9:元凶クリエイト


※遺跡守衛の設定について捏造あり
※アルベドがカーンルイアについて詳しい



「設計者って、まさか!」


パイモンの考えている事は、ボクと同じ内容だろう。
もう一人のナマエは、目の前の魔物を設計者と呼んだ。言わずもがな、あの魔物がナマエを人の理から外した張本人と言うことになる。

アビスの使徒と呼ばれていた魔物だが、きっと……その正体は魔物に落ちたカーンルイア人だ。



「ようやく、ようやく私が願った状態へと至ったか!」

「願った状態?」

「……以前、私がお伝えしたことを覚えていますか。設計者は、オリジナルの存在を私で上書きし、消滅させる想定だったことを」



なるほど、だからあの魔物はもう一人のナマエを見て、歓喜しているのか。……ボクはあまり感情に揺さぶられる方ではないと思っているが、どうもナマエ絡みとなると制御ができないらしい。

今、もう一人のナマエの言葉を聞いて、ボクは目の前にいる魔物に自分自身で驚くほどの怒りを抱いている。


「なんだ、その虫共は」

「彼らは私の恩人です」

「そうか、そうか。……ならば、感謝を込めて殺さなければなァ!!」


恩を仇で返すタイプか……愉快な思考の持ち主だね。片手剣を顕現させ、いつでも攻撃には入れるよう警戒を緩めない。



「さぁ、我が最高傑作よ! 恩人共へ感謝を込めた一撃を与えなさい!!」



魔物が彼女へと命令を出す。……しかし、もう一人のナマエは動かない。


「何故動かない、我が最高傑作よ!」

「それは、あなたが私のマスターではないからです、設計者」

「マスターではない、だと……!?」


魔物の様子が変わる。もう一人のナマエの言葉に、どうやら激怒しているらしい。表情なんて分からないのに、感情の突起が激しいから分かりやすい。


「……っ、だったら! コード『..3-23.-3..-22.』!」


聞き覚えのある言葉、内容。……それは、動かなくなった彼女を調べていた時、偶然見つけたコード。
拙いながらも解読し、それが強制的にマスター権限を変えるという内容だと結論づけた。

結果、ボクが導き出した答えは合っており、ナマエを設計者から引き離すことに成功した。


「『.32−..3』、『333-3..』」



コードは暗号化されたメッセージだ。内容はこう……『従え』『我に』



「『.3.-223-232-.23-322-3.2-323-3..』


___『捨て駒よ』
……最高傑作だと褒め称えているように聞こえるのに、結局の所もう一人のナマエだって、あの設計者にとっては捨て駒に過ぎない、ただの道具なのだ。

奪われてしまったら、今度こそナマエを助ける手立てがなくなってしまう。改造を施された彼女は、コードという命令に抗うことが出来ない。

___ここまでなのか。そう思った時だ。



「”コードを確認中。検索完了、マスター権限変更のコマンドと一致”」

「帰ってこい……我が最高傑作よ」

「___”エラー。こちらは既に使用済みです。マスター権限変更のプログラムを終了します”」

「使用済み、だと……!?」


どういうことだ?
使用済み?

突然の事に状況が呑み込めず、まだ頭が動いていない。とりあえず分かっていることは、ナマエは奪われていないってこと……?


「あなたは耕運機を参考する事に没頭したことで、この器の限界までプログラムを詰め込みました。このコードが一度きりになったのも、その背景があったからではありませんか?」

「くっ、……ッ!!」


確かに、前に自己メンテナンスをした彼女が教えてくれた。あり得ない数の改良が施されていた。容量の限界、というのは、その分野に対する知識がそれほどないから、想像しかできないけれど……すべての物質にはある程度、状態を保つ上で限界がある。人間も同じだ。

もう一人のナマエが言いたいのは、こういうことだろうか。
あの設計者は自分が望む機能をナマエに適用した。しかし、容量……肉体が耐えきれる限界があり、やむを得ず性能ダウンしたものがあったんだろう。

それが、先程のマスター権限を強制的に変更するコマンドだったのだろう。


「っ、ならば!!」

「わぁっ、なんだっ!!?」


魔物が自身の背後に空間の裂け目を発生させた。そして、ボク達を引きずり込もうとしているではないか!


「くっ、……なんて力だ……!」


片手剣を突き刺して耐えようとするが、吸引力が強すぎる。このままでは引きずり込まれて……!


「わあああああっ!!」

「! パイモンっ!」


パイモンが引きずり込まれてしまった!
それを追うように蛍も空間へ入っていく。


「っ、蛍、パイモン!」


彼女達を追うようにもう一人のナマエも空間へと入った。……彼女達を放っておくわけにはいかない。抵抗する事を止め、ボクも目の前の空間の裂け目へと飛び込んだ。



***



「っ、ここは……?」


パイモンの声に目が覚める。
どうやら高い場所から降下して、その衝撃で気絶してしまったらしい。少しだけ身体が痛む程度で済んでいるが、他はどうだろう?


