愛おしい君に赤色のカーネーションを


※大遅刻の母の日ネタ



「父上! 今、時間はあるか?」

「楓真か。うむ、大丈夫でござるよ」



一仕事を終え休憩をしていた所、楓真が拙者に声を掛けてきた。時間を聞いてきたと言うことは長話になるのだろうか?


「先程、友人から聞いたのだが、もうすぐ母の日らしい。父上は母の日がどのような日であるか、知っておるか?」

「勿論」



母の日とは、日ごとの母の苦労を労い、母へ感謝を表す日と言われている。また、和蘭石竹…またの名をカーネーションと呼ばれる花を贈ることでも有名でござるな。

起源は、外国のとある女性が花好きの母に白の和蘭石竹を贈ったことだと、話を聞いたことがある。しかし、時間が流れるにつれ、花には様々な花言葉が着けられていった。


「父上、どこかに和蘭石竹は売っておらぬだろうか……?」


主に母の日に贈られる和蘭石竹は、赤色が印象的だ。赤の和蘭石竹の花言葉は『母の愛』『真実の愛』だ。
きっと楓真は赤の和蘭石竹を贈りたいのだろう。楓真が名前に対し抱いている気持ちに、その花言葉はよく当てはまる。


「まだ母の日まで時間はある。花を売っている場所について、名前に気づかれぬよう、探りを入れよう」

「拙者も探すでござるよ! 父上ばかりに頼っては意味がないであろう?」

「! ふふっ、そうか。であれば、今から璃月港に参ろう。今なら名前は船内の仕事中であるはずだ」

「承知した!」


さて、拙者は名前に何を贈ろうか。璃月港で一緒に探してみようか。無論、和蘭石竹を贈ることは確定しておる。何色かは花言葉を聞いてから選ぶとしよう。


「名前、いるでござるか?」

「万葉! 楓真も……どうしたの?」

「今から2人で璃月港へ出かけてくるでござるよ。名前はまだ手が離せずであろう?」

「そうだね……まだやることが残ってるから、着いていけないな。気を付けて行ってきてね」

「行ってくるでござる、母上!」

「いってらっしゃい」


拙者達に向け手を振り、見送る名前が見えなくなるまで手を振り返した。さて、名前への贈り物はどんなものにしようか。
喜ぶ名前の顔を浮べていると、服を引っ張られる感覚。その感覚の元へと振り返れば、拙者を見上げる楓真が。


「父上、なんだか楽しそうであるな! 父上も母上の贈り物を考えて楽しいのか?」

「も、とは?」

「拙者は母上の喜ぶ顔を想像すると楽しいでござるよ! 父上は違うのか?」


人懐っこい笑みを浮べ、こちらに問いかける楓真。……どうやら、拙者達は同じ事を考えていたらしい。


「拙者も同じでござるよ」

「そうでござったか! ……よかった」


嬉しそうな笑みを見せたと思えば、顔を俯かせ少し悲しそうな顔を浮べた楓真。疑問に思った拙者は楓真の名を呼んだ。


「どうした、楓真?」

「……初めて父上と会ったとき、父上の問いに拙者が『母上が拙者に父上はいないと話していた』と伝えたことを覚えておるか?」


……あぁ、あの時のことか。楓真の問うた話が何の事か気づき、肯定の意味を込め頷いた。


自分そっくりな幼子から、名前の特徴を見て、もしや……と思い、幼子こと楓真に対し父の存在を問うた時の事だ。

確かに楓真は、拙者の問いに母上こと名前から父親の存在はいないと聞いている、と話していた。しかし、何故その話を?



「母上には勿論、宵宮の姉君達にも伝えておらぬ事なのだが……。実の所、顔の分からぬ父に対し、怒りを覚えていたのだ」

「楓真……」



怒りを持たれるのは当然のこと。だが、まさか実の息子に思われていたとは……。
少し気まずい気持ちになってしまうな……。

おっと、まだ楓真の言葉には続きがありそうだ。黙って聞いていよう。


「母上が寂しそうな顔を浮べているのは、父の存在なのではないか……心の奥底で、そう予想しておった。だが、父上を知ってからは、もうその気持ちはござらぬ」

「? どうしてだ?」

「父上も事情があった。蛍殿とパイモン殿に、父上について少し聞いたでござるよ」


だから、もう怒っておらぬ!
再び笑顔を見せてくれた楓真に、自然と笑みが零れる。後ろめたい気持ちは、もうなさそうでござるな。

少し先を走って行く楓真を眺めていると、こちらを振り返る名前と同じ青紫色の大きな瞳が拙者を捉える。


「父上、早く参ろう!! 良い品がなくなってしまう!」

「こらこら、走っては危ないでござるよ。ほら、父上と手を繋ごう」

「むぅ……子供扱いは止めて欲しいでござる……」

「ははっ、拙者達からすれば、お主はまだまだ可愛い子供でござるよ」


頬を膨らませながら拗ねてしまった楓真。しかし、拙者が差し出した手に小さく暖かい温もりがある限り、素直になれないだけであろう。

これが、話に聞く”反抗期”というものであろうか?
……いや、拙者が聞いた反抗期はおよそ2、3歳頃と聞いたが……まぁ、良いか。年頃だと言うことにしておこう。拙者も、名前に対して似た感情を抱いていた時期があったからなぁ。



***



「良いものを見つけられたでござるな!」


陽が沈みかけている夕刻。
嬉しそうに笑みを浮べた楓真の両手には、2人で考えて選んだ名前への贈り物がある。これを当日まで名前に悟られぬようにせねばな。


「楓真。話した通り、当日まで母上に話してはならぬよ」

「ど、努力する……」


苦笑いを浮べ、目を逸らす楓真。普段の様子から見て思ってはいたが、名前に関する事に対しては口が軽くなってしまうらしい。


「この品は拙者の部屋に隠しておこう」

「匂いで気づかれてしまわぬか?」

「うっ、そうでござるな……名前も鼻が利く方であるからな……」


であれば、北斗の姉君を頼ろう。……にやにやとした笑みを向けられそうではあるが、もう慣れたでござる。


「えへへっ、当日が楽しみでござるな!」


そう笑う楓真の頭を撫でながら、拙者も喜ぶ名前の顔を浮べる。名前は花が咲くように笑みを浮べるのだ。
……稀に、今にでも消えてしまうのではないかと思う程、儚い笑みも浮べることがあるのだ。その笑みを浮べぬよう、拙者が支え守らねばならぬな。当然、楓真も拙者が守るべき存在だ。

守るべき者が多いと、怯えてしまうこともあるが、何よりも力がわいてくる。
……今度こそ守り切ると、誓ったでござるからな。



___当日。
赤と白の和蘭石竹で彩られたフラワーアレンジメントを、拙者と楓真からの贈り物として名前に贈った。


「……綺麗、ありがとう。大切にするね」


頬を桃色に染めた名前は、やはり花が咲くように笑った。その笑みにつられるように、拙者と楓真も笑みを浮べたのだった。






2023年08月11日


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