三:夕暮れ、闇夜と共に幻想は訪れる


※小話「使用目的はそれぞれ」の内容を含む



「これで……っ、10体目……ッ!」


現在の時間帯は夕方。1日が終わる前になんとか10体目まで見つけることができた。
けど、この1体を探し出すのにかなり時間がかかった。


「おまえ、全力疾走の後によく戦えるよな……っ。そして倒してるし!」

「なんでパイモンが疲れてるの」

「飛んでるからって楽してると思うなよ!!」


パイモンのことはいつものことだし、そっとしておいて……っと。
さっきパイモンが言った通り、名前は全力疾走の後、休憩もせずにすぐに海乱鬼へ襲い掛かった。時間帯もあって、名前は焦っていたのかもしれない。

その焦りが危険を呼ぶかもしれないというのに……一緒に行動していてよかった。そう思いながら、少しふらつく名前へ近づいた……その時だった。



「な、なんだ!?」



突如、巻き起こった強風。けど、ただの強風というには少し違った。
なんだか、いい匂いがする……これは花の香りだ。それは分かるけど、何の花までかは特定できなかった。

けど、視界の端にたびたび見える花弁がある花を彷彿させた。
何故ここにいるのか?
……名前に着いてきたから。

何故名前はここにいる?
……彼女の祖先という精霊が課した試練のため。

今、まさに名前は精霊が課した試練である10体を倒したばかり。……まさか!



「日没丁度。……我が課したすべての邪を斬れたな」



ふと、聞こえた声。
その声はとても・・・名前に似ていた。いいや……まったく同じにしか聞こえなかった。
だって名前が喋ったのではって思ったんだもん。

けど、名前の様子を見るに、それは違った。
彼女はある方向へと視線を向けていた。私もそれにつられるように自然と名前の視線の先へと首を動かした。


「……勿論です」

「第一関門は突破と言っていいだろう」


そこにいたのは、あまりにも名前そっくりな女性がいた。けど、雰囲気もあってか向こうの方が少し大人びたように見える。名前が結構幼い容姿をしているのもあるかもしれない。

名前は成人しているらしいんだけど、もっと大人びた雰囲気したら……きっと目の前にいる女性のようになるだろう。それほどに似ていたんだ。


「うん? 其方たちは?」


名前と同じ蒼色の瞳が私とパイモンをとらえる。同じ色のはずなのに、その目を見ていると不思議な感覚を覚えていく。その感覚は恐怖にも似ているけれど、怖いと思うわけじゃない。

この感覚は一体___


「彼女たちは私の友人です。貴女に課せられたものについて手伝ってもらっていません。私一人でやりました」

「それについては気にするな。我はすべて見ておったからな」


……分かった。未知だ。
分からないからこそ感じる恐怖と、それを知りたいという好奇心。
名前に似たその存在を私は知りたいんだ。


「貴女は誰?」


そう思ったときには、すでに口を開いていた。


「其方らが生を受けるはるか昔にこの地で発生した、1つの妖にすぎぬが……まぁ、答えてやろう」


再び風が舞う。
それと同時に花弁が舞う……この色、名前が付けている頭飾りの桔梗に似て……まさか!



「我は桔梗の花の化身。名はキョウだ。其方の友人である娘に流れる血の始まり……祖である」



さっき名前が言っていた自分そっくりの祖先というのが、目の前にいるこの人!
そっくりだったのもあって、もしかして……とは考えていたけど、本当にそうだった。


「さて、其方の実力もこの目で見ることができた……では、次の試練を与えよう」

「……すべて、斬るだけです」


そう思っている間にも名前と、名前の祖先だと名乗った桔梗の花の精霊…キョウは話を進めていく。
まだ試練を与える気なのか……と思っていた時だ。



「その威勢と、我の予想を超えた実力を見込み、余計な探りをすべて削ろう___次の試練にして、最後の試練……我にその力を見せてみよ」



試練というには早すぎる展開……なんと、もう最後の試練を与えて来たではないか!
それも、自分と戦えと言ってるし……もしかしてこの精霊、結構血の気が多い?

なんてことを思いながら、名前へと近づいていくキョウを見つめる。
すると、キョウは名前の傍で足を止めたと思えば……。


「まずはその疲れた身体を癒せ。我は万全な状態である其方と戦いたいのだ。良いな?」

「……はい。っ!?」


名前の額に指先を軽く当てた。その時、触れた部分hが淡く輝いたような……?


「約束の地は此処だ___では、明日の日没後。待っておるぞ」


そう言ってキョウは姿を消してしまった。
それと同時に、謎の緊張感も消えた。


「ぷはーーっ、お、オイラ怖くて一言もしゃべれなかったぞ……!」


なんか静かだと思ったら、パイモンがずっと黙っていたからか。確かにあの雰囲気は恐怖……いや、威圧感と言ってもいいかもしれない。それがあったから、パイモンはおびえてしまったんだろう。


「キョウって言ったか? あいつ、口にも出してないのに待ってるって言ってたけど、何もわからないぞ」


確かに……明日の日没、一体どこへ行けばいいんだろう。
そう思っていると、名前がこちらを振り返り、口を開いた。


「いや、私にだけ教えたんだよ。さっき、直接触れた場所に映像が流れて来たんだ」


パイモンの言葉にそう返しながら、名前はキョウに触れられた場所を触る。さっき触られていたのは、まさか場所を教えるため?


