心を盗むプロはどちら?


※名前変換は『名前』のみ カタカナ推奨
※捏造てんこ盛り



「リネの事なんて、もう知らないっ!!」

「名前っ、待ってくれ!」


制止の声を無視し飛び出し、彼に会わず何日の時間が経過しただろう。
フォンテーヌ廷のとある場所。人気がないのにここから見える景色がいいからと、密かに自分だけの秘密の場所にしている。

此処に私が度々訪れていることを彼と、彼の妹も知らないだろう。だって教えていないもの。



「はぁ……どうしよう」



それは些細な事だった。
リネはフォンテーヌでは知らない人を探す方が難しい程、有名なマジシャンだ。その妹、リネットは兄のアシスタントとして、リネと共に舞台に立つ。

マジックの一環として、ランダムな観客を選んでトリックを見せることがある。キラキラと輝く二人……特に、リネに対しては言えなかった。


『名前、お兄ちゃんのこと好きなんでしょ』

『り、リネット! なんで分かってっ』

『同じ女の子視点だからこそってことにしておいて』

『うぅ……っ。も、もしかしてバレてる?』

『気づいてないのは、本人とフレミネくらいだと思う』


リネットにはバレバレみたいだったから、リネにバレないように相談なんてやってたっけ。

どうしてリネは誰にでも優しいの?
どうしてリネはいろんな人を魅了してしまうの?

……その問いは、すべて自分も当てはまっているというのにね。その優しさに、魅力に惹かれているのだから。


『名前一途だよね』

『そ、そうかなぁ……』

『ホントだよ。お似合い』


あるときから、「お兄ちゃんがいないところがいいでしょ」とリネットから提案され、カフェで2人っきりで出かけることが増えた。所謂、女子会って奴だ。

その女子会こと恋愛相談にリネットを引き連れ回していたっけ。しかも、料金はすべて彼女が受け持ってくれるという優しさ。
もし私が相談を聞く立場だったら、うんざりすると思う程、私はしつこかったと思う。


「もうリネットに相談もできないかなぁ……」


今回、私がリネに一方的に感情をぶつけてしまったことで、こうして気まずさを感じているのだ。……言ってしまえば、これは『嫉妬』だ。

リネが他の女の子(リネットは除く。リネは妹と弟の事を大切にしているし、彼の兄妹は私も大好きだ)に優しくしているところを見たくない。今まではずっと我慢できていたけれど……ついに限界が来てしまったのだ。

この事がリネットの耳に入らないわけがない。こんなめんどくさい女なんて、リネも嫌だろうなぁ……。


「はああぁ……」


人気が無いことを良い事に、大きな溜息をつく。その場に膝を抱えて座り、目の前に見えるフォンテーヌ廷を眺める。

人気者のリネと、特にこれといったものがない私。小さい頃からの付き合いだけが、私達を繋いでいた。
……元々つり合うとか思っていなかったのに、何を期待しているんだろ。


「にゃあ!」

「っ!?」


色々考え込んでいた時だった。近くで何かが聞こえてビクッと反応してしまった。
聞こえた方へと振り返れば、そこには1匹の黒猫がいた。


「なんだ、ネコチャンかぁ」


おいで〜と手を伸ばせば、その黒猫は臆することなく近付いた。人懐っこいなぁ、このネコチャン。

両手で黒猫を持ち上げてみたが、暴れることなく私を見つめてくる。あれ、このネコチャンどこか見覚えあるような……。


「あ、君。リネのところでよく見るネコチャンに似てるかも」


彼が使うマジックに、ファニーキャット・ハットとファニーハット・キャットという、非常に紛らわしい名前のものがある。そのどちらにも登場する、どこかイタズラな笑みを浮べた可愛い黒猫。まあ、あれはマジック道具らしいけど。

この黒猫、猫のイメージを覆しそうになるほどに元気だ。だからなのだろうか、その黒猫がリネに似ている気がしたのは。


「ま、黒猫なんて珍しくないし、気のせいか」


リネの事を考えすぎてただけだ……そう思いながら、先程よりちょっと大人しくなった黒猫を、膝の上に乗せる。


「気を悪くしたらごめんね。私の友達……ううん、知り合いが黒猫のイメージが強くてね。君を見てたら思い出しちゃった」

「にゃう?」

「うん? もしかして気になるの?」


黒猫はジッと私を見上げる。アメジストを彷彿させるその瞳は、まるでリネに見られているよう……って、動物に対してそう思うなんて、私重傷じゃない……。


「……本当はね、知り合いなんて嘘。友達って初めに言ったけど……私は友達とは思ってないんだ」

「にゃ!?」

「君、人間みたいなリアクションするね……。もしかして、人の言葉が分かるのかな? ふふっ、なんてね。そんなわけないか」


黒猫の反応が面白くて、つい笑ってしまった。お陰で少しずつ落ち込んでいた気分が、私のいつも通りに戻りつつある。この黒猫のお陰だ。


「……私ね、その人の事が好きなんだ。その人はフォンテーヌでは知らない人がいないんじゃないかってくらいに人気でね。昔馴染みではあるけど、こんなにも名前が広まるなんて、小さい頃は思わなかったなぁ」

