2023年猫の日
※n番煎じネタの可能性大
※洞天の設定を捏造



「名前さんが出てこない?」

「ああ」


璃月に訪れていた空とパイモンの前に現れたのは、この地を長い時間守ってきた仙人の一人、だ。普段であれば空が彼の名前を呼んだ際に姿を現わしてくれるのだが、今回は彼自身から空の元に現れた。

そんな彼が空の前に現れた理由。それはの妻である名前が関係していた。


は名前がどこにいるのか分かるんだろ?」

「当たり前だ」

「だったら行けば良いじゃないか」

「できたらお前達に話していない」


溜息をつきながらそう言ったに空とパイモンは顔を見合わせる。どうやら思っている以上に困っているようだ。


の気持ちは分かった。それで、肝心の名前さんはどこにいるの?」

「やつは自身の洞天にいる」

「え、名前も洞天あるんだ!?」

「何故ないと思っていたのか聞きたいが……まあいい」


パイモンの言葉に呆れながら答えただが、話を進めるために彼女の発言をスルーすることにした。


「喧嘩でもした?」

「我と名前が喧嘩? 一度もない」

「めちゃくちゃ仲がいいな……」

が気づいてないだけで、名前さんを困らせた、あるいは怒らせたこととかは?」

「我は名前についてならば全て感知できる。そんな感情を抱いていれば、すぐに分かる」

「うぅ、他に何があるんだよ!!」


喧嘩もしていない。名前が引きこもってしまった何かがあったわけでもない。……であれば、何が原因なのだろうか。


「ていうか、今それをやればいいじゃないか!」

「それ?」

「さっき言った、名前の気持ちを読み取るってやつ!」

「できているならお前達に話してないと言っただろう」

「どういう事?」

「洞天とは、即ち所有者の領域。洞天の主の思うがままだ。名前が我の前に姿を見せないこと、気配を感知させないということは……つまり、我を拒絶しているということになる」

「え……」


名前がを拒絶している。その言葉に空とパイモンは驚きを通り越し言葉を失ってしまった。
まず、名前がを拒絶する理由が二人には思い当たらないこと。そして、目の前の少年仙人がものすごく落ち込んでいることだ。前者より後者のほうが2人に衝撃が強かったようだ。


「あやつの安否を確認するには洞天に入らなければならない。そこで、だ。名前はお前達に気を許している。だから頼みたい……名前の洞天に向かって、扉を開けさせてくれないか」

「そこまで言うなら……」

「分かった。じゃあ名前さんの洞天に案内してくれる?」

「着いてこい」


しばらく歩いて……場所は漉華の池某所。璃月を歩き尽くしたと自負していた2人でも気づかない場所に名前の洞天はあった。


「結構寒いな……ていうか、氷がある!!」

「ここで名前の名を呼べ。我は気配を消して様子を見ている」

「分かった。やってみるよ」


はそう伝えると一瞬にして姿を消した。……言われたとおりにやってみるか。空はそう意気込んだあと、名前の名前を口にした。


「名前さん。空だけど、いるかな?」


いるのは間違いないだろう。でなければ、ここに来た時点でが感づいている。だが、それを悟らせないようにするため、偶然を装った設定で進めるようだ。


『そ、空さん!? どうして此処が……?』

「しょ、鍾離から聞いたんだ!」

『パイモンさんまで!? ……鍾離様にお聞きになってまで此処へ来たと言う事は、何か私に用事でしょうか?』

「うん。できれば直接会って話したいんだけど、入れて貰えないかな?」


この時点で嘘を付いているが、名前は気づいていない様子。そもそも、ここに空とパイモンがいることに気づいていなかった様子だ。洞天の外の様子を名前は感知できないのだろうか?


