裏側の世界か、はたまた未知の地下空間か



「この地にいる……本当なんだね?」



名前、クレーと分断された後、俺たちはアビスの詠唱者とこれ以上戦うことができないと判断し、戦線離脱した。

体制を立て直すためではあるが、何よりも状況を整理したい。というわけで始まった状況整理なんだけど。


「それなら案外早く合流できるかもな!」


思ったよりも深刻な状況にはならないかもしれない。
何よりもが名前の存在を保証している。名前がクレーを1人にするわけがないので、一緒に行動しているはずだ。


「どういった仕組みなのか気になるところだけど、まずは合流することが最優先だからね。事態が落ち着いた後にでも聞かせてほしいな」

「覚えていたらな。まあ、そう長く話すようなものではないが、それでも興味があるのなら話してやる」


というわけで、の後を着いていく形で俺たちは移動を始めた。こう思うと、が名前を見つけられる契約で結ばれた縁が、七星召喚で必須アイテムである秘典の箱の機能、プレイヤーを見つけるという機能を彷彿させる……。


「この洞窟に入るのかい?」

「ああ。この先から名前の反応を感じる」

「なるほど……」

「何かあるのか?」


ふと、アルベドがにそう問うた。アルベドはモンドで誰よりもドラゴンスパインを知っている存在だ。声をかけたという事は、何かあるってこと?


「いや、何もない・・・・から疑問なんだ」

「えっと、どういうことだ?」

「この先にあるのは、巨大な氷柱が一本だけある不思議な空洞なんだ。まあ、口で言うより、実際に行って見てもらうほうが早いかな」


アルベドの言う内容は、どういう意味だったのだろう。
何もないなら名前とクレーを見つけやすいってことじゃないの?


「ねぇ。二人は今……というより、名前になるだろうけど。今が感じ取っている名前の位置はずっと同じ場所なの?」

「ああ」


だったらアルベドの疑問の声は杞憂になるのでは?
そう思いながら先を進んだ……。



「あ、見えたぞ! あれがさっきアルベドが言ってた巨大な氷柱か?!」

「そうだよ。今まで歩いてきた道から察しがついていると思うけど、この場所は高い位置にあるから、天気がいい日は綺麗なんだ」



今日は……天気がいい日を引いたみたいだね。
途中から先頭を歩いていたアルベドがこちらを振り返り、自身の背後を見てと言うように手を指す。



「でも、残念ながら二人の影はないようだ」



どこかモンドにある西風大聖堂の室内のような雰囲気のある、光が差し込んだその空間には、部屋の中心に柱があるように巨大な氷柱がそこにあった。

だけど、本当にここには何もなかった。それだけしかなかったんだ。俺たちが探す人物たちはどこにもいなかった。


「どういうことだ、確かに名前の反応は此処にあると言うのに……」


考え込むの表情は、硬いものではあるが、驚きと疑問が出ていた。


「君たちはが二人の場所を割り出していると信じられるかい?」

「勿論だぞ! は名前に何かあるとすぐ仙術で駆け着けるんだぜ!」


それに、の名前を呼べば璃月であればどこへだって駆け付けてくれる。頼もしい孫算なのだ。


「あやつは自身の危機に鈍いのだ。何事においても他人を優先する、だからあの時のように……!」


きっと200年の空白だった時間について話しているんだろう……と思っていた時、は言葉を詰まらせた。顔を見ていれば、何かに気づいたような、そんな表情をしていた。


「どうかした?」

「あの時と状況が似ている……そう思ったのだ」

「どの部分がだ?」

「居場所は分かっているのに、遠くにいる感覚……。あの200年を再度体験しているような気分だ」


この地がドラゴンスパインという彼らに馴染みある璃月ではないために上手く力が使えていないのか、の言う通りの状況なのか……今このドラゴンスパインは異常な状況でもあるから、が想像していた結果とは違うことが起こっているのかもしれない。


「……聞いていいのかわからないんだけど、今の状況は過去にも体験したってことでいいのかい?」

「その解釈であってるぞ」

「そのときはどうやって解決したのかい?」

「話すと長くなるけど、言えることは役には立たないと思うぞ」


が名前とのつながりを謝るわけがない。この目で何度も見てきたんだ。
だからこそ言える。今、が名前がいると言った場所はここで合っているんだって。

けど、姿が見えないならそれは証明できない。先ほどまでの内容で可能性として挙げられるのは……俺がこれまで見てきた各国で起きた出来事も何かヒントになるはず……!