「みんな、無事かい」

「アルベド! オイラと蛍は大丈夫だぞ!」

「……彼女は?」


ナマエの姿がない。
それに気づき、彼女達へ問いかけたときだ。


「今の音、なんだ!?」

「誰かが襲われている……?」


遠くから爆音が聞こえた。蛍の言う通り、誰かが襲われているか、もしくは戦っているか。その2択だろう。


「行こう、もしかしたらそこに彼女がいるかもしれない」

「そうだな! 行こうぜ!」


いまだに鳴り続ける爆音を頼りに、音の発信源へと走る。
この空間は薄暗くて、辛うじて背景が見える。洞窟のようにも見えるが、遺跡のようにも見える。

ボク達は風龍廃墟にいたはずなのに、もしかして転移させられたのだろうか?


「あ、出口っぽいのがあるぞ!」


パイモンが指さす方向には、ここよりも少しだけ明るい光が漏れているものがあった。出口……だといいけれど。
そう思いながら、光が差し込む場所へと走った。


「うっ……なんか広い場所に出た、ってうわあああっ!!?」


出口らしき場所を駆け抜けて、ボク達が出た場所は広い空間だった。先程まで走ってきたのは通路だったんだろう。
そして、パイモンが何故悲鳴を上げたのか。それは、目の前に在るものが答えだ。



「なんだよ、この大量の遺跡守衛は……!」

「……全部破壊されている。それも、何かに斬られたような痕だ」


そこには、数えるのも面倒な程の遺跡守衛と遺跡ハンターが、壊れた状態で転がっていた。時折閃光を走らせており、動き出す気配はない。

そして、その遺跡守衛全てに斬られたような痕があるのだ。……それを見て思ったのは、今この場にいない彼女によるものではないか、というもの。


「もしかして、」

「……まだ奥に道があるようだ。きっとそこに、彼女はいる」


あの入り口へ行こう。
そう声を掛け、ボク達は再び走り出した。

何度も同じような広い空間を駆け抜ける。
もう何部屋目か分からなくなった時、爆音が大きくなった。

……どうやら、漸く音の発信源へと辿り着いたみたいだ。


「! おい、あれっ」


ボク達が辿り着いた時、倒れる遺跡守衛を前に膝を着くナマエがいた。片手には両手剣があり、身体の支えにしているようだ。

そんな彼女の前にいるのは、ボク達をこの空間へと引きずり込んだ張本人である魔物がいた。その魔物の背後には、遺跡守衛と遺跡ハンターが存在していた。


「なんだ、生きていたのか」

「勝手にオイラ達を殺すなよ!! 大丈夫か、オイラ達だぞっ」


魔物の言葉を無視して、ボクはナマエへと近付く。
……酷い状態だ。あれだけの数の遺跡守衛と遺跡ハンターを倒していたんだ。傷だらけにならない方がおかしい。


「っ、どうして、ここまで……?」

「放っておけるわけないだろ!? というか、オイラ達を置いていくなよ!!」

「私は、貴方達を巻き込みたくなくて、それで……」


パイモンから怒濤のお叱りを受けて、彼女は動揺している様子。しかし、こんなことを悠長にさせてくれないのが、あの魔物だ。



「! 下がっていてください」


魔物の背後で待機していた遺跡守衛らが動き出す。それと同時に、膝を着いていた彼女が起き上がって両手剣を構える。


「待って、」


蛍が声を掛け、手を伸ばした時には、彼女は遺跡守衛らの中心まで移動していて、攻撃を開始していた。


「は、速い……!」


傷だらけの状態だというのに、どこからあの機敏な動きができるのだろう。そう疑問に思うほどに、彼女のスピードは速かった。
それはまるで、雷元素を彷彿させる速さだった。しかし、彼女は神の目を持っていない。つまり、あの速さは彼女自身によるものだ。



「遺跡守衛を踏み台にして、遺跡ハンターを落としたぞ!」



高い位置にいる遺跡ハンターの弱点である目のような部分に、彼女が両手剣で一撃を与えた。その一撃によって、遺跡ハンターは落下し、そのまま動かなくなった。


「素晴らしい、素晴らしい性能だ……! だというのに、お前も結局は失敗作だった!!」


……失敗作、だって?
その言葉は聞き捨てならない。

ボクも作られた存在である立場だから、もう一人のナマエの立場は勿論、ナマエ自身を理解できると思っている。
もう一人のナマエから聞く限り、きっとナマエは現在の姿を望んでいたとは思わない。ナマエがずっと心の奥底で引きこもっているのが、その証拠だ。