『……分かりました。ですが、には内緒にしてもらえませんか?』

「なんでだ?」

『訳は中で話します。とにかく貴方達の用件が重要ですから』


その言葉の後、目の前の扉が開く。名前が空とパイモンを洞天へ入る事を許可したと言う事だ。


「……よし、行こう」

「おう……」


空とパイモンは顔を見合わせた後、騙している事に心を痛めながらも友人のお願いのため、扉の奥へと進んだ。

……扉が閉まる直前、風を斬るような音が聞こえた。



***



「わああ……! 綺麗だなぁ……!」


名前の洞天は、水と氷で構成された世界が広がっていた。水色に淡く光る花々は、彼女の元素力である氷を表しているように感じた。


「外は少し肌寒さがあったけど、ここは見た目と違ってあまり寒くないな?」

「お二人の為に温度調節しました。寒くありませんか?」

「おう! ありがとな名前……って」


二人の前に現れたのは、この洞天の主である名前だ。……しかし、何故か全身をローブで隠している。それはもう、空とパイモンが初めて名前と出会った日……記憶を無くしていた彼女と出会った時そのままである。


「どうしたんだよ? その格好だとお前が寒がっているようにしか見えないぞ」

「私が寒いと思う時は、よほどの時ですよ。……ところで、はいませんよね? ね?」


キョロキョロと辺りを見渡し、の姿がないか確認している様子。彼女の様子を見るに、の言う通り喧嘩をしたわけでも、困らせたり怒らせたりはしてないようだ。

ただ違和感があるのは、何故か全身を隠している事だ。


「きょ、今日はまだ会ってないな〜」

「そうなんですね。では、もう少し奥まで行きましょう。お客様を立たせるわけにはいきませんから」


そう言って名前は洞天の奥へと2人を導く。……しばらく歩くと、開けた場所に出た。そこには石で作られたテーブルと椅子が設置されていた。


「飲み物を持ってきますね」

「おう、ありがとな!」


奥へと消えてった名前の背中を見届けた後、空とパイモンは顔を見合わせた。そして、小さな声で会話を始めた。


「……、入れた?」

『ああ。協力感謝する』


空とパイモンのみに聞こえた声。それは名前の洞天へと繋がる扉が閉まる直前、割り込むように入ったである。どうやらまだ姿を消しているようで、名前も気づいていないらしい。


「この洞天は名前の思うままなんだろ? がいることに気づくはずじゃないか?」

『あやつは信頼している者の前では警戒を解く。今回はその油断を逆手に取った』

「信頼されてることに喜ぶべきなのか、もう少し警戒心を持って欲しいって思った方がいいのか複雑なんだけど……」

「というより、それを利用するお前結構ズルいな……」

『手段を選ばないと言え』


空とパイモンが姿を消したと会話していると、『名前が来る』と口にした。それを合図に空とパイモンは二人でお喋りしながら待ってました、という雰囲気を咄嗟に作る。

その数秒後、お盆を持った名前が2人の前に姿を見せた。


「洞天前は寒かったでしょう? 温かい飲み物にしましたよ」

「へへっ、ありがとな! ……ん〜! あったまるぜ〜!」

「このお茶美味しい! 璃月の茶葉で作ったお茶なの?」

「ええ。私のお気に入りの茶葉なのです。気になるのでしたら手持ちがありますので、お渡ししますよ?」

「じゃあ遠慮無く。名前さんが淹れてくれたものと同じ味になれるように頑張るよ」

「分かりました。私にできることがあれば、いつでも仰ってくださいね」


ニコニコと嬉しそうな名前。そんな彼女を見て、実はそれといった用事がないことに再び心を痛めている空。お茶とセットで名前が持ってきたハスの花パイを夢中で食べているパイモン。未だに姿を消して様子を窺っている
割とカオスな状況である。


「そ、それで。なんでローブなんて被ってるんだよ」

「え、先に話した方がよろしいですか?」

「だって寒いわけじゃないんだろ? 気になって話に集中できないぞ」

「うっ、」


パイモンが純粋な性格である事を名前は良く知っている。なので、普段と違う格好の自分が気になって仕方ないのだろうと名前は納得する。

しかし残念ながら、パイモンは純粋な気持ちで言っているのではなく、に頼まれたため誘導しているだけである。空とパイモンは何故名前が洞天に引きこもったのか察しが着いていたからだ。

恐らくだが、ローブで全身を隠しているのが原因だと、2人は予想する。


「……わ、分かりました」


その原因が今、現れようとしている。フードに手を伸ばした名前だが、脱ぐことに戸惑っている様子。
目を泳がせて、迷っている様子の名前を空とパイモンはただジッと待っていた……その時だった。


