水色の瞳


※捏造あり



「それじゃあ、阿散井も当分は浦原喜助の所か」

「ええ。なんだかんだ言って、あそこが気に入っているんじゃないですか?」


隊長の膝で寛いでいるその子みたいに!
松本がそう告げた後、口にした張本人と他二人、斑目と綾瀬川の視線が俺の膝に視線を向けた。ベンチに座る俺の膝には、現世に留まるようになってから一緒にいることが多くなった例の猫が寛いでいた。

現在俺達はとある公園で状況整理を行っていた。
この場にいない阿散井について話していた時に、急に松本が話を降ったのだ。


「今は此奴の話はいいだろ」

「はぁ〜い。んで、続きですけど、どうやらチャドに修行を着けているって話です」

「案外楽しんでいるのかもね〜」

「破面(アランカル)共の力を考えると、こちらの戦力も多いに超したことはないからな」

「で、こっちはどうします?」


斑目が俺に問いかける。
今回、現世に任務として派遣された組のリーダーを俺は任されている。指示を仰ぐのは当然の行動だ。

で、斑目の問いに対してだが……。


「聞くまでもねェだろ。俺達自身の力をもっと高めねェと、これからの戦いにも勝てねェ」


当然、俺達も修行だ。
限定状態では苦戦を強いられ、限定解除することで倒す事ができた。……しかし、それでも強いと思わざるを得ない相手だった。

このままでは勝つのは厳しい。本格戦闘になるまでに力を付けなければ。


「そうですね。苛つくけど、破面達の力は本物ですから」

「ハッ、上等じゃねーか。そうでこそ楽しい戦いができるってもんだぜ」

「如何にもあんた好みの展開ね」

「まーな。松本、テメェも技磨いとかねーと、生きて戸魂界(ソウルソサエティ)に帰れねーぞ」

「分かってるわよ。……あ、いけない! こんな時間! 早く行かないとお店が人でいっぱいになって、ゆっくり選べなくなっちゃうじゃない!!」


真剣に現実を受け止め、これからの動きを話す3人の会話を聞いていたときだった。……突然、松本が別の話をし始めたのは。


「なんだ? お店って」

「あたし、街の様子を見てきますね! 買い物……じゃなかった、何か変わったことがないか常に辺りに気を配っておかないと!」

「……買い物っつったろ」

「じゃあ隊長、いってきまあ〜す!!」


如何にも嬉しそうな声音でそう告げると、松本は走って行ってしまった。



「……あの野郎、全く人の話を聞く気がないな」



こちらに背を向け走り去る松本の背中が小さくなる姿に苛つきながらも、行ってしまったものは仕方ない。


「はぁ、仕方ねェ。とりあえず今日は各自、自由に行動しろ。見回りでもよし、修行でもよし、だ」

「了解」

「うす。……んじゃあまずは、腹ごしらえとしようぜ、綾瀬川」

「いいね、賛成。それじゃあ日番谷隊長、ぼく達はこれで」


綾瀬川と斑目は食事にするようだ。
俺は特に腹が減っていないし、見回りにでも出るか。……松本のやつが大人しく見回りしているとは思えねーしな。


「おい降りろ。俺はもう行く」


まだ膝の上で寛いでいた猫を下ろし、俺はベンチから立つ。強制的に膝から降ろされた猫は、彼奴に似たあの瞳で俺を見上げた。


「じゃあな」


そう一言告げ、猫に背を向けた。……そのまま公園を去ろうとしたのだが。


「なんで着いてくるんだよ……」


猫は俺の後ろを着いてきていた。猫は気まぐれな性格だ、と松本が言っていた。どうやら今は俺と一緒にいたいらしい。

……まぁ、今日は見回りだけの予定だし、突然虚が出ない限り大丈夫だろう。いつもは夕方辺りになれば急にいなくなる。時間帯的に夕方はもうすぐだ。それまでは一緒にいてやるか。


「しかなねーな。ほら」


仕方なく手を伸ばせば、猫は俺の身体に飛びつき、そして……。


「なんでそこに落ち着くんだ……」


俺の肩に乗った。それも器用に落ちないよう、バランスを保って。
片方の肩に乗られていたら重かっただろうが、マフラーのように首に巻かれたような形で大人しくなったため、重さは特にない。

……というより、思っていたより重くねーな。持ち上げたときは特に気にしていなかったけど、こいつ子猫か?