「彼女達は君に願ったのかい、この状態を」

「あ?」

「彼女から話は聞いている。……どう聞いても、ボクには君の自己中心的な願いによって、彼女達が今の状態へとなった、としか思えないんだ」

「マスターアルベド……」


相手はボクの話に耳を傾けていたのだろうか。表情が分からないから、視線が合っているのかも分からない。だが、黙っている様子から、ボクの話は聞いていたと思う。


「……はぁ。お前ならば、私の理想に辿り着くと思っていた。だが、やはりお前も私の理想にはなりえなかったか」

「どういうことかな」

「ならば、役に立って壊れろ」


ボクの問い掛けに反応することなく、魔物はこちらに向けて手を指す。その手が指す咲にいるのは、彼女だった。



「せめて、私のこれまでの努力を無駄にしないよう、ここで消えろ___コード『.3.-232-223-.32-.32-3..-.23-3..-233』『.3.-223-232-.23-322-3.2-323-3.』!!」



なんだ、今のは……?
……いや、あの魔物の言葉を思い返せ。今、あの魔物は彼女に対し『壊れろ』『消えろ』と暴言を向けた。

その言葉らから推測すると___まさか!


「ナマエ、」


隣にいる彼女へ振り返る。僕の視界に映った彼女は……。


「う、ぐぅ……っ、……あ、あぁ……っ」


頭を抱え、唸り声のようなものを上げて、まるで何かに抵抗している様に見えた。彼女からはピピピッと聞こえるようで聞こえない、不協和音のような音が鳴り続いていた。


「どうしちゃったんだよ、おいっ、しっかりしろよ!」

「パ、モン……、ほた、る……ッ、ある、べど……!」


鈍い動きでこちらへと首を動かす彼女。その彼女の瞳は、いつも通りのものに見えて、あの日目覚めた直後、ボク達を襲いかかってきた暴走状態の彼女と交互に切り替わっているように見えた。

その様子から、ボクが思い着いた推測。
それは今、彼女はあの魔物のコマンドに抗っているのではないか、ということだ。



「___に、げて……ください……!!」



苦しそうな声音から出た言葉は、かなり砕けたものだった。果たして、普段の彼女だったら、こんなにも人間のような言葉を選んでいただろうか。


「な、お前を放って逃げれるわけないだろ!?」

「は、やく……っ」


パイモンの言葉に対し、彼女が逃げろと言い続けていた……その時だった。



「”全システムを強制終了。次に、全てのリソースを資源に変換。変換完了と共に___機体を爆破します”」



ナマエから、抑揚の無い言葉で”爆破する”と告げられたのは。


「うええぇっ!!? 今、爆破って言った!? 言ったよなっ!!?」

「落ち着いて、パイモン!」

「落ち着けるかよ!?」


……彼女達は知らない。いや、告げられる前に、このような事態になってしまった、が正しい。

あの日、星拾いの崖に出かけたとき、ボクだけに告げられた真実。
それは、彼女ナマエの身体には自爆のコマンドが存在していたと言うことだ。それを蛍とパイモンに告げようとしたときに、目の前の魔物が現れたのだ。


「……っ」


彼女を見捨てて逃げる?
そんなこと、できるわけがない……!

昔のボクならば、逃げることを選択したかもしれない。だけど、気づいてしまったんだ……ナマエに対する、この気持ちを。

心の奥底に閉じこもるナマエの背景を知って、守りたいと思った。辛い思いをしたからこそ、楽しい思いをして欲しいと思った。

こんなにも沢山、彼女について知った以上、見知らぬ場所で死なせるわけにいかない……!


「”全てのリソースを爆発源へ変換完了。爆破まで、5、4、3……”」

「どうするんだよ!!?」


けど、ボクにはこの状態へ陥った彼女を救う手段はない。
……だから、頼んだよ。

あの日、ボクに話を持ちかけ、今日こうして耕運機を見たいと言い出した事……キミが導き出した”解決策”が、この状況を、ナマエを救ってくれることを。


「”2……1”」


カウントダウンが遂に1を告げた。
……そして、0と声が聞こえ、ピピピッという高い音が小刻みに鳴る。……来るだろう爆破に構えた。



「…………あれ?」



しかし、構えていたはずの爆音は訪れなかった。静寂だけが、この空間に満ちていた。ゆっくりとナマエを見た。


「……ナマエ?」


そこにいたのは、ピクリも動かなくなったナマエがいた。その様子は、停止した遺跡守衛によく似ていた。
……つまり、ナマエは意識を失っていたのだ。


「ナマエ、ナマエっ、おいっ、返事をしろよ!!!」


パイモンがナマエの身体を揺さぶる。しかし、彼女が目を覚ます予兆はなかった。






2023/08/06


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