「焦れったい」

「きゃあっ!?」


水の流れる音だけだった空間に、空ではない別の男性の声が響く。そして、名前の顔を隠していたフードが風によって脱げた。
突然の事に名前は悲鳴を上げ、フードから手を離してしまった。


「…………え?」


暫くの沈黙の後、パイモンが気の抜けた声を出した。それもそうだ。フードの中から出てきた名前の頭部には、彼女にはなかったはずの”なにか”があったからだ。


「耳……だな」

「うぅ……」

「あの形は……ネコか?」


そう。
名前の頭上にはネコに似た獣耳が生えていたのだ。彼女の頭部に生えた耳をジッと見つめる空とパイモンの視線に耐えているのか、名前の顔は真っ赤である。


「見ないでください……!」


2人の視線に耐えられなくなったのか、再びフードを被ろうと名前が後頭部に手を伸ばした。……だが、彼女がフードに触れる前に両手首を掴まれた。


「えっ!?」

「ほう、これを隠す為に篭もっていたわけか」


名前の両手首を片手で掴む人物。それは今まで姿を消して潜んでいたである。名前の反応を見ると、本当にが自身の洞天に入っていたことに気づいていなかったようだ。

の金色の様な瞳は名前の頭部に生えた耳を捉えている。その視線に名前は更に顔を赤くした。


「うぅ、だから見せたくなかったのに……」

「なんでだ?」

「だってこんな情けない姿……仙人としての威厳がなくなります……」


名前も名前なりに仙人であることに対し誇りは持っている様子。しかし、今の姿はその威厳の欠片もないと思っているようだ。恐らく元に戻るまで引きこもるつもりだったのだろう。


「そうか? オイラは結構似合ってると思うけどな!」

「お世辞をありがとうございます、パイモンさん……」

「なんで落ち込むんだよ!?」

「全然変じゃないし、気にしないでよ」

「無理ですぅ……」


涙目になりながら空とパイモンの言葉に受け答えしている名前。早く隠したくてたまらないらしい。


、そろそろ放してあげたら? 名前さんもう限界だよ」

「……」


空に言われ、は名前の拘束を解く。解かれた瞬間、名前は後頭部のフードに手を伸ばした……が。


「ひゃあっ!?」


なんとは名前が着用していたローブを、引き剥がすように奪ったのだ。が名前からローブを奪ったため、漸く彼女の全身が露わになった。


「……あれ、ネコの尻尾?」

「〜〜〜っ!!」


名前の背後から見えた、ゆらゆらと動く何か。それは明らかにネコの尻尾であった。名前は本来の姿が鳥であるため、普段であればその位置には鳥の尻尾が存在している。しかし、今はネコの尻尾しかなく、どうやら置き換わっているらしい。


「っ!?」

「わっ、ふわふわしてるぞ! 本物みたいだな!」

「さ、触らないでください……っ」


パイモンに頭……正確には耳を触られ、どこぞの半人半仙のような事を言っている名前。しかし、言葉と裏腹に顔を赤くして気持ちよさそうな表情を浮べている。彼女の様子を見てパイモンは止めるどころか、その柔らかさを堪能しようと撫で続けた。


「して、なんでこうなったのだ?」

「そ、それが……」


に問われ、名前は渋々といった様子で説明を始めた。


「え、敵の仕業だったの!?」

「はい。いつも通りに退治していたのですが、消滅前に悪足掻きを受けてしまい……」

「それがネコ耳とネコの尻尾だったのか……」


どうやら仙人の威厳がないというのは、妖魔を退治する事を日常としている名前がそれの攻撃を受けたから、という意味だったらしい。彼女にとってそれは恥にあたるようで、この姿は惨めそのものであるようだ。


「お前は治癒が得意なんだろ? 治せたんじゃないのか?」

「試したのですが、まったく効果が無く……」

「名前の力で治せないなんで、一体どんな敵だったんだ!?」

「大したことの無い妖魔でしたが、恐らく対象の状態を異常にすることに長けていたのでしょう。それも、身体の異常とは別の概念に位置する類いのものかと」

「そんなものがあるんだな……」

「なので、解決策が見つかるまで隠そうと思っていたんです……」


そう言って項垂れる名前の心情を表すかのように、彼女の頭部に生えた耳は垂れ、尻尾も下がっている。元々名前はと比べて表情豊かだが、耳と尻尾のお陰で更に分かりやすくなっている。