「まあいいか。落ちないようにしろよ」


そう声を掛け、俺は見回りへと向かうのだった。……想定外の存在を連れて。



***



「……!」


街を歩き回る事、数時間。
笛のような音が聞こえ、俺は直ぐさま伝令神機を取りだした。

……これは虚か?
なんだか妙だな……近くに松本がいるようだが、少し気になる。実際に確認しに向かってもいいだろう。

伝令神機を再度確認すれば、松本が現場に向かっていることが確認できた。普通の虚であるなら彼奴一人で十分だろう。


とりあえずは対処した彼奴に色々聞くか。そう思いながら移動していれば、いつの間にか日が沈み始めていた。つまり、夕方だ。


「お前、まだ帰らなくていいのか?」


未だに首元にいる猫にそう尋ねるが、こちらを見上げるばかりで動く気配はない。……そういやこいつ、全く鳴かないよな。別に猫はそこまで鳴くような動物じゃねーだろうけど。


「……!」


そう思っていたとき、笛のような音が消えた。……その数分後、霊圧を感知した。その霊圧は___破面に似ている。
だが、破面にしては霊圧が濁っているように感じる。……これは松本の報告を受けるより見に行った方がいいな。


「行ってくる。その猫のこと頼んだぞ」


俺は義骸丸を使って義骸から飛び出す。自分の義骸に仮に人格が入ったのを確認し、俺は猫について頼んだと伝えて虚が出現した場所へと向かった。……しかし、気になる霊圧だな。



「つまらねェ。準備運動にもなんねェぜ」



瞬歩を使って現場へ到着した時には、斑目が虚と戦闘しており、あっという間に終わらせた。


「ふん、一角の相手じゃなかったみたいだね」

「隊長! 弓親」

「虚の霊圧パターンが急に変わったので、急いで駆けつけたんだが……松本、油断しすぎだぞ」

「すみません……でも、この子が!」

「フンッ、ババアのくせに子供に叱られてやんの!」


そう言えば、松本の腕には少年がいる。よくみれば魂魄だ。……子供らしく生意気のようだが。
子供に呼ばれた言い方が気にくわなかったのか、子供を自分の胸に押しつけ締め付けている松本。……はぁ、とりあえず松本が満足に戦えなかった理由は理解した。


「それで……今のは破面?」

「ああ。だが、霊圧が濁ってたし、成体じゃねェなありゃあ」

「レベルはどうであれ、破面だ。藍染が送り込んだと考えるべきだな」

「意図的、か」


藍染……戸魂界を裏切った死神。
そして、藍染が裏切り者と知ったことで、思った事がある___名前は藍染に騙されていたのではないか、というもの。彼奴は被害者ではないかと思ったんだ。

何故なら、名前含む、当時の隊長格等が虚と断定されたのは浦原喜助が犯罪者として中央四十六室に逮捕されかけたから。浦原喜助が犯罪者とされたのかは……魂魄消失事件を起こした者だと言われたから。

その浦原喜助が犯人だと告発したのは……藍染惣右介だ。戸魂界の裏切りを考えれば、隊長格等と浦原喜助は藍染に利用されたと考えられる。


……話が脱線してしまった。
事実は本人達に確認しなければ分からない。これはあくまで俺の予想だ。口に出してはいけない___まだ、戸魂界は藍染の件が落ち着いていないのだから。


「ひとまず、戸魂界に報告する」

「それじゃあ、この生意気なガキ魂葬しちゃいますね」

「魂葬ってなんだよ、おばさん」

「おばさんなら良いと言った覚えはないんだけど?」

「待て、松本。あの破面の事をそいつにも聞きたい。魂葬するのはそれからだ」

「えー。まぁ隊長がそう言うなら」

「へー、お前隊長なのかー」

「そうだ」

「信じらんね! 俺と歳かわんねーじゃん!」

「やっぱり魂葬してやろうか」


……はぁ、この魂魄の相手は疲れる。
とりあえず移動するか。もう此処にいる理由はないしな。それぞれ義骸を回収するため移動する。先に斑目・綾瀬川の義骸を回収し、次は俺の義骸の回収へ向かった。


「ん? あいつは帰ったのか?」

「彼奴って?」

「あの猫のことだ。ま、時間も夜だし、いなくなっても変な話じゃないか」


そう思いながら、俺の義骸に入っていた仮の人格に終わったことを告げようとした。


「は? 俺が虚の元へ向かった方向に逃げた?」


だが、俺の義骸に入っていた仮の人格によると、あの猫は俺が現場に向かって数秒後、俺の後を追うように走り去ったのだという。


「あの猫、死神が見えるのか?」

「でも動物は人に見えないものが見えるって言いますし。猫もそれに該当するんじゃないんですか?」

「……そういうことにしておこう。だが、もしあの場にいたとしたら……」

「大丈夫だと思いますよ。あんなに派手に物音立てていれば、流石にびっくりして逃げてますって」


松本は俺よりも動物関係に詳しいようだ。その点に関しては松本の意見に耳を傾けよう。
松本の言葉通りだろうと受け取り、俺は義骸に入った。
……何故、ただの猫に対しこんなにも心配してしまうのだろう、俺は。

その考えを吹き飛ばすように首を振り、松本の義骸の回収へと俺達は向かった。



「……さて。この件をお前はどう解決するのか、見物だな」


その場を去る俺達を見る鋭い水色の瞳に気づかないまま。






続きます

2023/10/1


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