「口で言えばいいじゃないか! めんどくさいやつだな!」

「それが祖先のやりやすい方法だったのかもしれないよ」

「お前は解釈が優しいな……」


人ならざる者だからこその技って感じがする伝え方だ。こっちからすれば、普通に口で言ってほしいものである。



「そういやこの辺って神里家が近いな。名前はここで休憩したらどうだ? かなり疲れているだろ?」



一段落ついたところで、約一日の休憩を名前に取ってほしいとパイモンは告げた。それについては私も賛成だ。


「万葉と楓真くんは私たちが探してくるから、ね?」

「私は動けるよ、気にしないで。それに、突然来て神里家の方たちに迷惑をかけるだけだもの」


そんなこと、家主の二人は勿論、従者の人も言わないだろうに。そんなことを思っていた時だ。



「___母上!!!」



悲鳴のようにも聞こえる母を呼ぶ声。
その声の主は、数時間前に聞いたばかりだし、何度も聞いた声だから分かる。

その声の主は勢いよく名前へと抱き着いた。


「ふ、楓真」

「心配したのだぞ……っ、どこにもいなくて、母上が消えてしまったのではないかって……っ!」


名前の腰辺りに抱き着いたのは、名前の分身とも言っていい存在___彼女の息子である楓真だった。
……と言うことは。



「名前」



当然、彼もいるわけで。
声が聞こえた方へと振り返れば、その姿はすぐそこに。


「か、万葉……」

「拙者を心配させたかったのであれば100点満点でござる。ただし、拙者は褒めるために来たのではない……分かっているであろう?」


この感じ……かなり怒ってる。
頑張って顔には出さないようにしていそうな雰囲気まである。


「……なぜ、黙って出ていったでござる」

「言ったら信じてくれる?」

「拙者は愛する者の言葉を信じぬ男に見えるのか?」


名前は万葉の言葉に首を横に振った。
万葉が名前を愛していることは何をどう見ても真実であり、とても分かりやすい。それについては名前自身もよく分かってるみたいだ。


「話してくれ、名前」

「その……夢を見たの」


名前は万葉と楓真に黙って姿を消したわけ……自身の祖先と話したことを伝えた。名前の言葉を信じないわけがない二人ではあるけど、本当であることを私とパイモンも補足的な感じで話した。

この目で姿を見て、名前が祖先に課せられたものが本当であったことを聞いたからね。


「それでもでござる。せめて拙者には話してくれ。寝ているからなど気にしなくてよい、叩き起こしてでも言ってほしかったでござる」

「ごめんなさい、万葉」

「こちらは闇雲に探すしかなかったのでござるよ? ……これでは秘典の箱を手に入れた意味がないであろう?」


そう言って万葉が渡したのは……まさかの秘典の箱。え、名前七星召喚やるの!?


「名前も七星召喚やるんだな!」

「全然初心者だけどね……二人もやってるの?」

「おう!」

「機会があったらやろう」

「うん、勿論だよ」


突然の秘典の箱に驚いてしまい、若干話は逸れたけど……。


「それでは、今日はもう休むとしよう。名前、明日の日没に指定された場所へ行けばよいのだろう?」

「うん。もう一度、あの方の刀を受けて……私の刀を見てほしい」


さっき名前が万葉と楓真に明日の日没まで続くことを話していたから、名前がどれほど祖先との戦いに想いがあるのか分かっていると思う。楓真くんにはまだ難しいかな……?


「名前の覚悟は分かった。だが、休みもなしに刀を振るっていては身体が疲れているであろう? 約束の時間まで余裕はある。今日は拙者が夕餉を作るから、名前は休んでいると良い」

「で、でも」

「拙者が母上を見張っておこう! ほら母上、夕餉ができるまで七星召喚をやろう!」

「わ、分かった。……それじゃあ、お願い」


楓原家の話もまとまったことで……そろそろ私たちはお邪魔かな?
そう思った私はパイモンに目線でそろそろ行こうと伝え、その後に3人を見た。


「オイラたち、そろそろ行こうと思うんだけど……」

「待って、二人とも。その……明日のことなんだけど」


パイモンの言葉に待ったをかけたのは名前だ。どうやら明日の……彼女の祖先との関係で話があるみたい。


「二人も来てくれない、かな。ダメだったらそれでいいの。これは私のわがままだから……」


……もしかしたら、私たちが言った『祖先になろうとしている』という言葉に不安を覚えているのかもしれない。
だって、今の名前の顔が、その言葉を言ったときと同じなんだもん。偶然にも万葉と楓真くんは彼女の背後にいるため、その表情は見えていない。

けど、万葉は……その声音でなんとなく察しがついていそうだ。


「勿論。断る理由なんてないよ」

「! ありがとう」


名前は私たちに礼を言うと、桔梗の花の精霊が指定してきた場所を教えてくれた。……けど、私にはよくわからない場所だった。


「この場所はね、昔……桔梗の花が沢山咲いていたって言われてる場所だったんだ。けど、今はただ荒れ果てた場所になってる。……もしかしたら、祖先にとって思い入れのある場所なのかも」

「そうなのか……」

「場所が分からないなら待ち合わせしよう。祖先が指定した場所に近いのは……鎮守の森かな」

「うぅ、よりにもよって暗い場所……しかも、時間帯は夕方だし!」

「じゃあパイモンは休んでおく?」

「オイラもついてくるに決まってるだろ!!」

「ふふっ、相変わらず二人は仲がいいね。じゃあ怖がりなパイモンのために、神里家近くの鳥居にしよっか」

「ありがと名前!」


パイモンってば本当に単純なんだから……。
とにかく、明日も名前と一緒に行動できる。それに安心すると同時に、信頼してもらえている証拠でもあって嬉しい。


「それじゃあ、また明日」

「おう! ちゃんと休むんだぞ〜」


手を振りながらこの場を去る私たちに、名前と楓真は手を振り、万葉は優し眼差しで見送ってくれた。






2024年03月26日


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