「この我に隠し事とは……良い度胸だな」

「名前にだって言いたくないことの1つや2つあるだろ!」

「こやつが隠し事をすることは後々面倒な事に発展することが多い。だから隠し事をせず全てを話すようにと言い聞かせていたはずだが?」


どうやら名前は、過去に様々な隠し事を行ってはを困らせたらしい。その隠し事は主に彼女の命に関わるものだったようだ。


「こ、これは死に繋がるものではないわ! 確かだから信じて!!」


癒やすことを得意とした名前だからこそ、現在自分の身に起きているものが命に関わるものではないと断言できる。


「確かに、ただ耳と尻尾が生えただけで命に別状はないと思うよ」

「ただ可愛いだけだな!」

「もうそれはいいですから……っ」


パイモンの言葉に再び羞恥心が戻ってきたのか、顔を赤くした名前。そんな名前をは一度見た後、空へと視線を移した。


「お前の言葉を信じよう。……ただし」

「ひゃっ!?」


はパイモンと戯れている名前の腕を引き、自身の胸へと閉じ込める。名前は自分を閉じ込めたの顔を振り返り見上げた。


「命に関わろうが関わらまいが、隠し事は嫌いだ」

「うっ、よく知ってます……」

「なら話は早い。……お前達」


が空とパイモンに視線を移す。パイモンは「何だ?」と言いたげに首を傾げ、不思議そうな顔を浮べている。


「依頼はこれにて終いだ。ご苦労だったな」

「え、依頼って何の事? それに、空さんとパイモンさんの用件は」

「報酬が欲しいのなら後日望舒旅館へ来い。そこで話を聞いてやる」

「ちょっと、私まだ二人から何も聞いてな」

「早く出て行け」

「ねぇってば、んむっ!?」


何か言いたげな名前の言葉を態と遮り、空とパイモンに出て行けと言う。しまいにはその手で彼女の口を塞いでしまった。どうやら名前はここまでが話したというのに、空とパイモンは実は用事などなかったこと、が企てたことだったことに気づいていないらしい。


「分かった。ほどほどにね、

「え? 何の事だ?」

「ほら行くよ、パイモン」

「あ、おい! 待てよ〜!!」


空がパイモンを連れて洞天を出て行った。その背中をに口を塞がれながら見送ることしかできなかった名前。二人の気配が洞天から離れた事を確認したは、漸く名前の口から手を離した。


「ぷはっ、ちょっと! 2人は私に用事があったのに、どうして帰したの!?」

「元よりやつらはお前に用事はない」

「……え?」

「お前が我を拒絶したから協力して貰ったのだ」

「……という事は。まさか、私を騙していたの!?」


に言われ、漸く状況を理解した名前。空とパイモンが自身の洞天に入った時、同じくも洞天内にいたということにやっと気づいたようだ。
会話内容は全て筒抜け……に隠そうとしたことがバレてしまったわけである。


「さて、と」

「ひゃあっ!?」


は名前を横に抱えると、洞天内を歩き始めた。彼も名前の洞天内部については良く知っているため、どこが何の為の部屋なのか把握している。

そんな彼が名前を抱えて入った場所……そこは寝室である。は名前を寝具の上に優しく下ろした後、彼女の上に跨がった。


「仕置きの時間だ。無駄な抵抗はしないように」


金色の瞳は獲物を食らう猛禽類の如く。薄暗い部屋にその瞳は怪しく輝いていた。その瞳に囚われた捕食者は、諦めたように笑みを浮べ、上から降ってきた唇と、自身の衣服に触れた彼の手を受け入れた。



「名前さん、無事だといいな……」

「え? なんでだ?」

「多分パイモンが理解するには早いかな」

「なんでだよ! 勿体ぶらずに教えろよー!!」






猫の日遅刻!!(泣)


2023/02/23


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