーンルイア以外の事分からないから誕生日プレゼントに合うもの用意できない……」


アルベドのせいじゃない、って言いたかったけど、教えられてもプレゼント用意できなかった可能性の方が高い事に気づいた。だってアタシ、ドラゴンスパインから出たことないもん……。


「なら、ボクのお願いを叶えてくれないかい?」

「アルベドの?」

「うん。ナマエ、君は料理はできるかな?」


アルベドが尋ねてきたのは、アタシに料理できるかどうか、だった。
うーん、料理かぁ……。


「できるけど、もう何百年もやってないから、感覚思い出せるか不安だなぁ」

「単位がおかしすぎるだろ!?」

「それに、カーンルイアの料理と、こっちの料理の違いがあるかどうか分からないし……」


パイモンのツッコミは軽く流す事にしよっと。事情は向こうも知ってるし。


「それなら、私が教えてあげる」

「! ほんとっ!?」

「蛍は料理が上手なんだぞ!」


頭を悩ませていると、声を掛けてくれたのは蛍だった。パイモンによると、蛍は料理が上手みたい。良かったぁ、ピンチを回避できそう。


「ほらアルベド、ナマエに何を作ってほしいのか言わないと」


ホッとしていると蛍がアルベドに声を掛けた。
そうだ、そうだ。アタシに料理を作ってほしいと言ったのは、他でもないアルベドなんだ。さて、何を作れと言われるのか……蛍がいるから何も怖くない!



「……バター魚焼き。ナマエが作ったバター魚焼きが食べたいな」



どこか優しげに微笑みながら、アルベドが告げた料理名。その料理名にとある生き物の名前が混ざっていることに気づく。それは『魚』だ。

カーンルイアには生き物がいなかったけど、外の世界の話は偶に入ってきていた。外には見た事の無い生き物が沢山いる。魚というのもその1つだ。


「ナマエ、どこから分からない?」

「ゴメン、魚がどんなものか分からない……」

「うえぇっ!? ほんとかよ!?」

「だってアタシ、カーンルイアの外に出たことあるのは、戦う時くらいだったから……」

「あ……なんかゴメンよ、ナマエ」

「え、別に謝ってほしいわけじゃないよ!? それに、ただの一般市民には国の外に行く機会なんてなかったんだ。所謂、世間知らずってやつ」

「だったら、今度時間が取れたらご飯巡りに行こうぜ! ほら、前に約束してただろ?」


あー、でもまだナマエは自由に動けないんだっけ……。
パイモンの言うそれは、アルベドから言われたことに関係している。

アルベドはモンドっていう国に住んでいるそうなんだけど、その国にアタシの存在を隠している状態なんだって。
それに関して今、何とかして手続きをしているらしく、まだドラゴンスパインに住んでいるような状態なんだ。


「アルベドから許可が貰えたら、絶対に行こうね! 約束だよ?」

「おう!」

「それじゃあ話が逸れちゃったけど……蛍。いや蛍先生、料理のご教授、お願いします!」

「お願いされました!」


というわけで始まった料理タイム。あ、材料はアルベドがくれたよ!
近くに調理場があるため、そこを使う事にした。


「これが魚。けど、このままでは使わないから、こんな感じに切って、魚肉の状態にするんだ」

「あれ、この形だけなら知ってる。これ魚肉って言うんだ〜」

「もしかしたら、名前だけ知らないものがあるかもしれないな!」

「そうかも! へへっ、これも新たな発見だね!」


蛍に教えて貰いながらアタシは調理を進める。段々と形になっていく過程を見ていると、お菓子作りが好きだった頃を思い出す。
……蛍はお菓子も作れるのかなぁ。後で聞いてみよっと。


「おぉ! 魚が焼ける匂い! プラス、バターの匂い!! うぅっ、オイラも食べたい……」

「ダメだよパイモン。これはナマエがアルベドの為に作ってるんだから」

「ガーン!!!」

「すまないね、パイモン」


匂いにつられたパイモンがふよふよとこちらへ飛んできた。パイモンにあげたいところだけど、蛍の言う通りこれはアルベドの為に作ってるから……。て言うかアルベド、絶対すまないなんて思ってないよね、その言い方。


「じゃあじゃあ、練習がてらもう1回作ってもいいかな?」

「え?」

「ほら、復習にもなるし! あ、材料貰う前提だけど……」

「だって、パイモン」

「蛍! オイラのためだと思ってナマエに材料を!!」

「仕方ないなぁ。ナマエ、パイモンの分も作ってくれない?」

「もちろん!」

「やったーーー!!」


蛍ってパイモンに甘いよね〜。なんて思いながら二人のやり取りを横目に、アタシは目の前の魚を焼くことに集中した。



***



「うん、これで完成だよ」

「ふぅ、ありがと蛍!」


焼くこと数分後。蛍先生の判定の元、焼き加減が良いタイミングでお皿に移動。その後、盛り付けをして遂にバター魚焼きが完成した!

いつの間にか用意されていたランチプレートに乗せて、近くに座って待ってたアルベドの前に設置された机にそれを置いた。


「お待たせしました、アルベド様」

「なんで様?」

「何となく? ほらほら、冷めちゃう前に早く食べてよ!」


ドラゴンスパインはすっごい寒いんだから、早く食べないとすぐに冷めちゃう!
その意味も込め、アルベドに早く食べるように促す。


「分かったよ。では、いただきます」


アルベドは魚をナイフで食べやすいサイズに切り、フォークに刺したそれを口に含んだ。


「……! うん、美味しいよ」


数回咀嚼した後、アルベドは笑みを浮べながら感想を私に告げた。その言葉に緊張が抜けていく感覚がする。

この笑顔は無理したものではない。アタシには嘘発見器機能が付いてるからね!
それが反応しないって事は、本心って事。アルベドの誕生日プレゼントになれたのなら良かった!


「良かったぁ……久しぶりだったから緊張してたんだ。これも蛍のおかげだね!」

「私は手順を教えただけだよ。ナマエは元々料理上手なんだよ」

「えへへ……そうかなぁ? ありがと」


今回料理して、自分の感覚が鈍っていないことを知った。また機会があれば料理したいなぁ。


「よし、今の感覚を忘れないうちにもう一回作らなきゃ! 今度はパイモンの分をね!」

「わーい!」

「熱心だね、そんなに料理がしたかったのかい?」


パイモンの笑顔にニマニマしていると、アルベドがこちらを見上げてアタシに問いかけた。
えっと、そうだなぁ……。



「それもあるけど、一番は___このバター魚焼きを自分の力だけで作れるようになりたいから、かな!」



そう答えたアタシを見たアルベドは、ちょっとだけ目を見開いた。その数秒後、少しだけ頬を染めながらアルベドは「そっか」と小さく言った。

……あれ、出来たてだったから熱かったのかな。そのことについて問いかければ、何故か溜息をつかれた。それも、アルベドだけでなく蛍とパイモンにも。……なんで!?



「アルベド、もしかしてナマエって鈍感って奴か?」

「恐らく、それに分類されるだろうね」

「……頑張って」

「オイラ達は応援してるぞ!!」



パイモンの為にバター魚焼きを再び作っている間、3人がそんな会話をしていることにアタシは気づかないまま、作業を進めていたのだった。

……後日。
アルベドがスイーツ好きであることが判明し、アタシがよく作っていた分野がお菓子だったことが知られることになる。
そして、アルベドがアタシが作ったスイーツをご所望する日々が始まることを、この時のアタシは知らないのだった。




アルベドくん、誕生日おめでとう!

2023/09/13


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