「! そうだった、二人はアビスの詠唱者の術によって異空間に入った。けど、場所としてはドラゴンスパインにいる」

「何か分かったのか、空?」

「推測ではあるんだけど」

「君の考えを聞かせてくれ」


俺の中で出た1つの案。
それはスメールで体験したとある出来事。

同じ場所であるのに、そこは夢の中と現実で違った雰囲気を見せる。その地はヴァナラーナという。


「名前とクレーは確かにこの場所にいる。けど、俺たちと違う空間……俺たちがいる現実と地続きな異世界、裏世界って言えばいいのかな。とにかく言いたいこととしては、が二人の居場所を当てているのは合っていて、でもアビスの詠唱者の技で二人は違う空間にいるんじゃないかってことだ」


もし名前とクレーがいる場所が、同じ場所なのに違う世界だとすれば、は間違っていない。ただ、違う空間だということになる。


「面白い考えだ。ボクはとまだ出会って間もないから、彼について詳しくない。けど、君たちが信用しているんだ。ボクは君の考えに賛成するよ、空」


それに、裏世界っていうものがある可能性は0ではないだろうからね。
そう言葉をかけてくれたアルベドは、俺の目を見て頷いた。


「でも、どうしてそんな風に考えたんだ?」

「スメールで体験したことを思い出して、パイモン。アナンナラたちが暮らすヴァナラーナと似ている気がしたんだ」

「なるほどな! 確かにあの場所は同じ場所なのに、夢と現実で違う姿を見せるもんな!」


パイモンも俺の考えに納得してくれたようだ。
さて、残るはだけだけど……。


「同じ場所なのに、違う空間にいる……。なんとも想像しがたいことだが、お前が体験してきたことと似た状況であるのなら、我もその考えに同意しよう」


少し考えた後、も俺の考えに納得してくれたようだ。
じゃあ、俺の推測が本当であると仮定して話を進めるとなれば。


「二人が本当に別空間にいるとなれば、どうやって助けるんだよ」

「それは1つしかないだろう……先ほどのアビスの詠唱者。あの魔物が二人を吸い込んだんだ、あの魔物だけが行方を知ってる」

「もしくは、再度あの技を使わせるか、だな」


やはり誰もが一番に浮かぶのは、あのアビスの詠唱者みたい。
けど、あのアビスの詠唱者はドゥリンの心臓部分にいる。あの場所へは名前の力がないと近づくことができない。


「……ひとまずは二人がこの位置にいる、それだけは確かだ。けど、これ以上の捜索は難しいだろう」


そう言うアルベドの視線は、先ほどまで光が差し込んでいた薄い氷の壁。そこからは夕日……まもなく日が沈むことが分かった。


「ボクの拠点に戻ろう。簡単な食事は用意できる。それに、一日でいろいろ起きて疲れているはず。今日のところは休んで、明日仕切りなおそう」


休息も大事なこと。
それに事が起きたばかり。時間経過で分かることもあるはず。


、それで大丈夫?」

「ああ。気遣い感謝する、空」


いつも通りの口調ではあるけど、内心名前のことでいっぱいいっぱいだろう。裏世界へ踏み入るには入り口を探すしかない。

けど、まだ名前とクレーが裏世界にいるという確証が得られたわけじゃない。ないとは思うけれど、アルベドさえも知らない地下空間があって、そこに二人がいるという可能性もある。


それらを調査するには、暗い場所は効率が悪い。特にこの場所はたどり着くまで薄暗い洞窟を歩いてきたんだ。帰りを考えれば、アルベドが一度拠点へ戻ろうと提案したのも頷ける。


「明日、進展があることを祈ろう」

「そうだな」


アルベドとパイモンが会話しながら洞窟の外へつながる道を進む中、俺はの傍を歩いていた。時折後ろを振り返り、氷柱のある空間を見ていた。……彼は今、何を考えているんだろうか。

どうか、最悪な結末にならないように。そう思うしか今はできなかった。



___そうして、新たな一日と共に太陽が昇った。






2024/05/21

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