愛する貴方にバラを
※大遅刻の父の日ネタ
※安定の捏造
「母上! 今、時間はあるか……?」
「うん、大丈夫だよ」
やることが一段落し、少し休んでいたときだ。部屋に入ってきた楓真が恐る恐ると言った様子で私に話しかけた。
……どうして小さな声なんだろう?
そう思いながら駆け寄ってきた楓真を見つめた。
「実は、もうすぐ父の日なのだと友人達から聞いたのでござるよ。母上は知っておったか?」
「……ごめん、もうそんな時期だったんだね」
前回のこどもの日で無知を知った私は、祝日についてある程度調べた。その中に父の日もあった。
父の日というのは、その名前のとおり父に感謝する日。今思えば……幼き頃、母様が父様に贈り物をしていたのは父の日だったからなのかな、なんて。
ちなみにこの父の日の始まりは、とある外国の女性から始まったというもの。当時少女だった女性は「母に感謝する日があるのなら父に感謝する日があるべきだ」と嘆願したのだそう。その思いから、父の日が始まったのだという。
この父の日は薔薇という美しい花を贈ることで有名なんだとか。稲妻ではあまり見かけない花だけど、資料で見た事がある。
「もちろん母上も、父上に薔薇を贈るのだろう?」
「うん。けど、今楓真に聞いたばかりだから準備が出来てないんだ」
「では、港におりて花屋へ行こう! 前に母上に贈った花を買った花屋に案内するでござるよ!」
どうやら良い花屋を知っているらしい。というより、私に贈ってくれた和蘭石竹を買った場所、教えてくれるんだ……。
「じゃあ早速港に行こうか。今日万葉は港にはいないはずだから、問題無いはずだよ」
というわけで、近くにいた船員に港へ出かけることを伝えて船を下りた。久しぶりに二人きりでお出かけか。ここ最近は万葉を含めた三人で出かけることが多かったから。
「母上と出かけるのは久しぶりであるな!」
「うん。目的の花屋以外にも、どこかに出かけよっか」
「うむ!」
楓真に案内されながら考えていたのは、薔薇の花言葉についてだ。花言葉というものについては綾華様がご興味あったため、少しだけ知っている。
確か薔薇の花言葉は有名だったはず。その中でも赤い薔薇の「情熱」「あなたを愛します」は有名だと思う。あと、薔薇の本数で意味も変わるんだとか。花言葉って奥が深いなぁ。
「いらっしゃいませ! あら、そこの坊やはいつぞやの!」
「うむ! 今日は父上のために花を選びに来たのでござるよ」
目的の場所へ着くと、花屋の店主である女性が出迎えてくれた。どうやら以前訪れた場所であることは間違いないようで、店主は楓真を覚えていた。
「あぁ、君にそっくりなお父さんね! そっくりすぎでビックリしちゃった!」
「確かにあの人にそっくりだとは思いますね」
「けど、貴女にも言えるわ。外見は父親に似ているけれど、目の色や髪の一部分の色は母親そっくりね」
遺伝子って面白いものだ。私は外見は母様に似て、色合いは父様に似たのよね。こうして考えると、楓真とは真反対ね。
……万葉はどうなんだろう?
私が会ったことがあるのは万葉のお父様だけだ。お父様と対面したときには、万葉のお母様は亡くなっていたから……。
「あらいけない! お花を見に来たのよね? 貴女たちが探す花があるといいんだけれど」
「薔薇はあるか? 父親に贈りたいのだが」
「もしかして父の日のプレゼントかな? えぇ、えぇ! こちらにいろんな色のバラがあるから見ていって頂戴!」
店主に案内して貰った場所は、父の日の為に設けた場所らしい。そこには色取り取りの薔薇が展示されていた。
「これはフラワーアレンジメントと言ってね。そこの坊やには前に教えたかしら」
「うむ! おかげで母上に良い贈り物になった!」
「それで? 今度は奥さんが旦那さんに贈り物するんだろう? さ、貴女はどんな贈り物を選ぶんだい?」
「拙者はどれにしようかなぁ〜?」
展示されたフラワーアレンジメントを眺める楓真に笑みを零した後、私はある一点を見つめた。
……実の所、目に付いた瞬間「これだ」と思ったんだ。
「私はこれでお願いします」
「えっ、母上もう決まったのか!?」
「あらあら、王道を貫くのね」
「確かに薔薇と言えばこの色ですが、私は彼を色で例えるなら”赤”だと思ったんです」
その名に楓の漢字があるように、彼には紅葉が似合う。いや、紅葉と言った方が良いかな。因みに植物の分類状では楓と紅葉は同一であるらしい。
「ならば拙者は白の薔薇にするでござるよ!」
「言い組み合わせね! それで作りましょう。本数はどうしましょう?」
バラは本数によって意味がありますから、よければ参考にして下さい。
そう言って店員さんが渡した用紙には、薔薇の本数による意味が纏められていた。へぇ、恋や愛以外の意味もあるんだ。
「私は6本にします。楓真は?」
「拙者は5本にする!」
「はい、確かに承りました。本日お持ち帰り致しますか?」
「今日中に可能ですか?」
「勿論です!」
店主さんによると、1、2時間ほどかかるらしい。というわけで、それまでは楓真と璃月港を回ることにした。
「母上は璃月港に来たのは初めてか?」
「ほぼ初めてかな。基本は買い物の時くらいしか来ないから」
「ならば良い所を案内するでござるよ! 父上から教えて貰った良い場所があるのだっ」
___約束の時間まで、私と楓真は璃月港を満喫した。時間になり、フラワーアレンジメントを受け取って船に戻り、父の日までそれを万葉に隠し通す事にした。
その後、万葉が私と楓真を尋ねてきて「随分と楽しい時間だったようでござるな」と、明らかに不機嫌そうな顔をしていた。そんな万葉が面白くて笑ってしまったら、更に不機嫌な顔になってしまった。
……そして当日。
母の日に贈って貰った和蘭石竹と同じく、赤と白で彩られた薔薇のフラワーアレンジメントを贈った。
「綺麗であるな。……うむ、拙者も二人を愛している」
そうそう、これは偶然だったんだけど……私と楓真が選んだ薔薇の合計が11本だった。11本の薔薇の意味は「最も愛おしい人」なんだって。どうやら万葉はその意味を知っていたみたい。
「……うん、私も」
「おや? 拙者はきちんと言葉にしたのに、名前は言ってくれるのか?」
「うぅ……あ、愛してます」
「うむ、知っておる」
分かってて言わせたな……そう思って少し睨んだけど、痛くもかゆくもないと言った蝦夷か向けられなかったのだった。
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2023年09月30日
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