「にゃあ……」

「実はね、少し前に一方的に色々言っちゃって、ちょっと気まずいんだ。私が悪い事は分かってるんだけど、謝る気になれなくて……だからここ数日、ずっと此処にいるんだ」


もしかして、君のお気に入りだったかな?
そう黒猫に聞いてみたが、特に反応は返ってこなかった。偶然通りかかっただけなのかな?

黒猫は暫く私を見つめた後、私の膝を降りた。猫って気まぐれな性格って聞くし、私の話に飽きちゃったんだろう。遠くなっていく背中から目を逸らし、再び自分の膝を抱えるように座り直す。



「……もう、諦めちゃおうかな」



偶に小説とかにある、幼馴染みだけは特別みたいな様子が、リネにあっただろうか?
……正直、ショーの時に観客と接している様子と変わりが無い。望み薄ってやつなんだ。

ほら、よく聞くでしょう?
初恋は実らないって。私はそれに当てはまっていたんだ。



「うん、そうしよう! 潔く諦めて、新しい恋を探して……」

「ダメだよ」

「へ?」


新しい道を進もう!
そう意思を固めようとしたときだった。……聞き慣れた声が、背後から聞こえたのは。


「り、リネ!?」


ギギギッと、まるで錆びた機械が動くのような効果音が鳴っていそうな速さで、後ろを振り返る。そこには、私の頭の中を埋め尽くしていた人物、リネがいた。


「な、なんでここに?」

「魔術師にかかれば、君がどこにいるかなんて手に取るように分かるのさ」


……なんてね。
そう言ってリネは、トレードマークと言って良いシルクハットを手に取る。自然と目線がシルクハットに向いていた、その時だった。


「よーく見ててね、お嬢さん?」

「えっ!? そのネコチャン、さっきまでいた……!?」


シルクハットからヒョコッと出てきた何か。それはトランプではなく、今さっきまで私のお喋り相手であった黒猫だった。

その黒猫がシルクハットの中に消えると同時に、リネはそれを頭に被せた。……そして、先程の猫と同じアメジストのような瞳で私を見た。

……ま、まさか!


「もう感づいてるかも知れないけど、君がさっきまで話してた黒猫は僕だよ」

「は、えっ、えぇっとっ」


動物相手に嘘を伝える人などいるだろか。私はいないと思う。
だからこそ、今この状況に焦っている。


「おっと、逃げないでくれよ?」

「っ」

「やっと本当の姿・・・・で君の本音が聞けたんだ。……逃がさないよ、名前」


後に本人から言われたことだけど、女子会という名の恋愛相談に付き合ってくれていたリネットは、実はリネ本人だったらしい。それも、一番最初からだったらしい……。まさか本人に筒抜けだったとは……恥ずかしい。


「僕が何年の間、この日を待っていたか。名前は知らないでしょ?」


そして、片想い歴は自分の方が長い、とリネ本人から告げられてしまった私はどうしたらいいの……!?
今すぐリネットの元に行きたいけれど、妹に変装したリネを知ってしまった以上、容易に動けなくなってしまった。



「お互い気持ちが一緒なら、もう1つしかないでしょ?

「……えっと、私で良いの?」

「心を盗むプロである、この大魔術師の心を盗んだんだ。自信持って?」



自然な動作で救われた手。その手を優しく握るのは、リネの手。
そして、リネは私の手の甲に優しいキスを落とした。


「長い間、君の心を不安にさせてしまったこと、すまないと思ってる。許してもらえるなら、この魔術師に君の心を盗む許可をいただけないでしょうか?」


彼の空いた片方の手からポンッと現れ、こちらに差し出されたのは、1本の赤いバラ。赤いバラの花言葉は___



「そんなの、とっくの昔に奪われてるよ……っ」



___一目惚れ。
お互い一緒だったなんで、そんな偶然あるんだね。

赤いバラを受け取った瞬間、リネットとフレミネが現れて祝福の言葉を告げられること、その言葉に顔を赤くしてしまうことになる。






本心はドッキドキだったリネくん
好きな子の前では余裕でいたかった所を表現したかったけどあまりできなかった…

リネくんの元素爆破を見て、衝動的に書きました。
ひっそりサイレント修正するかも?


2023/8/20


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