兄妹を見て重ねるもの



あの後、拠点にて松本と合流。そこには魂魄の兄妹もいた。
少し前に妹の方が消えた、と連絡があったが、無事見つけられたようだ。
斑目については街を監視するため、その場にはいなかった。


「隊長、実は1つ気になる事があるんですが……」


俺は戦闘した破面もどきについて共有しようと思ったが、松本から気になる事があると言われた。それも、敵……破面もどきの出方に関連していると思うらしい。
その内容が気になった俺は、先に松本の話を聞く事にした。


「最初に?」

「ええ。日付や時間から考えて、1番最初に破面もどきに遭遇したのが、唯ちゃんの可能性が高いんです」


姿を消した魂魄の兄妹の妹、唯はあの公園で発見したそうだ。そこで松本は魂魄の兄妹の兄、翔太から新たな情報を聞いたそうだ。

それは、あの破面もどきに襲われていた唯を置いて、翔太が逃げたという事だった。


「でも、あの子はどうやって助かったんですか?」


だが、そうなると次に疑問が浮かぶのは、綾瀬川が言った通りの内容……今こうして目の先にいる唯の存在だ。虚にとって魂魄は食料。彼奴らが魂魄を見逃すとは思えない。
つまり、松本の話が本当なら唯はその時点で破面もどきに喰われているはずなのだ。


「それが、まだ分からないわ。本人も何も覚えていないようだから」

「唯……」

「ごめんなさい」

「日番谷隊長はどう思います?」

「……隊長?」


覚えていない、か。
ジッと唯を見ていたが、やはり気になる。先程見た破面もどきが魂魄に変身していたことと、松本から聞いた、破面もどき襲われたのは唯が先だったという点を考慮すれば……。


「……そう言う事か」


点と点が1つになった、ってやつか。
はっきりとした事については、後ほど技術開発局に回す事にするが、新たな事実であることには間違いない。

俺は分かった点について、松本と綾瀬川に共有するため口を開いた。


「俺の方でも1つ分かった事がある」

「さっきの話に関連する話ですか?」

「ああ。どうやらこの破面もどき達は、人間の魂魄に変身することができるようだ」

「えっ!?」

「やつらは人間の魂魄に変身することで霊圧を隠し、戸魂界の監視の目を逃れていたんだ。恐らく、変身した姿で人間や魂魄に近付き相手を油断させ、その霊力を吸収する。そこで得た霊力を使って増殖していく。しかもこの破面もどきは、1度に増殖することで大量の魂魄を吸収することが可能だ。短時間で恐るべき時間を蓄えかねない」


さて、これだけ説明すれば分かるはずだ。


「人間に変身……! まさかっ、」


気づいた様子の松本が振り返る。その先にいたのは、唯だ。


「あ、あたし……っ」

「なんだよ! 唯はそんなの関係ねェ!」

「お兄ちゃん、」


ま、大切な妹を疑われているのだから、当然の反応だ。
……翔太の反応は、過去に名前が戸魂界から消えた記録を初めて見た俺とよく似ている。

俺の場合、当時名前は犯罪者と共に姿を消した存在。周りからは「元死神の無法集団」「所在も思想も一切不明」と誰もが言っていた。疑われるのではなく、そういう存在なのだと既に言われていた。


「ごめん翔太。まだそうと決まった訳じゃないんだけど」

「……そうだな」

「隊長?」


名前が消えた時の俺は、まだ死神ではなかった。
だから、名前が危機にあっていた現場を偶然目撃していたとしても、何もできなかった。

……こうして死神になる決意をしたのは、消息不明になった名前について知りたかったという想いもあった。


「止めろ!!」


唯を抱きしめ、俺から守ろうとする翔太。
……疑いは晴らすべきだ。この先、どう転ぶか分からない以上、現状分かっていることを材料にはっきりさせなければならないのだから。


「いやあっ!!」

「このっ、うわあああっ!!」


俺は斬魄刀を抜き、魂魄の兄妹に近付く。
怖がる唯を見て、翔太は俺を止めようと突進する。それを俺は難なく躱す。

……俺が今からやろうとしていること。それは魂魄だ。
ただの魂魄であれば魂葬できる。ただし、できなければ___


「きゃあっ!!?」

「唯っ!?」

「魂葬できない……!?」


……魂魄ではない、という結論になる。
結果、唯を魂葬することができなかった。それはつまり、唯はただの魂魄ではない。


「唯!」

「お兄ちゃん、あたし何も知らないよ……!」

「隊長、」

「やはりな。破面に何かされているな」


そして、あの破面もどきによって魂魄ではなくなってしまっている、と言う事になる。……俺の考えでは、あの破面もどきの分身の1つだと思っているが、さてどうなのだろうか。


「それじゃ、」

「残念だが、この子がいつ正体を現わすのか、危険な存在であるのは確かだ」


それぞれの報告がまとまったため、元々考えていた唯について、技術開発局に調べて貰う事になった。
時間が惜しいため早めに解析してほしいことを伝えた。明日には分かるといいんだが。


「さて、結果が出るまでの間だが」


浮竹と技術開発局の奴らとの通信が終わった後、結果が出るまでの間どうするか、という話を振った。
ま、普通に考えればやれることは1つだ。


「その子は鬼道で作った結界の中に入ってもらう」

「なんだよ、それって閉じ込めるって事かよ! ダメだ、唯が可哀想だよ!!」


結果が判明するまで、逃げられないよう閉じ込める。今晩のように突然消えられても困るからな。
しかし、その事について翔太から反対だと言われてしまった。さて、どうしたものか。


「翔太、これは唯ちゃんのためなのよ。唯ちゃんはあの破面に何かされている。いや、もしかしたら狙われているかもしれない。だったらこれは、唯ちゃんを守る為だと思わない? 結界の中にいれば、敵は手を出せない。大丈夫よ、その間にあたし達が破面を倒しちゃうから! ね? あたし達を信じて」


そう思っていたが、松本が翔太を説得してくれた。松本は面倒見がいいんだろう。この場にいてくれて助かった。

……面倒見が良いといえば、名前もそれに入るんだろうな。ガキだった俺に対し、今目の前にいる松本と魂魄の兄妹のような振る舞いを名前はしていたのだから。


「ね、唯ちゃん。ちょっとの間、我慢してね」

「でもあたし、なんか怖い」

「唯……」

「うーん……あ、そうだ。これ! 唯ちゃんとのはちょっと違うかもしれないけど」

「わあ……!」


怖がる唯に、松本は数日前に雑貨店で購入した首飾りをかけた。その首飾りには、小さな笛がついていた。


「ごめんねぇ、こんなことしかできなくて。じゃ、結界の中で待っててくれる?」

「うん!」

「まあ……唯が良いなら」

「……ありがとう」


もし、この場に名前がいたら……。松本のような振る舞いをしていたのだろう。その姿が容易に浮かび、少しだけ寂しさを覚えた。

それと同時に、幼き自分の頭をよく撫でてくれたあの温もりが恋しくおもったのだった。






続きます

2023/10/14


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